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アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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大雪山国立公園 上士幌

92件の記事があります。

2019年02月06日タンチョウ総数調査

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

 

 タンチョウは、日本で繁殖する唯一の野生ツルで、全長140cm、翼開長240cmに達し日本最大級の鳥類です。夏期は湿原に分散して営巣・育雛を行い、冬は里近くへ移動し群れで生活をします。特別天然記念物であり、絶滅危惧Ⅱ類(VU)(環境省レッドリスト2019)でもあります。

 かつて、一時は絶滅したのではないかとまで考えられました。大正時代に十数羽が再発見され、地域住民が主体となって給餌が試みられました。1952年に釧路管内旧阿寒町と鶴居村で給餌に成功し、一斉調査で33羽が確認されたといいます。1984年には当時の環境庁が給餌など保護事業を始めました。NPO法人タンチョウ保護研究グループによると2017年度には1,600羽に増加、絶滅の危機から脱する目安の1,000羽を超えたとしています。

 しかし、現在のタンチョウは、かつての数羽のオスの血を受け継ぐもので、遺伝的多様性が失われている可能性があり、それが故に鳥インフルエンザなど何かの感染症がまん延したときに、また絶滅の危機を招くのではないかと危惧されています。そこで、生息域の分散を促し感染症のまん延を回避するため、給餌量の削減を段階的に進めています。

 さて、生息域の分散を確かめるにも、生息数の増減を知るにも、調査は欠かせないということで、NPO法人タンチョウ保護研究グループが行っているタンチョウ総数調査に参加してきました。長い間の調査の積み重ねにより、いくつもの生息地が把握されてきました。この日、タンチョウが集まる川べりで双眼鏡を片手に広く囲み、二人が川岸を歩き追い立て、無線で連絡を取りながら、飛び去った方角や数を共有し、カウントの重複を取り除きながら生息数を調査しました。こちらの気配を感じるとすぐに飛び去ってしまう個体もいますが、遠くまで行くことなく畑など見通しのよいところに降りてくれれば、成鳥、幼鳥を判別し、足輪がついていないか観察します。足輪があればより倍率の大きい望遠鏡を取り出して刻印された数字などを読み取ります。これはある年の春、まだ飛べない幼鳥を捕まえて雌雄や体重を観察、血液を採取し、足輪を取り付け、その後の生長や行動を見守っています。

 本グループの丹念な調査によって、最近になって、ひとつの細い支流が凍らずにタンチョウの餌場となっていることが分かりました。この日もとある場所で二家族、7羽を確認しました。地域の周辺をくまなく巡り、別の場所に飛来していた4羽を見つけましたが、元の場所へ戻ってみると二家族の姿がありません。二家族のうち一家族が移動していたのでしょう。このようにきめ細かく観察しカウントの重複を除きながら調査しました。

畑地の堆肥に集まるタンチョウ
 こちらは別の場所の調査時の風景です。成鳥となったタンチョウは、真っ白と真っ黒に塗り分けられ、その名の由来通り、頂を丹色(にいろ)に染めています。立ち姿、飛ぶ姿は優雅であり、鳴き声は高らかで、夫婦の息の合った舞いも見事です。そして、タンチョウそのものの美しさに加えて、彼らが集う汚染されていない川や湿原にはカエルや魚が棲み、それらの清らかな環境が美しい景観を織りなしています。本州に比べれば豊かな自然が広がっているイメージのある北海道ですら、このような環境は意外と少ないものです(本来、タンチョウは冬でも川が凍らず魚などの餌を得られる場所に生息するのですが、家畜用の飼料などを得られる農家や牛舎の周辺に生息する個体もいます)。彼らが自然な状態で生息できる環境を守り、次世代につないでいきたいではありませんか。

