大雪山国立公園 上士幌
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2020年04月24日東大雪の山々
大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也
朝、青空に誘われて上士幌町内の住宅から外に出ると広くなだらかな耕作地の向こうに東大雪の山々が連なって見えました。頂に雪をまとっているのが遠望山や石山、ウペペサンケ山、ニペソツ山です。昨日(4月23日)標高の高い山では雪になったようで、少し白さを取り戻したように見えました。大雪山国立公園の山々は、もうしばらくの間、厚い雪に覆われています。
トムラウシ山の短縮登山口に通じるユウトムラウシ第二支線林道は、除雪など行われず自然に雪が融けるのを待ちます。登山口まで車が入れるのは早くても5月の終わりでしょう。カムイ天上やカムイサンケナイ川、コマドリ沢はもっと遅くまで雪が残ります。広い尾根が広がるカムイ天上ではしっかり地図読みをしながら進まないとササや灌木が立ちはだかって思うように進めません。融雪が進むと踏み抜きやぬかるみにも苦しめられます。
ユニ石狩岳や石狩岳の登山口に通じるシンノスケ迂回林道、音更川林道なども通行できるのは、やはり5月の終わり頃です。
然別湖周辺には、東ヌプカウシヌプリ(標高1,252m)など大雪山グレード2「大雪山の自然とふれあう軽登山ルート」の山が並んでいます。南ペトウトル山も西ヌプカウシヌプリも登山口まで通年、道路が除雪されていますが、例えば現在の東ヌプカウシヌプリの登山口は写真のとおりです。
今年は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため5月6日まで外出自粛が要請されています。山はまだまだ雪の中ですから、登山靴やレインウェア、そのほかの用具の手入れなどしながら夏山シーズン到来を待ち新型コロナウィルス沈静化を祈っています。
2020年03月27日クロスカントリースキーの働き
大雪山国立公園 上村 哲也
東大雪地域の登山口の多くは数キロから十数キロメートルの林道を経由しますが、冬は深い雪に閉ざされるため訪れる人はごくごく僅かです。
クロスカントリースキーを利用してそのひとつを巡視しました。クロスカントリースキーの用具は、スキー、ストック、靴も締め具もとても軽量にできていて、雪道や雪原を長い距離歩くのに向いています。ある程度の斜度であれば滑走面に刻まれた鱗の力を借りて登ってゆくこともできます。もちろん下り坂は滑って下ることができます。雪面が圧雪されているとよりスピードを増して行動できます。
巡視の目的は、スノーモビル乗入れ痕の追跡です。大雪山国立公園には、自然環境や動植物の生息・生育環境に悪影響を与えると考えられることから、スノーモビルなど車馬の乗入れを規制している地区があります。
詳しくは「北海道地方環境事務所の車馬乗入れ規制」を御覧ください。
この場所は決まって3月の下旬に乗入れが繰り返されてきました。台風などの大雨で林道が被災した後、一度は乗入れがなくなりましたが、また少しずつの乗入れが続いています。巡視の距離は往復で約30キロメートル、途中に標高差にして200メートル前後のアップダウンがあります。つまり、帰りにも登り返しがあります。行動時間は約7時間、防寒着や食料、飲料水、熊撃退スプレー、ヘッドランプ、衛星携帯電話などひととおりの日帰り装備を携えて入山しました。春分を過ぎ昼の時間が延びてきました。
森の中を行き交うエゾシカ、ウサギ、キタキツネたちの足跡、遠くから響くクマゲラやそのほかキツツキのドラミング、川面へ飛び込むカワガラス。野生動物たちの様々な営みが感じられます。幸いにも今年は目覚めたアイツの足跡は目にしませんでした。
山に春が近づいています。川の流れが増し、覆っていた雪が消えていきます。見慣れた登山口を過ぎ更に林道を詰め、目的地の数百メートル手前でクロスカントリースキー靴では川を渡れず引き返しました。スノーモビルのキャタピラ痕は難なく川を渡り奥へと続いていました。次回は長靴も装備に加えなければなりません。
どうか、野生動物たちの営み、快眠を妨げることなく、優しく自然とふれあってください。
2020年03月17日トムラウシ山短縮登山口からの日帰り登山者
大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也
十勝西部森林管理署東大雪支署がトムラウシ山短縮登山口に設置した入林簿の一部データを拝借して集計し、短縮登山口から日帰りでトムラウシ山を目指す登山者の行動を調査しました。
5月30日から10月12日までの記録のうち、1,247人の方が入山、下山の時刻まで記入してくださいました。単独の登山者が439人、2人パーティが346人(173組)、3人以上のパーティが462人(89組)。下山時刻から入山時刻を引き登山時間の平均を求めると、単独が9時間34分、2人パーティが10時間38分、3人以上のパーティが11時間44分でした。パーティの人数が多いほど登山時間が長いという傾向が窺えます。パーティ登山では体力などの最も弱いメンバーに合わせて速度や休憩を設定します。パーティの人数が多いほど登山時間が長くなるというのは十分考えられることです。
