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アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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利尻礼文サロベツ国立公園 稚内

268件の記事があります。

2011年03月29日のんびりウサ太郎

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

3月中旬、パークボランティアさんと冬の自然情報収集に出かけた砂丘林の中で、夏毛に生え替わる前のエゾユキウサギに出会いました。

脅かさないように観察していると、ユキウサギはあまり遠くに逃げることもなく、のんびりとササや低木の皮を食べ、お腹がいっぱいになると木の根元でうとうととまどろみ始めました。


※ササや低木の皮をむしゃむしゃ・・・、お腹がいっぱいになったらうとうと・・・。

十分ほどうとうとした後、ごそごそと起き出して伸びをしました。伸び上がったときに後ろ足の間に大事なところがあるのを発見!男の子であることが判明しました!ユキウサギの大事なところは20cm近くあり、普段は蚊取り線香のようにぐるぐる巻いて股下に収納されているそうです。


※目を覚まして大欠伸、伸びをした時大事なところがちらりと見えました。
この子は敵に襲われて怪我をしたことがあるのか、左肩下に傷跡がありました。


3月下旬から徐々に冬毛が薄茶色の夏毛に変わっていきます。間もなくして恋の季節を迎え、一匹の雌を何匹もの雄が追いかけるマラソン婚が原野で繰り広げられることでしょう。


※起き出してちょこちょこと飛び跳ねながら、また餌探しに出かけていきました。



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2011年03月04日利尻山の登山道補修 その5

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

これまでこのシリーズでは、なるべく他の山でも参考になるような工法を紹介しようと思って、一般的な地質における、一般的な登山道の補修工法を紹介してきました。
しかし、山には場所ごとに色んな環境があって、その土地独特の問題を抱えているケースも少なくありません。利尻山の山頂部もその一つ。
そこで、今回からは、利尻山の山頂部を例に、固有の条件下における登山道補修の試行錯誤の過程を紹介していきたいと思います。

まずは写真をご覧いただきましょう。

写真:通称3mスリット(利尻山山頂付近)


人の背丈をはるかに超える土壌侵食が起こっているのは、利尻山の山頂に程近い場所。赤茶色の「スコリア」と呼ばれる火山噴出物が、厚く降り積もって地層を構成しているのが分かります。

利尻山における独特の問題というのは、まさにこのスコリアの特徴に起因するものでして、特徴とは、ズバリ「土層に締まりがなく、崩れやすい」ことにあります。・・と言ってもピンと来ないですよね。難しいことを書くより、こちらもまず、その特徴によって引き起こされた、ある現象の写真を見ていただきましょう。

写真:大雨直後→5日後の経過写真(利尻山山頂付近,2006)

※9月2日の雨量:19ミリ/1時関最大、50ミリ/日(元泊アメダス)
※9月3日の雨量:15ミリ/1時関最大、16ミリ/日(元泊アメダス)


この変化の速さこそが、スコリアの土壌固結力の弱さを物語っています。
大雨の後に、深さ30センチほどのガリー(溝)が発生しているのに、周りや、上部から次々と日々崩れてくるスコリアが供給されてくるので、5日後には、何事もなかったかのようにガリーが埋め立てられてしまっているのです。

マジックを見ているようですよね。
でも、これは紛れもない事実でして、遅くとも90年代以降、利尻山の山頂部で浸食と堆積が繰り返されてきたと推測されています。このうち、流下してきた土砂が堆積する緩斜面では、登山道脇の植生へのスコリア流入が進行することで裸地が拡大し、3mスリットのような急斜面では、堆積より侵食のスピードの方が圧倒的に速いので、削られていく一方になり、3mスリットのような姿になり、今の利尻山の姿が出来てしまったものと考えられます。

ただ、実は過去の記録写真というのが意外(?)にも少なく、いつ頃、どこから、どれくらいのペースで登山道侵食が進んだのかはよく分かっていません。風景や山頂での記念写真を撮る人は多くても、登山道の写真を記録している人なんて、あまりいませんからね。
そんな中、1991に撮影された写真が事務所に残されていたので、これを、この場所で補修を始める前の2007年の写真と比べてみました。

写真:急速な登山道侵食の進行(利尻山山頂付近1991年→2007年)


これが約15年の間に起きた変化です。
写真に写る人の背丈から類推して、少なめに見ても、深さ・路幅共に1m程度侵食されているのが分かります。写真に写っている区間で、およそ30mの距離がありますから、単純計算した場合、この場所だけでも、30立方米の土砂が流出したことになります。(※あくまで、机上の計算なので誤解のないように!)