雪原にたたずむタンチョウのペア

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2018年11月30日ニペソツ山幌加温泉コースの復活

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

 ニペソツ山は標高2,013m、東大雪いちばんの鋭鋒です。深田久弥氏が「日本百名山」の執筆までに登高できなかったことからそこには選ばれていませんが、その後の著作で「申し訳なかった」と言わしめるほど、山容、展望、景観のよい立派な山です。けれども、選ばれなかったおかげで大勢の登山者が押し寄せることなく、じっとナキウサギとの出逢いを待つことのできる静かな山です。5分、身じろぎせず待っていればニペソツ山のナキウサギは愛らしく姿を現してくれます。5分の内に次々と登山者が続くことはニペソツ山では滅多にありません。

前天狗から望むニペソツ山の頂 2016年の夏、連続して接近した台風などの大雨によって、十六ノ沢登山口に通じる林道が崩壊してしまいました。その被害は大きく復旧の目途は立っていません。もう、ニペソツ山には登れないでしょうか。ひがし大雪自然館やひがし大雪自然ガイドセンターなどに多くの問合せが寄せられていました。

 ニペソツ山にはもう一つ登山コースがあります。幌加温泉コースです。十六ノ沢コースの8時間に対して10時間余り(*1)と登山時間が長いことが敬遠されて利用されず、10年近く整備されることなく笹やハイマツが被っていました。この幌加温泉コースが地元関係者の努力により復活することになりました。入口となる2kmの作業道が整備され、登行を妨げていた笹やハイマツが刈り払われ、簡易トイレや携帯トイレ回収ボックスが設置され、道標が整備されました。

 上士幌自然保護官事務所は、赤外線を検知して登山者の通過日時と人数を記録する登山者カウンターを登山口に設置しました。西暦標高年2013年の十六ノ沢コース、2,648人(*2)には遠く及びませんが、2018年夏山シーズンに千人余りの登山者が訪れました。幌加温泉コースは行程が長く標高差も1,300m余りと大きく日帰りで往復するには健脚が求められます。自身の体力をしっかり見極め、例えば下山が日没前になるように綿密な計画が必要です。9月下旬ともなれば日の出から日没までは12時間ほど、登山口から中腹辺りまで森の中を歩く東大雪の山では、日が落ちれば途端に暗くなってしまいます。足下が暗くなれば転倒の危険があります。ありがたくない野生動物との遭遇も起こりえます。

登山道の途中、三条沼 ニペソツ山を訪れる登山者はそこのところをよく心得ていて、それが登山者カウンターのデータにも表れていました。次の図は、日別の入下山時間帯分布です。バブルの大きさが通過した登山者の人数を表しています。早朝の下山や遅い入山、日出没の線から大きく外れているのは恐らくはシカなど野生動物を検知したものでしょう。登山者が、日のある内に行動時間を納めようとしていることがうかがえます。

ニペソツ山幌加温泉コースの日別時間帯分布

*1 北海道新聞社刊 夏山ガイド第3巻による。

*2 上士幌町観光協会設置の登山者名簿による。

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2018年08月14日南沼汚名返上プロジェクトの傍らで、せめてものお願い事

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

 南沼汚名返上プロジェクトでは、南沼野営指定地周辺のし尿ごみゼロを目指しています。さらに大雪山国立公園全体として携帯トイレの普及に取り組んでいます。

 しかし、今日はそれは一旦横に置いといて、携帯トイレで自身の排泄物をザックに入れ、あるいは外にぶら下げようとも、持ち帰ることがどうしてもどうしても受け入れられない方たちへのせめてものお願い事です。

 ウンコをするときは穴を掘り、後で掘った土を被せ埋めてください。本州では標高2,500m以下、深さ10センチと紹介されているでしょうか。北海道は緯度が高く気候が冷涼なので森林限界が違います。標高1,500m以下を目安にしてください。バクテリアが活発であると1か月ほどでウンコは分解され臭いがなくなり見かけも土と変わらなくなるそうです。地表に残したままだと雨に溶けて川に流れ入る恐れがあります。片手で扱えるシャベル、あるいはスコップを装備に加えてください。

 また、ティッシュペーパーの多くには僅かにプラスチックが含まれていて、強い雨に晒されても容易に溶け消えることがありません。使用済みの紙は持ち帰りましょう。持ち帰りには、冷凍向けの密閉袋などが厚手で臭い漏れを防ぎ便利です。

