ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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2021年12月20日

3件の記事があります。

2021年12月20日冬将軍、到来

大雪山国立公園 渡邉 あゆみ

お久しぶりです。東川管理官事務所の渡邉です。

待ち焦がれた冬将軍がやって来ました。

今年は寒波の到来がとても遅く、早くしないと冬が終わってしまう・・・とヤキモキする毎日でしたが、遅れてきた分、恵みのドカ雪。長靴の上から雪が入り込んでくるほど積もり、歓喜の朝となりました。

さて、現在アクティブ・レンジャー日記でも「アクティブ・レンジャー写真展2021-2022~北の自然の舞台裏~」を公開していますが、巡回展としてモンベル大雪ひがしかわ店2階でも写真とパネルを12月26日(日)まで展示させていただいています。

私たちアクティブ・レンジャーが業務中に撮影した、選りすぐりの写真を見に来ていただけたら嬉しいです。

アンケートにご記入いただいた方には「しおり」をプレゼントしています。

【十勝岳温泉登山口、満車の駐車場】

11月後半~12月初旬、安政火口周辺では冬山へ登るためのアイゼン・ピッケル歩行や雪崩埋没レスキュー、ロープワークなどの技術習得・動作確認、また体を冬山に慣らすために、北海道の山岳会の人々がたくさんの訪れ、夏のハイシーズンのようなにぎわいを見せます。

このとき、久しぶりの冬山の凍てついた風や荘厳な雰囲気に気が引き締まり、この季節を待っていたと奮い立つような興奮を覚え、全身の細胞が活気づいてくるのがわかりました。

生きている中で、こんなにも充実し、楽しいことは他にはない、と思えます。

先日、プライベートで十勝岳に登ってきました。

十勝岳の頂上付近はカリカリのアイスバーン、10本刃以上のアイゼンが必須です。

冬山の天気は変わりやすく、濃霧に巻かれると歩いてきたトレースを戻ろうとしても、アイゼンの小さな爪の跡は風ですぐに消されてしまいます。空も地面も360℃真っ白なので方向・平行感覚を失い、次の一歩の起伏さえわからないような状況に陥ります。

大雪山の冬は本当に厳しいです。いざという時、どう対処できますか?

冬山シーズンを待っていた岳人の皆様、短いこのときを目一杯満喫しましょう。

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2021年12月20日羅臼岳登山道を近自然工法で整備!!

知床国立公園 ウトロ 小泉尚也

山には雪が積もり、冬へまっしぐらの知床から

今回は今年の夏に羅臼岳登山道(岩尾別コース)で実施した、「羅臼岳登山道整備イベント2021」の様子をお届けします。

このイベントは202010月の大雨により、登山道のあちこちで確認されるようになった土壌侵食について、関係行政機関や地元山岳会が中心となって「登山道を直せないか?」と企画したものです。

登山道崩壊写真

↑石組み崩壊の様子。大雨により石が流れ、土壌が侵食されてしまっています。

今回の登山道整備は「近自然工法」で行いました。

「近自然工法」とは、できる限り自然界にある構造に近い方法で施工することで、自然環境を復元させるという考え方に基づく工法です。この方法で整備することによって、人が歩きやすくなるだけでなく、土壌流出を防いでくれる植物も回復。さらに、再生した植物が根をはることによって強度も増すという良いことづくめの工法です。

今回の講師として、地元で山岳ガイドも行っている知床山考舎の滝澤氏をお招きしました。

「さあ整備だ!」とすぐ山に行きたくなるところですが、まずは滝澤さんと一緒に近自然工法のことや羅臼岳登山道の自然環境のことをしっかり勉強です!

勉強会の様子① 勉強会の様子2

近自然工法では、まず、登山道が崩壊してしまう要因を考えます。登山利用者の足を運ぶ位置、周囲の自然環境の状況、降雨の際に登山道を流れる水の動きなど、色々なことを考慮する必要があり、とても想像力が求められる方法だということが分かりました。

さて、待ちに待った現場での作業です(僕は体を動かすのが好きです)。

登山道の整備を行うためには、まず、作業に使う資材や工具を目的の場所まで荷上げする必要があります。土のう袋で岩を運ぶ人、木材を担ぐ人、整備道具を持つ人、個人の体力を踏まえながら役割分担をします。

皆で汗だくになりながら資材を運びました。

荷上げ作業① 荷上げ作業2

荷上げ作業3

目的の場所へ到着して「さあ、道を直すぞ!」と意気込んでも、まだ始められません。

現場の状況をあらためて確認しながら、どのように登山道を直すと良いか、吟味に吟味を重ねます。ここで勢いで作業を始めてしまうと、後戻りできなくなるからです。

なぜ登山道が崩壊してしまうのか(侵食要因)、人はどのように歩くのか(登山利用者の動き)、周囲はどのような環境なのか(自然環境の把握)。事前の勉強会を思い出しつつ、参加者同士で色々と話しながら、頭をフル回転させて、整備後の仕上がり像を想像します。

考えている様子 考えている様子2

イメージが定まり、みんなの認識が共有されてから、いよいよ作業開始です。今度は、石を組んだり、木を差し込んだり、現地で足りない資材を調達したり、肉体をフル稼動させて大忙しでした。

石組をする様子 木を差し込む様子

木柵を作る様子 木を切る様子

資材を運ぶ様子

ですが、山のために汗をかいていると自然と笑顔になってしまいます。

完成です!