さて、とにかく崩れやすい(動きやすい)土層だということだけは分かっていただけたと思いますが、もう一度、スコリアの特徴について振り返ってみたいと思います。
スコリアは、軽石と似てガサガサした触感を持つ礫で、同じく軽石状にブツブツと穴があいています。これはマグマが噴出する際に、中の水分などが発泡したため。スコリア、あるいはその降り積もり方にも色々ありますが、利尻山の山頂付近のスコリア層では、このスコリアのひと粒ひと粒が、非常にルーズな状態でグズグズに積み重なっています。
ブナ森のような樹林下の土壌に触れると、湿っていて、手でこねても粘り気があると思いますが、このスコリア層には、粘り気や水分がほとんど無いのが特徴。先の「固結力がない」という言葉を、「すぐバラバラになる」と言い換えた方が分かりやすいでしょうか。
水に浸す前のお米が積み重なっているようでもあります。

こういった地層なので、はじめの3mスリットの写真で見るように、壁に手を触れると、それだけでポロポロとスコリアの粒が剥がれ落ちてしますのです。
とは言っても、足元にスコリアが積もっていると、ひどく歩きにくく、それこそ3歩上がって2歩下がる状態になってしまうので、スリップしやすく、登山者としては、その結果、さらに歩きにくくなるのが分かっていながら、スコリアにも、すがりたくなってしまうのでしょう。

しかし、何とか悪循環を断ち切らなくてはいけない。
この思いから、ようやく、2005年度から利尻山山頂部における登山道補修の取り組みが始まりました。

いつもなら、すぐに施工事例の写真をお見せして、工法の目的と手段を紹介するところですが、今日は説明ばかりになってしまいスミマセン。次回からは、いよいよ利尻山山頂部における、利尻山固有の事例に対する処方を書いていきたいと思いますが、その前に、まずその特殊性について理解を頂きたいと思い、長~~い説明をしてしまった次第です。
どうか懲りずに次回以降も読んで下さい!! 

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2011年02月23日冬のカモ観察会を行いました!

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

 今年も毎年恒例の「冬のカモ観察会」を2月上旬に行いました。その時の様子をご紹介したいと思います。

 稚内港で行うこの観察会は私にとって3回目となります。
参加してくださるお客さんには道北の豊かな鳥類相を紹介し、知らなかった鳥を知ってもらうのはもちろんのこと、身近にいる鳥の新しい面も見つけていただきたいと思いました。

 鳥を見るとき、私が大事にしたいのは「見慣れていると思わないようにしよう!」です。
私が野鳥の観察をし、種類を覚え始めたのは高校生の頃で、それまで周りにはいつも見慣れているスズメやカラスがいる程度だと思っていました。けれど本当に見慣れた鳥か疑ってみることで、スズメだと思っていた鳥が白いお腹に黒いネクタイ模様を持つシジュウカラだった、「キリキリコロコロ、ビィー」と鈴が転がるような可愛い声で鳴き、翼の黄色い線が鮮やかなカワラヒワだった、背中に黒と白の縞模様があり日本で最も小さいキツツキであるコゲラだった、という風にどんどん知っている鳥の種類が広がっていきました。
さらに、スズメの親が巣立ち後間もないヒナにかいがいしく餌を運ぶ様子や集まって砂浴びをする様子、カラスが縄張りを主張して鳴くとき非常にすごみがある格好をすること、など見慣れていた鳥にさえ注意しなかったら気づかなかった表情をたくさん見つけることができました。そのことを思い出して、観察会では少し注意しながら双眼鏡を覗き、鳥の目立ちにくい面も皆さんに見てもらうことにしました。