 登山道はもはや人間社会の領域です。悪臭を漂わせ景観を損ねて他の利用者に迷惑を及ぼさないよう、安全を確保しつつも登山道から距離を置いて位置を定めましょう。下流の方に迷惑とならないよう川や水場の近くは避けましょう。岩場はバクテリアの活動が活発でなく適切ではありません。

 植生に踏み込む場合はそれが稀少な植物でないか、そうでなくても踏み込みによって枯死することがないか観察しましょう。登山道に被れば煩わしい笹も、その根は登山道の侵食を防いでくれています。

 携帯トイレを使うのであれば、同じパーティのメンバーに一時通行止めにしてもらうとかポンチョや傘で隠すとか登山道でいたすこともできるでしょう。

「人間も生物の一員として野糞をすることは自然の摂理だ。」と仰る方がいました。

 しかし、南沼野営指定地がし尿で汚されているとされ、我々が調査を始めてから周辺で見つかるし尿のほとんどは人間のものです。熊のそれは見たことがなく、わずかに鹿やナキウサギ、狐やオコジョらしいものが見られるくらいで、高山植物が動物の排泄物を栄養分としてほとんど利用していないことは明らかです。利用しているのは蝿やコガネムシなどでしょうか。

「人間の大便はそのまま放っても自然界にインパクトを及ぼさない」と考える方は、例えば熊や狐のように蜂や蟻、コガネムシ、コケモモの実や葉や根などを食して排泄してください。その頻度も野生動物に倣いましょう。より、自然界の法則に近い状態を再現できます。

 ところで、ヨガの達人は心臓の鼓動さえ止めることができるそうです。極めれば3日間くらい便意を抑えることができるかもしれません。あるいは1錠で24時間、2錠で48時間、便意を抑える薬はないものでしょうか。

 携帯トイレを使い持ち帰っていただきたいのがいちばんですが、せめて土に埋め、紙だけは持ち帰りいただきたいというお願いでした。

 写真は本文と関係ありません。トムラウシ山への登山道、コマドリ沢の上の岩場で納めた一枚です。可愛いアイツが登山道にまで顔を出してくれています。

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2018年04月12日トムラウシ南沼汚名返上プロジェクト

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

「初夏の五色ヶ原」

初夏の五色ヶ原 初夏、まだ残雪が多く残る頃、パークボランティアのみなさんと沼ノ原クチャンベツ登山口から入山し、ヒサゴ沼野営指定地に泊まってトムラウシ山まで登山道整備に赴いたときの風景です。五色岳山頂を間近にして、来た道を振り返ると、大沼を抱えた沼ノ原越しにニペソツ山を望むことができます。

 五色ヶ原は、雪の消えるそばから高山植物が咲き乱れ、季節が移ろえば次々と花が代わり、紅葉期にも華やかに色づいて訪れる人の目を楽しませてくれます。

 残念ながら、現在、沼ノ原クチャンベツ登山口へ通じる層雲峡本流林道は、平成28年に台風などの被害を受け通行止めが続いています。

「トムラウシ南沼汚名返上プロジェクト...トムラウシ山では携帯トイレを使いましょう。...」

 上士幌自然保護官事務所は、「トムラウシ南沼汚名返上プロジェクト」に取り組んでいます。し尿ゴミの調査と回収

 トムラウシ山頂直下にある南沼野営指定地の周辺では、草陰や岩陰にし尿ゴミが散見され、野営地から物陰まで経路の高山植物が踏みつけられています。現状に衝撃を受け、自然保護官と十勝総合振興局の呼びかけに応えて多くの協力が集まり、平成29年4月にこのプロジェクトが立ち上がりました。新得山岳会、十勝山岳連盟、山のトイレを考える会、十勝西部森林管理署東大雪支署、新得町、上川総合振興局、十勝総合振興局(事務局)とともに、南沼野営指定地周辺において、携帯トイレの利用を促進することでし尿ゴミを無くし、踏み分けられたトイレ道の植生を復元することを目指しています。