石組工作業前写真 石組工作業後

↑近自然工法(石組工)の施工前(左写真)と施工後(右写真)の登山道

木柵階段工の施工前写真 木柵階段工の施工後写真

↑同じく木柵階段工の施工前(左写真)と施工後(右写真)の登山道

7月と8月の計4日間(勉強会を含む)で延べ51名が参加して、合計8カ所の登山道を直すことができました。

一見すると登山道が崩れていたと分からないくらい自然に溶け込み、とても歩きやすい道になりました。

お披露目会

完成後は、それぞれが施工した登山道のお披露目会です。(作業はいくつかのチームに分かれて行いました。)

作業中、大変だったところ、工夫したところのPRをしたり、互いに良い点を褒めあったり、想いやこだわりを共有し合いました。愛着がわく登山道になりました。

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登山道整備のイベントは終わりましたが、整備して終わりではなく、その後、登山道は維持されているのかを確認することも大事なことです。今年は、その後も何度か大雨が降り、整備した資材が流されていないか心配でしたが、巡視の際に確認したところ大きな侵食はありませんでした。一安心です。

すでに羅臼岳は雪に被われ、冬ごもりしてしまいました。

春、山肌が垣間見え、雪解けの時期を迎えても、ちゃんとこのまま残っていて欲しいと心から願うばかりです。

普段、山からたくさんの恩恵を受けている私たちですが、少しでも山のために行動できたのではないかと嬉しくなるのでした。

今回ご協力いただいた皆さま、重い資材を担ぎ上げ、現地での作業、本当にお疲れ様でした。

雪化粧した羅臼岳

↑雪化粧された羅臼岳         (2021.11.8 撮影)

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2021年12月20日マリモ、救出作戦

阿寒摩周国立公園 阿寒湖 鉾之原頌吾

 みなさまはじめまして。12月から阿寒湖管理官事務所に着任しました、鉾之原(ほこのはら)と申します。

生まれも育ちも鹿児島県。春までは奄美群島の徳之島で、特別天然記念物アマミノクロウサギや1トン近い牛同士が戦う「闘牛」を見て過ごしていました。今まで雪国に住んだことがない、"北国初心者"です。

 少しでも早く北海道の自然を理解していけたらと思います。よろしくお願いします。

さて、みなさまは各種報道でご存じかもしれませんが、先日、阿寒湖のチュウルイ湾に打ち上げられたマリモの移動作業があり、環境省も地域の方と協力して作業を実施しました。

【経緯】

 12月1日に起きた強風により、チュウルイ湾の東側から中央にかけて約150メートルにマリモが打ち上げられているのを、釧路市教育委員会のマリモ研究室が2日に確認しました。地元関係者に報告し、7日に関係者で現場を見て検討会を実施した結果、「すぐに対応すべき」という結論に至り、9日に救出作業の実施が決定しました。   

              

    強風で打ち上げられたマリモ            打ち上げの様子を確認する地元関係者

【なぜやるの?】

 マリモ研究室の尾山洋一氏によると、「本来、マリモの打ち上げは、大きなマリモが湖岸で砕けてばらばらになることで再び湖に戻るプロセスの一つ」で、マリモが増える上で必要な現象なのだそう。しかし、今回の強風では、高波により普段は波が届く距離を超えた位置まで打ち上がってしまいました。そのため、湖に戻ることができない高さまで打ち上がったマリモを湖に返すための作業が必要になります。

 「自然の摂理なのだから放っておけば?」という疑問もあるかもしれませんが、元々球形のマリモが減少しているのは私たち人間の生活が原因の一つともされており、マリモの数をこれ以上減少させない観点からも、人の手で保護しようと救出作戦を決行するに至ったそうです。

【決行日】

 当日は地元有志の呼びかけで約50人が参加しました。

 マリモ研究室の指導のもと、地元漁協などから借りたポンプを使い、水流で湖岸のマリモを湖へ。水の中へ戻ったマリモがより効率的に沖に運ばれるよう、スコップやレーキなどを使ってかき出していきました。

 当日の最高気温は5度。吐く息も白い中、皆さま胴長を着込んで水と泥にまみれながら作業に没頭し、約6時間かけて無事作業を終えました。

              

    ポンプでマリモを押し流す作業              流したマリモを沖にかき出す作業

                   

          作業前                          作業後

【マリモ漂着の裏で・・・】

 ちなみに、マリモ漂着と同時に大量の水草(マツモ)も漂着していて、漁船1隻を使って回収作業も行いました。近年、球形のマリモの確認面積は減少傾向となっている一方、水草の繁殖範囲が増加してきています。水草が増えることでマリモが回転する波の動きが制限されるなどの影響もあるようで、水草がなくなることで、マリモの生育環境の改善が期待されているようです。

 今回の強風が阿寒湖のマリモにとってどのような結果をもたらすのか、注目です。

   

                   漂着した水草の回収作業

【作業を終えて・・・】

 アクティブレンジャーとして、初めて地域の方々と合同での保全作業となりました。現状確認から1週間。地元関係者に報告してからわずか2日間という迅速な対応となりました。湖面凍結前で急いでいたとはいえ、即座に対応した住民の方々のフットワークの軽さには頭が下がるばかりです。

 作業後には、阿寒湖観光協会の松岡尚幸理事長が「特別天然記念物のマリモは、地元にとっては"国宝"に近い。みなさんは"国宝"を守ったと思って胸を張ってほしい」と一言。

私も皆さんの"地元の宝"を守る手伝いができたでしょうか。全身に筋肉痛を感じつつ、少しだけ胸を張って帰途につきました。

今後も、このページを読まれる方々に喜ばれるようなアクティブレンジャー日記を投稿できるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします。

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