日帰り登山者の入山時刻と下山時刻の散布図をパーティ人数別に描いてみました。
入山時刻が4時から6時に集中しています。3人以上のパーティではもう少し狭く4時から5時に集中しています。登山時間が長くなるので入山時刻を早めているのでしょう。集中している部分に注目すると(それぞれ楕円で囲んだ部分)2人パーティの下山時刻は単独より約1時間、3人以上では更に遅いことが見て取れます。
単独の登山者では、入山時刻も下山時刻も幅広い時間帯に分布しています。まだ暗い未明の出発も、もう暗い日没後の下山も、気兼ねの要らぬ単独行の気安さでしょうか。6時間未満の登山時間(右下のグラデーションをかけた三角形部分)に単独の登山者が多く見られます。並外れた健脚であるのか、慎重に早めの撤退を決心したのか、入林簿からは読み切れません。
一方で遅い下山は、2人、3人以上のパーティが多く見られます。力を合わせ、あるいは励まし合いながら必ずや登り切ることを目指すのでしょうか。
以前に、パーティの人数と単独登山者の割合を紹介しましたが、トムラウシ山の短縮登山口と温泉登山口の集計も揃いましたので改めて紹介します。
1人 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | 6人 | 7人 | 8人 | 9人 | 10人以上 | 最多人数 | 単独率 | |
白雲山士幌側 | 278 | 163 | 29 | 15 | 16 | 5 | 0 | 5 | 2 | 5 | 13 | 28.5 |
白雲山鹿追側 | 563 | 462 | 118 | 61 | 19 | 11 | 3 | 4 | 3 | 15 | 100 | 21.3 |
東ヌプカウシヌプリ | 486 | 312 | 70 | 30 | 15 | 3 | 2 | 0 | 1 | 5 | 23 | 29.5 |
南ペトウトル山 | 66 | 37 | 8 | 6 | 3 | 3 | 1 | 0 | 0 | 3 | 60 | 19.6 |
ニペソツ山 | 214 | 41 | 12 | 4 | 3 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 16 | 49.1 |
ユニ石狩岳 | 52 | 27 | 5 | 6 | 2 | 1 | 1 | 2 | 0 | 2 | 16 | 24.2 |
十勝岳新得側 | 16 | 9 | 2 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 12 | 23.2 |
トムラウシ山短縮口 | 594 | 270 | 65 | 30 | 11 | 13 | 8 | 3 | 3 | 11 | 23 | 31.6 |
トムラウシ山温泉口 | 58 | 9 | 1 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 6 | 62.4 |
入林簿記入者のうち単独登山者の割合が最も高いのはトムラウシ山温泉登山口の62.4%でした。
また、登山者の多いトムラウシ山短縮登山口も、温泉登山口とニペソツ山に次いで高い31.6%となりました。この短縮登山口の単独率を月別に算出すると、7月から8月に低く、その前後で高いことが見られました。7月から8月はお盆休みや夏休みがあるなど友人や家族を誘いやすいのでしょうか。山開きや紅葉の頃も大雪山は美しい季節です。どうぞ幅広くお楽しみください。
月 | 率 |
5月 | 100.0% |
6月 | 33.3% |
7月 | 26.7% |
8月 | 28.4% |
9月 | 41.9% |
10月 | 63.6% |
平均 | 31.6% |
2020年02月07日山と森の静寂を大切に
大雪山国立公園 上村 哲也
今回は、自然を好み自然に興味を抱く登山者のみなさまに野生生物への配慮をいただきたいというお話しです。
東大雪地域には、登山口まで舗装路が続き広い駐車帯があり登山時間が短い、とある山岳があります。そうして山頂の少し先の岩場にナキウサギが生息しています。山頂を往復するだけでなく、その岩場まで足を延ばす方が大勢いらっしゃいます。
2019年3月30日(土)から11月2日(土)までの218日間を調査したところ、標準的な登山時間を1時間以上超える登山者が761人いらっしゃいました。入下山時刻を把握できた1584人の48%に当たります。滞在時間の最長は9時間余りでした。
ナキウサギの生息域に登山者が滞在したと考えられる日数は66%の143日に及びました。平均では3日に2日ですが、最長では18日間続きました。
生活の場所へ毎日のように人が訪れるというのは、ナキウサギにとって異常な状態とはいえないでしょうか。ナキウサギは静かで穏やかな暮らしを望んではいないでしょうか。
特に人数が多く22組49人が滞在した9月21日(土)について、滞在時間の分布を調査しました。