 夏山シーズン、トムラウシ山には、麓の短縮登山口やトムラウシ温泉登山口から3,000人を超える登山者が登ります。表大雪や十勝岳連峰から縦走する登山者も多くいます。平成29年7月下旬から9月末までの限られた期間ですが、自動カメラを設置して設営されたテント数を調査したところ71日間に324張りを数えました。野営指定地で7回行ったアンケート調査に基づくテントひと張りあたりの平均宿泊人数から試算してみると調査期間中に約700人余りが宿泊したと考えられます。ただし、この調査は夏山シーズンを全ては網羅しておらず、悪天候による19日の欠測日を含んでいますから、実際にはこれ以上の人数になります。携帯トイレの普及啓発

 南沼にはトイレがありません。携帯トイレを利用するためのブースが1基だけ置かれています。し尿ゴミが無くならないのはブースが足りないからなのか、携帯トイレそのものが知られていないのか。プロジェクトでは、アンケート調査、利用者数調査を行い、携帯トイレの増設が必要か、その設置は、維持管理はどのように実現していくか、検討を積み重ねています。平成29年のアンケート調査では、84%の登山者が携帯トイレを装備していました。新聞などに大きく取り上げられ高い数字となりました。今後も普及啓発に力を注いでいきます。

トイレ道の植生復元 踏み分けられたトイレ道では、土壌や種子が流れ出るのを食い止め植生を復元しようと、周囲の植生に影響がないヤシ繊維のネットを敷きしました。多くの参加者が協力して資材を運び上げ作業しました。今後も経過を観察し、修繕や改良を施し、施工箇所を増やしていきます。

 登山者の皆様には、どうぞ高山植物の植生域に踏み込まず、汚物や使用済みの紙はお持ち帰りいただきますよう協力をお願いいたします。

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2017年02月09日シマフクロウに棲み家の森を戻そう

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

大雪山国立公園の美しい景観を保全するほか、希少な野生生物を保護することも私たちの大切な仕事です。

中でもシマフクロウは、巣となる大木があった森は切り開かれ、エサの魚が住んでいた川はダムなどで分断され、生息地を奪われて一時は80羽ほどまで数を減らしてきました。

環境省では1980年代から、研究者の協力を得て保護増殖活動を続け、2016年には140羽ほどまでに回復しましたが、まだまだ危機を脱したとはいえません。

保護増殖活動の柱は、シマフクロウの大きな体に見合う巣箱の設置と、池に魚を放つ給餌です。

この日は、十勝のとある森の中にある池に30kg分の魚を運びました。背負子にコンテナを括り付け厚手のビニール袋を広げて魚を入れます。魚を活かす水も背負うのでずしりと肩に重さがかかります。数にすると100匹以上でしょうか。二人で二往復。シマフクロウたちには、お腹を満たし、寒さが厳しくとも繁殖の大切な季節を乗り切ってほしいものです。

背負子で運搬オショロコマを放流保護増殖活動のもうひとつの柱は巣箱掛けですが、こちらの写真は設置していた木が倒れて一部が壊れてしまった巣箱を、ひがし大雪自然館での展示に利用しようと加工中のものです。壊れた部分を切り取って、断熱材が施されていることなどを断面展示します。出入口に残るシマフクロウの爪痕なども感じることができます。完成間近、乞うご期待です。

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2016年10月13日秋深し、燃ゆるトムラウシ山

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

 8月、立て続けに接近、通過した台風による大雨でトムラウシ山登山口へ通じる道道の通行止めが続き、もう今年は雪が降ってしまうのではないかと心配していました。9月27日に通行止めが解除され、9月30日から10月1日に温泉コース登山口からトムラウシ山を目指しました。ヒサゴ沼避難小屋のトイレが倒壊の危機という情報があり、これを確かめるべく、ヒサゴ沼泊1泊2日の巡視です。