 冬の稚内港は主に海ガモ類、カモメ類で賑わっています。
コオリガモ、シノリガモ、クロガモ、ウミアイサ・・・。鮮やかな雄のカモにはいつも目がいき、すぐに覚えることができます。でも、同じ種なのに雌は意外と忘れがち。説明するまで違う鳥だと思っていた人もいました。
よし!もっと雌に注目するぞ!と思って双眼鏡を覗くと・・・。
あれ?今度は羽色が鮮やかになっておらず、地味で雌のように見えるけれど雄だな、というカモたちも結構混じっていました(※エクリプスか?)。鮮やかな羽の雄を覚えたらもうその種の姿形を覚えた気になってしまいがちですが、同じ種の中にも雄、雌、若い(?)雄などバリエーションがあることを改めて実感しました。


鮮やかな雄カモだけではなく、地味な集団にも注目してみると、雌や羽が鮮やかになっていない若い(?)雄などの顔ぶれが分かって楽しいですよ。

 この他に、ここ数年で稚内港では姿を見せる頻度が減っているウミガラスを10羽近く確認、ケイマフリも登場してくれました。どちらともパッと見た感じでは目立つ鳥ではありません。講師のパークボランティアさんの素晴らしい観察眼があったからこそ、見ることができました。さらに防波堤の上にはオジロワシも数羽舞い降りてくれ、参加者、主催者ともに大満足でした。


ウミガラスの登場!目を横切る黒いラインが特徴的です。


皆で野鳥カルタをやりました!

 その後、稚内自然保護官事務所内に戻り、参加者全員で講師のパークボランティアさん作成のサロベツの鳥類・動物を紹介するパワーポイントを見たあと、賀勢が作成した『サロベツ・稚内野鳥カルタ』を行いました。
野鳥カルタは50音を1つずつ頭文字に使って、サロベツ近辺で見られる野鳥の生態、特徴を表す読み札を考えてあります。ずっと住んでいる場所では、周りの環境をありふれて見慣れていると思ってしまいがちですが、この観察会を通して、もっともっと身近な自然観察を楽しもうと思ってくださった参加者の皆さんがとても多かったようです。参加してくださった20数名の皆さま、どうもありがとうございました。

<今回見られた野鳥たち 2011/2/5 10:00-11:00>
コオリガモ/シノリガモ/クロガモ/スズガモ/ウミアイサ/オオセグロカモメ/ワシカモメ/シロカモメ/ヒメウ
ウミガラス/ケイマフリ/オジロワシ
もっといたカモな・・・

※エクリプス
 繁殖期には鮮やかな羽色を持つカモ類の雄が、非繁殖期には雌のような地味な羽色になることがあり、その状態を“エクリプス”といいます。ギリシア語で「力を失う」ことを意味するそうです。カモの場合だと「男の魅力」を失うということになるのでしょうか。

この時期に見た羽が鮮やかになっていない雄カモ達をエクリプスといってよいのかどうかははっきりとは分かりませんでした。そもそも、エクリプスの状態とは若い故に繁殖羽が生え揃わない雄のことをいうのか、若い雄でなくてもエクリプスはいるのか、基本的な質問かもしれませんが、どなたかに教えていただきたいです。


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2011年02月22日冬のウスユキソウ群生地

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 冬のウスユキソウ群生地に行ってきました。現在、群生地に通じる礼文林道は雪に覆われており、たどり着くにはスノーシュー(西洋かんじき)やスキーが必要です。今回は香深側入り口からスノーシューをはいて登って行きました。礼文林道は雪のない時期は道幅2~3mほどの歩きやすいコースですが、冬のこの時期は積雪のため場所によってコースが斜面に吸収されて壁のようになっているところもあるなど、通行には注意が必要です。また、群生地までの所要時間も夏の倍の90分(夏は40~50分)ほどかかります。ただ、ササや低木の背丈近くまで雪が積もっている場所は雪原の様相で見通しがよく、冬ならではの美しさがあります。キラキラと太陽を反射する雪原と頭上の青空を飛ぶオジロワシ。何とも素晴らしい光景でした。