パーティごとに人数と滞在時間帯を調べ、時間帯を20分ごとに区切り、滞在人数を集計しました。8時20分から18時まで登山者が滞在し、11時20分から13時20分までは20人を超え、最多は12時から12時40分の32人でした。
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | ||||||||||||||||||||||||
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||||||||||||||||||||||
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||||||||||||||
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||||||||||||||||||||||||||
3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | |||||||||||||||||||||||||||||
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2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | |||||||||||||||||||||||||||
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3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | |||||||||||||||||||||||||||||
9 | 9 | 9 | 9 | 9 | |||||||||||||||||||||||||||||||
5 | 5 | 5 | 5 | 5 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||||||||||||||||||||||||||||||
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||||||||||||||||||||||||
3 | 3 | 3 | 3 | 3 | |||||||||||||||||||||||||||||||
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||||||||||||||||||||||||||
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||||||||||||||||||||||||||||
2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||||||||||||||||||||||||||||
2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||||||||||||||||||||||||||
0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 6 | 8 | 8 | 10 | 10 | 18 | 18 | 17 | 26 | 26 | 32 | 32 | 28 | 22 | 19 | 14 | 14 | 12 | 9 | 8 | 4 | 4 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 |
ナキウサギは草食動物です。岩場周辺の植物が食べ物です。冬を過ごすための貯蔵なのか、ベッドの巣材なのか、巣穴へ運び込む光景も目にします。ナキウサギの愛らしさに目を奪われ、知らず知らずに周囲の植物を踏みつけていませんか。掘り巡らされた巣穴の上をゴトゴトと踏み鳴らして歩き回ってはいませんか。
然別湖ではウチダザリガニが持つザリガニかび病(ザリガニペスト)によりニホンザリガニが見られなくなってしまいました。同じように、人にはなんともなくてもナキウサギは堪えられない菌やウィルスがあるかもしれません。人が持ち込んだものは、食べ物のひとかけら、飴の包み紙一枚も残してはいけません。
入山前にはトイレを済ませ、携帯トイレも準備しましょう。
観察は双眼鏡などを利用して十分に距離を置き、撮影には高い倍率の望遠レンズを用いたいものです。
ナキウサギに代表される愛らしい野生生物たちが、これからも穏やかに暮らしていけるよう優しい心遣いをお願いします。
2020年01月29日東大雪地域の入山者数推定
大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也
大雪山国立公園 東大雪地域には、現在通行止めとなっているものを除いても10箇所以上の登山コースが存在します。そのうちトムラウシ山短縮登山口、トムラウシ山温泉登山口、石狩岳登山口、ニペソツ山幌加温泉登山口では、登山者カウンターを設置しています。また、多くの登山口には森林管理署が入林簿を設置し、利用者のみなさんに記入いただいています。これらのデータを活用し、利用者の動向を調査しました。