 トムラウシ山といえば短縮コースが人気ですが、このときは登山口に通じる林道が土砂崩れのため通行止めでした。(10月12日に解除されました。)温泉コースは、深い森の中を進みます。初めに急登があり体が温まるまではここをゆっくり登らないと後で足のけいれんなどを引き起こし注意が必要です。急登が緩む頃、東にニペソツ山を望みますが、樹木の間からの眺めなのでなかなか絵にはなりません。

 登山口へ通じる道路は修復箇所を見ると川に近い部分がそっくり削り取られたようでしたが、登山道には目立った損壊はありません。尾根筋に付けられた道は水の流れから離れ、流れ込む水も道を壊すほど多くはないのでしょう。

 前トム平を過ぎトムラウシ公園が見渡せる高みまでくると、この日、楽しみにしていたトムラウシ山腹の紅葉が広がっていました。紅く染まったナナカマドに暖かな日射しが注がれ、影に縁取られて斜面に浮き上がります。

トムラウシ山腹の紅葉

 ヒサゴ沼は三方を山に囲まれ穏やかな野営指定地ですが、東または西からの風はときに強く吹き抜けるようで、避難小屋とは別棟に建てられたトイレは、西寄りの柱が土台から外れ落ち、台形状に歪んだため出入口のドアが充分に開け閉めできない状態でした。外れ落ちた柱の基部は腐朽が進んでいて、元の位置に戻すだけでは直りそうもありません。積雪期を間近にして必要な修理ができないため、来春にどのような姿をしているのか不安で一杯です。

 野営地もまた問題を抱えていました。今回の大雨だけではなく、長い年月の間に地面の土が洗い流され、低くなった野営地に水たまりができるようになりました。ひとたび雨が降れば水たまりが消え土が乾くまでテントを張る場所がなくなり避難小屋が混雑するようです。野営地の排水だけでなく水が流れ込むことを防ぐ対策が必要そうです。

穏やかな野営指定地、ヒサゴ沼

 辛い思いをしたのは南沼野営指定地周辺のトイレ事情を目の当たりにしたことでした。3回の巡視で50以上のティッシュなどトイレ痕を確認しました。お花畑の陰にそれらの痕はあり行き来するためのトイレ道がはっきりと刻まれています。トイレ痕のほとんどは野営地より高い場所に見つかっていますから、野営地の水場が汚染されていることは疑いようもありません。

 お花畑を踏み荒らさず、水やその他の自然を汚さない配慮をしてください。トムラウシ山の南沼野営指定地には携帯トイレ用のブースが設置されています。携帯トイレを持参して、使用した紙も汚物も必ず持ち帰ってください。南沼だけでなく、大雪山の多くの場所で同様のことが求められています。

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2016年01月29日タンチョウ総数調査

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

 上士幌自然保護官事務所の業務に登山道巡視やスノーモビル乗り入れ監視など大雪山国立公園の管理のほか、十勝管内における希少野生生物の保全があります。

 今回は、幕別町と大樹町でタンチョウの総数調査をお手伝いしました。この調査は、タンチョウの越冬数、幼鳥数、幼鳥を連れた家族数、標識個体の生存状況を調べ、保全活動の重要な基本情報になるものです。

 真っ白と真っ黒の体、真っ赤な頭、端正な姿と優美な舞から鶴といえばタンチョウといわれ、折り紙や「鶴の恩返し」で親しまれ、学名「Grus japonensis」には「日本産の」という単語が入る日本を代表する鳥です。

 環境省ウェブサイト...タンチョウ

 https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/tancho.html

 日本では絶滅したと考えられていたタンチョウは、再発見された後、様々な方々の努力で保護が進められ、2014年、タンチョウ保護研究グループの調査では約1,500羽が確認されています。

 趣味で冬の山にも登ったり、クロスカントリースキーで汗をかいたりしますが、行動中や運動中は体から熱が生産されて薄手の衣類を重ねるだけでそう寒くはありません。ところが、タンチョウの観察、調査という業務は、任された観察位置で一日中じっと動かないことも珍しくありません。もこもこのダウンジャケット、耳まで覆う毛糸の帽子、グローブのような手袋、厚手の靴下と防寒長靴、これでもかと重ね着をします。