写真① ササの背丈まで雪が積もり、雪原になっている場所(2/20撮影)

 西に向かって登っていくにつれて、次第に風が強くなり、群生地手前の見晴らし台付近では、吹き飛ばされそうなほどの強風が吹いていました。群生地付近は島の西側に面しており、西からの風がまともにあたる場所なのですが、その風のせいで西側斜面には雪がほとんど積もっていませんでした。
以前、礼文島の風と積雪の関係が高山植物の発達に影響しているという記事を書きましたが、今回、そのわかりやすい例を紹介したいと思います。
 まず、写真②をご覧ください。これは群生地を北側から南の方角に向かって撮影したものです。




写真② ウスユキソウ群生地の写真。赤い矢印の斜面がウスユキソウはじめ、高山植物の群落になる場所。向かって右側の西から強い風が吹きます(2/20撮影)

 この写真に写っている小屋の向こう側の斜面が夏にレブンウスユキソウをはじめ、高山植物が数多く咲く場所です。ここで気づくのは小屋の周辺には積雪があるのに対し、その奥の斜面にはほとんど雪が積もっていないということです。写真①のように風が弱いところはササの背丈近くまで積雪があるのに対し、強風が吹き付ける西側斜面は雪が飛ばされてしまうためです。どれだけ風が強いかは写真③を見ると良くわかります。




写真③ 向かって左側、西から吹く風で矢印の向きに雪が動いて模様ができているのがわかりますか?(2/20撮影)
 
 これは写真②の撮影ポイントから逆を向いて北の方角を撮影したものです。この写真を見て、雪に模様がついているのがお分かりでしょうか?この模様は強風によってついたもので、始終強い風が吹いていることを表しています。強い風が吹いて雪が飛ばされてしまう場所では雪による保温効果がなく、冷たい風が吹き付け、土壌の温度が低くなります。そのため、この場所は通常低地に生息する植物には非常に厳しい環境になり、だからこそ高山植物の楽園になるのです。
 レブンウスユキソウをはじめ、礼文島の高山植物たちはこうして厳しい冬を乗り越えて、春から秋にかけて色とりどりの花を咲かせるのです。

以前の記事はこちらから
http://c-hokkaido.env.go.jp/blog/author/author443.html

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2011年02月22日礼文島冬の自然観察会

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

先日、2月20日(日)に利尻礼文サロベツ国立公園パークボランティアの会と環境省稚内自然保護官事務所主催の「礼文島冬の自然観察会」が行われました。当日はワシの一斉調査日ということもあり、ワシの観察をメインにカモ類をはじめとした野鳥の観察とアザラシやトドなど海の動物の観察を行って、冬の礼文島の自然に親しんでもらおうというのがテーマでした。
当日、午前9時に礼文島の北部赤岩(あかいわ)に集合し、観察を始めました。ここにはワシが集まる絶好の観察ポイントがあり、双眼鏡やフィールドスコープを使い、皆で探したところ、オオワシ1羽、オジロワシ5羽を観察することができました。ただ、日によっては合わせて15羽ぐらい集まっていることもあるので、やや少なかったのは残念でしたが、その反対にオオセグロカモメ、ワシカモメ、シロカモメ、カラスといった野鳥達が時折目の前を埋め尽くすほど横切り、ワシに負けじと存在感を放っていました。当日参加して下さった方々は、オオワシとオジロワシの見分け方と生態、カモメ類の見分け方などについてこの日ガイドを務めてくださったボランティアの方の説明を熱心に聞いていました。




ワシの姿を熱心に探す参加者たち(赤岩にて撮影)