調査から見えてくる一端をご紹介します。
なお、登山者カウンターは赤外線を利用する機械ですから誤りを生じることがあり、入林簿も全ての方に記入いただけているとは限りませんので、多少の誤差を含んだお話しであることをご理解ください。
2019年の夏山シーズン、東大雪地域全体の計測数、記入数は10,175人で、昨年の9,505人を上回りました。登山口別では、白雲山鹿追側が昨年には及ばなかったものの2,646人で最多となりました。ほかの多くの登山口ではいずれも昨年を上回り全体を押し上げました。
登山口 | 年間 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 |
十勝岳新得側 | 69 | 3 | 7 | 3 | 4 | 39 | 13 | ||
トムラウシ山短縮口 | 2,621 | 140 | 1,078 | 843 | 550 |
10 |
|||
トムラウシ山温泉口 | 119 | 14 | 40 | 47 | 16 |
2 |
|||
石狩岳 | 458 | 28 | 89 | 92 | 232 |
17 |
|||
ユニ石狩岳 | 215 | 3 | 47 | 73 | 87 |
5 |
|||
ニペソツ山 | 1,091 | 206 | 326 | 288 | 234 |
37 |
|||
白雲山士幌側 | 974 | 105 | 256 | 144 | 84 | 123 | 154 |
80 |
28 |
白雲山鹿追側 | 2,646 | 40 | 299 | 383 | 385 | 391 | 749 | 390 | 9 |
東ヌプカウシヌプリ | 1,646 | 53 | 184 | 285 | 208 | 250 | 365 | 295 | 6 |
南ペトウトル山 | 336 | 7 | 62 | 95 | 18 | 62 | 40 | 51 | 1 |
合計 | 10,157 | 205 | 804 | 1,305 | 2,278 | 2,173 | 2,466 | 900 | 44 |
表は、登山口ごとに年間、月別の計測数、記入数を示しています。登山者カウンターと入林簿の両方がある登山口では、登山者カウンターの計測数を利用しています。
初雪は平年並みで、その後の雪の訪れは遅く、白雲山などは10月も変わらず登山者が訪れました。8月は平年に比べ40%前後多い降水が観測されましたが、顕著な落ち込みにはなりませんでした。
東大雪地域には、ニペソツ山やトムラウシ山のように健脚向きの山がある一方、然別湖周辺のように初心者や家族連れで楽しめるところがあり、これらは春に雪が早く消えるのでシーズン初めの足慣らしにも適しています。
登山口 | 1人 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | 6人 | 7人 | 8人 | 9人 | 10人以上 | 最多人数 | 単独率 |
白雲山士幌側 | 278 | 163 | 29 | 15 | 16 | 5 | 0 | 5 | 2 | 5 | 13 | 28.5% |
白雲山鹿追側 | 563 | 462 | 118 | 61 | 19 | 11 | 3 | 4 | 3 | 15 | 100 | 21.3% |
東ヌプカウシヌプリ | 486 | 312 | 70 | 30 | 15 | 3 | 2 | 0 | 1 | 5 | 23 | 29.5% |
南ペトウトル山 | 66 | 37 | 8 | 6 | 3 | 3 | 1 | 0 | 0 | 3 | 60 | 19.6% |
ニペソツ山 | 214 | 41 | 12 | 4 | 3 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 16 | 49.1% |
ユニ石狩岳 | 52 | 27 | 5 | 6 | 2 | 1 | 1 | 2 | 0 | 2 | 16 | 24.2% |
十勝岳新得側 | 16 | 9 | 2 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 12 | 23.2% |
入林簿からパーティの人数を集計しました。ここでは、登山者カウンターのある登山口も入林簿のデータを利用しています。表は、人数別のパーティの数、最多パーティの人数、入林簿に記入された入林者数の合計に対する単独者数の割合を示しています。いずれの登山口でも単独登山者の数が最も多いという結果でした。
しかし、白雲山鹿追側コースは家族や団体登山の利用が多いと考えられ、総記入数のうち単独登山者の割合は21.3%でした。一方、ニペソツ山では49.1%でした。幌加温泉コースが長く険しい健脚向きであることで、友人などを誘いづらく単独での山行を決意させるのでしょうか。