 午前中は、幕別町内の河川をねぐらと餌場にする個体の調査が行われました。川岸には樹木が並び川面まで段差があって曲がって流れる川は見通しがききません。二人ほどが川岸に入り追い立てます。周辺の道路にも観察者を配置し飛んで出たり歩み出たりするタンチョウを無線で連絡を取り合いながら確認します。二人で組んで任された場所には現れませんでしたが、隣で4羽の家族が観察されました。こちらからも双眼鏡でならそれとわかります。併せて20数羽が周辺で確認されました。

飛翔の気配を見せるタンチョウ 午後からは、大樹町に場所を移し、牧場地帯に散らばっている個体を調査します。乳牛を育てる牧場には飼料作物を発酵させる設備があり、牧草のほかトウモロコシなどの穀類が用いられていて、これらをついばみにタンチョウが集まってきます。設備はコンクリートの壁で仕切られた升状の形をしていて、よく確認しないとタンチョウが隠れてしまう高さです。これまで積み重ねてきた情報も活かし、あちらの牧場、こちらの川縁と車で移動しながら確認していきます。飛来する個体を見つけると何処か近くの確認済みの場所から飛んできたものか、もっと遠くから来たものか、確認に回ります。同じ個体を何度も数えてしまわないように確認を繰り返すのです。

 やがて、夕暮れが迫るとタンチョウたちはねぐらへ帰ります。頭と体を前へと伸ばして飛び立つ気配を見せ、大きく翼を拡げふわりと飛び立っていきます。

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2014年12月04日スノーモビル等の乗入れ禁止・規制

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

皆さん、ご存じですか?
大雪山国立公園の多くの部分や十勝川源流部原生自然環境保全地域では、スノーモビル等の乗入れが禁止・規制されています。スノーモビル、オフロード車などの無秩序な使用は、自然環境や動植物の生息・生育環境に悪影響を与えることから、これらの影響を防ぐために、国立公園などで乗入れ禁止・規制区域を指定しています。
指定された区域では、原則としてスノーモビルを使用してはいけません。そのほか、自動車、オートバイ、自転車、馬などの動物も対象です。
詳しくは、北海道地方環境事務所のWebサイト、車馬等乗入れ規制のWebページをご覧ください。
http://c-hokkaido.env.go.jp/nature/mat/m_1_7.html

さて、標識の設置等により公園利用者への周知徹底を図ることは、私たちの大切な仕事です。先日、主な林道入口などにスノーモビル乗入れ禁止・規制看板を設置してきました。これ以上、寒さが厳しくなると地面が凍って木杭が打ち込めなくなってしまう...と思って現場へ向かったところ、10センチ近い積雪に...まもなく雪に閉ざされます。

作業中に通りかかったハンターが、前日、ヒグマを目撃したと教えてくれました。設置場所は、ときに人里離れた森の奥。まだ熊撃退スプレーは手放せません。途中、林道の真ん中に山となった獣の糞が!山親爺でしょうか?いいえ、どうやらタヌキのため糞のようです。胸をなで下ろしました。


乗入れ規制看板

タヌキのため糞

標高の高いところは雪に

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2014年11月19日国立公園指定80周年記念 大雪山国立公園登山道保全講習会

大雪山国立公園 上士幌 上村 哲也

大雪山国立公園指定80周年を機に、近自然工法による登山道の維持管理について広く知ってもらうため、11月17日、鹿追町民ホールにおいて登山道保全講習会を開催しました。
講師に(有)北海道山岳整備の岡崎氏を迎え、登山道関係者のみならず興味を持って下たれた一般の方を含め、約20名が参加して下さいました。
登山者による踏圧や、降雨や融雪の流水による洗掘によって、登山道の拡幅が発生し、深い浸食、ぬかるみの問題にもつながります。雨が降ると登山道は川のようになり、とくに植生のない登山道からは土砂が流失していきます。近自然工法は、この流量を減らし、流速を弱め、かつ、景観を損なわないように極力自然資源を用いた整備工法として登山道整備に欠かせない工法と考えられます。
今回は冬も近く現場での実習はできませんでしたが、座学ならではのこととして、多くの施工例をスライドで学び、施工前、施工後、その後の経年変化を比較しながら、工法の有効性やメンテナンスの大切さなどを理解することができました。激しい雨の日に、登山道がどのように川と化しているのかも知ることができました。