ニペソツ山では、午前4時台の入山が最多で、日帰りの方は平均10時間余りで下山しています。日の出とともに入山し余裕をもって下山しようとする傾向が窺えます。登り1時間、下り40分と登山時間の短い東ヌプカウシヌプリでは、15時台の入山も見受けられました。天気がよい、空き時間ができたと気軽に訪れることができるのでしょう。
大雪山国立公園 東大雪地域の多彩な山岳をお楽しみください。
2019年11月07日特定外来生物防除・オオハンゴンソウ その後
大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也
今年、東大雪地域で抜き取ったオオハンゴンソウの数は1,026本でした。
花を付けた個体を根塊ごと掘りとる方法で駆除しました。要した活動時間は17時間35分、活動日数は14日でした。大雪山国立公園の東大雪地域の中で最も大きい生育地は、国道273号線の三国峠に近い道路脇です。757本を駆除、8日の13時間余りを費やしました。
既往文献を探したところ、「特定外来生物オオハンゴンソウの管理方法 ー引き抜きの有効性の検討ー」(大澤・赤坂 2009)を見つけました。「複数年にわたり、可能な限り根を残さないように引き抜き続けることで、オオハンゴンソウを根絶できる可能性がある」という記述があり、心強く感じます。
駆除活動で根塊を取り残すと茎や葉が再発生することが知られており、室内実験により、根塊は生重量2.4gの場合に50%の確率で再発生することが確かめられたそうです。大きさにすると太さ2.1cm、長さ2.1cmに相当するということで、もし野外でもこの大きさなら、見逃すことはないように思えます。
さらに、野外に調査区を設けて実験したところ、「オオハンゴンソウを地下部から引き抜き続けた結果、2 年間で開花茎の数は、もとの5%未満にまで減少した。」ともあります。これほど目に見える成果に出逢えるのならやりがいを感じます。
しかし、この後が大切です。「引き抜き開始から3 年目にあたる2007 年には、それまで殆ど見られなかった未開花茎が、観察初年度(2005 年)の開花茎数とほぼ同数観察された。」
つまり、土の中に眠っていた種子が発芽し始めたというのです。「開花茎が見られる場所では、たとえ全ての開花茎を除去したとしても、数年間はシードバンク由来の実生が発生してくることが予想される。」なかなかの手強い相手に腰を据えた活動が必要です。
今年は、ほかの業務と併せて立ち寄った際に2時間前後を充てて駆除を繰り返したので日数は多くなってしまいました。最終日が10月7日でしたから、大雪山の環境では結実期に入りかねません。来年以降は、集中して駆除にあたり9月中には終えたいところです。大きな生育地でも3日に収めたいところです。反対に僅かな生育地でも時間をおいて2度目の確認が欠かせません。
また今後、未開花茎の駆除も必要になるかもしれません。花に頼らず、茎や葉だけで同定できる目を養わなくてはなりません。
今年、開花茎を抜き切れたことで生育数と生育場所が把握でき、活動の日数や時間も業務の中に収められると分かりました。長い年数はかかるでしょうが地域根絶を目標にできると確信しています。
2019年09月27日特定外来生物防除・オオハンゴンソウ
大雪山国立公園 上村 哲也
すばらしい景観を永く保ってほしい大雪山国立公園ですが、これを脅かすもののひとつに外来生物の侵入があります。
オオハンゴンソウは北アメリカ原産。寒冷地に生育でき、大雪山国立公園にも侵入しています。
大雪山国立公園の中でオオハンゴンソウが花を開くのは8月半ばから10月初めまで。花があれば同定が容易なので駆除が捗ります。花が終わり種を散らす前に完了させたいところですが、様々な業務が集中する夏、駆除作業に充てる時間を確保するのは容易でありません。生育数の少ない箇所はほかの業務で立ち寄ったときに併せて行うこともありました。東大雪地域で最も生育量の多い三国峠近くではほとんど駆除できていませんでした。
大きく生長する個体は地中に芋のような太い塊を持っていることがありますが、これを掘りとると駆除できるのではないかと感じています。テコ付の草抜きを使いますが、ときにはシャベルが必要なことも。これまで、駆除した量を袋の数やおおよその重さで記録していましたが、効果を確かめるにはもっと正確な把握が必要でした。今年の夏は、東大雪地域における実態を捉えようと、生育場所、本数、重量を記録しながら抜取りを試みました。本腰を入れてみると気づくということもあるのか、生育数は少ないものの新たな生育場所が5箇所も見つかりました。
寒冷地でも生育するとはいえ、北海道の、それも標高の高い大雪山では、生育は遅かったり限られていたりするかもしれません。ほかの地域の状況に比べれば数は少なく、面積も小さいようです。今夏、抜き取った数は800本余り。まだ200本ほど残っています。二週間ほどのうちに抜ききりたいところです。
2019年08月16日してはならない。
大雪山国立公園 上村 哲也
大雪山国立公園を含む自然公園では、優れた自然の風景地を保護する、生物の多様性の確保に寄与することなどを目的に、「してはならない」行為が法律で定められています。特別保護地区内において火入れ又はたき火をすることもそのひとつです。