ところで、登山道の拡幅、浸食を防ぐために、登山者にできることは何でしょうか。北海道地方環境事務所策定の「大雪山における登山の心得」から抜粋して紹介します。
・高山帯の植生および特殊地形(構造土など)はダメージを受けやすいため、登山道以外の場所へは立ち入らないようにしましょう。
・登山用ストックを利用する際は、自然へのダメージが軽減されるように先端部に保護用キャップを取り付けるようにしましょう。また、登山道以外につかないように留意しましょう。
・融雪時期や降雨時では流水に加え、登山者の踏圧の影響で登山道が崩壊しやすくなること、および大人数での登山はさらに影響があることを理解してこういう時期の登山はなるべく控えましょう。
・登山道内に融雪水や降雨水が流れている場所においても、登山道外の自然(植生や地形)を守るため、登山道内を歩けるようにロングスパッツ等を準備しましょう。

もし詳しく知りたい方がおられましたら、下記URLをご覧下さい。
http://www.env.go.jp/park/daisetsu/data/files/daisetsu01.pdf



スライドを見ながら学ぶ受講の様子

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2014年05月22日Silent Spring(マルハナバチに限る)

大雪山国立公園 上士幌 木村 慈延

春先の重要な仕事の一つに、セイヨウオオマルハナバチの駆除があります。春は越冬した女王蜂しか飛んでいない時期(5月中まで)で、防除の効果が大きいと言われています。
今のチャンスを逃してはならない!ということで、士幌町内を舞台に、士幌町役場、JA、JA生産者、北海道十勝総合振興局、パークボランティアのみなさんと環境省の総勢20名で防除活動を行いました。

ちなみに、セイヨウオオマルハナバチ(以下セイヨウ)は、元々トマトの受粉をしてもらうために外国から日本に持ち込まれた、いわゆる外来種です。現在では農家のビニルハウスから出られないような工夫がなされていますが、導入当時は徹底されていなかったそうです。
 このハチが一度野外に出てしまうと、在来のマルハナバチの生息環境を奪ってしまうことや、植物の盗蜜(花の横から穴を開けて蜜を吸う)を行うことにより、在来植物の花粉媒介にも深刻な影響を与えることが報告されています。この問題に対応するため、セイヨウオオマルハナバチは外来種の中でも特に注意が必要な「特定外来生物」に指定されています。


セイヨウオオマルハナバチ 趣旨説明の様子

さて、みんなで町内のお花畑に繰り出して、セイヨウ捕獲を目指して出発します。
昨年は1時間30分の間に322頭ものセイヨウを捕獲したのです。
きっと今年も沢山いるはず・・・・。






セイヨウを探すパークボランティアさん 

ところが、探せど探せど、セイヨウはおろか、在来のマルハナバチもほとんど見当たりません・・
いったい今年はどうしたのでしょうか!?
今年も頑張って探したのですが、なんと捕獲頭数(1頭、2頭と数えます)は9頭!!事前の調査で捕獲した頭数(35頭)を含めても44頭しか捕獲することが出来ませんでした。

この結果から、単純にセイヨウが減ったとも言えるのですが、在来のマルハナバチの姿もほとんど見られないため、今年はマルハナバチ全体の活性が非常に低いようです。原因はよくは分からないのですが、気温の影響や開花している花の時期(今年は去年満開だったツツジが終わっていました)が考えられそうです。

捕獲数が奮わなかったため、参加した方からも「今年は物足りない」といった声も漏れていましたが、セイヨウが少ないこと自体は良いことですし、大雪山の麓にある士幌町のセイヨウが少ないことで、高山帯への移入の可能性も減ることが予想されます。

今年のセイヨウ防除はスロースタートとなりましたが、これから増えてくることも考えられるため、今後も注意していきたいと思います。

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