先日、大雪山国立公園東大雪地域の特別保護地区の中で、たき火の痕が見つかりました。周辺の枯れ枝などを集め燃やしたようです。一部に紙やアルミ箔も含まれていました。たき火は山火事の最大の原因とされています。周囲はハイマツ帯が隣接し、イワウメやコメバツガザクラ、ガンコウランほか、高山植生に囲まれた場所でした。山火事は、すぐれた自然景観が失われるだけでなく、滞在する登山者の生命も脅かします。山火事のおそればかりではなく、炎の揺らめきや煙の臭いを察知して野生動物の行動に影響を与えないでしょうか。ナキウサギやシマリスの生息密度が高いところでした。
昨年も同じ場所で小さなたき火の痕が見つかっていました。きれいに取り除いたつもりでしたが、僅かな痕跡が、後から訪れたものに我も我もと思わせるのでしょうか。たまりにたまった痕跡なのでしょうか。楽しむだけ楽しんで後の始末は何もせず、防火意識の低さが気がかりです。いつか取り返しのつかない事態を招くのではないかと不安です。時間をかけて取り除きましたが、岩や土には炭の色が残っていました。これきり、たき火への欲求など呼び起こさないで欲しいものです。
この規定に違反した者は、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」とされています。たき火好きの山仲間がいらっしゃったら教えてあげてください。我々も啓発に努めて参ります。
大雪山国立公園の特別保護地区は次のリンクで確認することができます。
2019年07月29日たまには山へ恩返しinトムラウシ
大雪山国立公園 上村 哲也
7月20日(土)、21日(日)、大雪山・山守隊が中心となってトムラウシ山のカムイ天上付近で実施した登山道整備イベント「たまには山へ恩返しinトムラウシ」に同行しました。
トムラウシ山のカムイ天上に延びる登山道は、2003年に新たに開削された区間です。それまでのカムイサンケナイ川を辿るコースは渡渉や登降を繰り返し、辛く難しいコースで事故も起きていました。
しかし、ササ原を切り開いたこの区間は融雪期や降雨直後にぬかるみがひどく、評判はよくありません。少しずつ整備を進めてきましたが一向に改善されません。ここは切れ目なく木道を敷きつなぐ方が、土が削られてぬかるみが作られることも抑えられるのではないか、そう考えられるようになりました。
このイベントは、参加者自らも長さ60センチや120センチの木材、釘、ハンマー、カケヤなどを分担して運搬します。登山口でトラックから降ろされた資材が、我こそと参加者の背負子に収められてゆきました。みなさん、意欲満々です。主催者の担ぐ荷が少なくなりバツが悪そうです。いえいえ、このほかに山守隊のみなさんは事前に何度も資材を担ぎ上げたと見聞きしました。
荷揚げは、普段、登山装備を担いで山に登るみなさんですから、それほど苦とはしません。難しいのは組み立てるための釘打ちと揺れ動かない安定した設置です。
枕となる60センチの角材に踏み板となる120センチの角材を4寸釘で固定します。4寸釘は長さ125ミリ、太さ4.6ミリ。厚さ6センチ×2枚をわずかに突き抜けさせます。突き抜けた先を叩いて曲げ、抜け止めにします。並の金槌では打ち込めません。重さが1キロを超える石頭鎚を用います。これが、いうことを聴きません。斜めに当たったり端に当たったりすると、太い釘も平気で曲がってしまいます。いくらか上手に打ち込むことができても、すぐに腕の力がなくなったりします。交代、分担しながら作業を進めました。
設置もまた難しい作業のひとつです。登山道は平坦ではありません。設置した木道のどこを踏んでもガタガタと動かないように調節します。根気よく丁寧な作業が求められます。
2日間に汗をかいた参加者は延べ37人。組み立てた木道は69基、敷き延ばした区間は約300mです。大雪山・山守隊のみなさん、参加された山好きのみなさん、お疲れ様でした。
今年も「アクティブ・レンジャー写真展2020-2021~北の自然の舞台裏~」を開催します。
北海道地方環境事務所に所属するアクティブ・レンジャー(自然保護官補佐)11名とアクティング・レンジャー(希少種保護増殖等専門員)1名が、国立公園や国指定鳥獣保護区、野生生物保護センターなどにおいて、業務を通じて撮影した写真を展示し、お気に入りの風景や美しい花畑、愛らしい動物たちを紹介します。
6月2日(火)から北海道海鳥センター(羽幌町)を皮切りに、ビジターセンターなど全14会場で開催します。お近くの会場の開催期間、開館日をお確かめの上、ぜひ足をお運びください。
7月1日(水)
12月27日(日)
この写真展では、アクティブ・レンジャー、アクティング・レンジャーの業務、取組みについても知っていただきたいと考えています。
会場には、写真の解説や業務を紹介する冊子を用意します。北海道の自然の素晴らしさと私たちが取り組む業務について紹介しています。お手にとってご覧いただき、お気に召しましたらどうぞお持ち帰りください。
新型コロナウィルス感染防止のため、各会場では消毒や換気など様々な対策を講じています。
見学の際は、マスクの着用や人と人との物理的距離の確保にもご協力ください。