赤岩を後にして次は礼文島の北限、スコトン岬に向かいました。スコトン岬から無人島の海驢島(とどじま)を望遠鏡で観察すると、7羽のオオワシが羽を休めていました。その姿を追っているとき、ガイドの方から「目の前にオオワシが」の声がしたのでそちらに視線を向けると、巨大なオオワシの成鳥が目の前10mほどの低空をさっそうと横切って行きました。写真を撮ろうと慌ててカメラを向けましたが、時すでに遅く、オオワシはかなたへと優雅に飛び去って行きました。しかし、翼を広げると2mをゆうに超える空の王者を間近で見ることができ、参加者一同大満足でした。スコトン岬ではほかにも雄の色彩が鮮やかなシノリガモや鵜飼いに用いられるウミウ、体の光沢が美しいヒメウを観察できました。しかし、この日のもう一つの観察対象であったアザラシなど海獣の姿は全く見当たりませんでした。




彼方へと飛び去るオオワシ(スコトン岬にて撮影)

スコトン岬を後に最後に向かったのは、船泊五番地(ふなどまりごばんち)漁港という海ガモ達を間近で観察できるスポットで、この場所でワシのような猛禽類とはうって変わって色とりどりのかわいらしい野鳥達を観察するはずでした。が、ついてみるとカモたちの姿はどこにもなく、しばらく待っても全く現れる気配がありませんでした。ガイドの方はこの日の風の向きだとカモたちは別の場所に行ってしまうことがあると説明してくれました。やはり、野鳥の観察というのは難しい・・・。天候や風向きなどによる行動パターンを把握していないとなかなかお目当ての野鳥には出合えないようです。ただ、カモたちの代わりにオオセグロカモメの大群とそれに混じったワシカモメやシロカモメといったカモメたちが飛びまわり空はとても賑やかでした。みんなで空を見上げ、しばらくカモメの観察をした後、午前11時にイベントは終了し、解散となりました。




カモメの観察をする参加者たち(五番地漁港にて撮影)

礼文島は夏には高山植物が数多く咲く花の浮島ですが、冬、花が咲いていない時期もオオワシやオジロワシをはじめ様々な生き物に出会えます。オオワシやオジロワシは春に北へ渡ってしまうため、礼文島では主に冬にしか出会えない生物です。そんな冬ならではの貴重な体験を通して冬の礼文島の魅力を発見でき、充実した一日になりました。参加者の皆さんにも冬の礼文島の自然を身近に感じていただけていたら、主催者側としてはうれしい限りです。




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2011年02月10日利尻山の登山道補修 その4

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

今日は久々の利尻山の登山道補修シリーズ第4回!
ですが、またもや前回から時間がたってしまったので、今回は、これまでの登山道補修シリーズを振り返ることからはじめてみます。

まず第1回では、登山道を“浸食”する原因のひとつである「水」の勢いを削ぐ手法について、「ステップ&プール工法」の事例を参考に紹介しましたね。次に第2回では、水の勢いを弱めるだけでは限界があるとして、登山道外に水を抜く方法を「導流水制工」という事例で紹介。前回、第3回では、登山道の“侵食”原因として水だけではなく「登山者」の影響があるとした上で、いかに登山者の動きを適切なラインに誘導すべきか、水と人の動きの違いに着目した「歩水分離型の根茎保護+階段工」をもって紹介してきました。

そして第4回では、登山者誘導の考え方を、もっと日常的な登山道メンテナンスに活かす手法を紹介したい、と書いていたので、今回はまず、登山者心理を利用した誘導の考え方を「刈払い」という日常的なメンテナンスに応用した事例を紹介したいと思います。

それでは今日も施工事例の写真からご覧いただきましょう。
写真:意図的刈払いによる登山者コントロール(場所:鴛泊コース6合目付近)



左の施行前写真のように、刈払いを怠ると、薮が生い茂って登山道を覆い隠してしまいます。登山者にしてみれば邪魔なこと極まりないですよね。刈払機を持って行って、一気に刈りこんでしまいたいところですが、ちょっと待って!

刈る前に、まず藪の下を覗き込んでみましょう。
こういう場所では、日当たりの良い斜面の方が枝の伸びが早いため、登山者が一方に追いやられる形で、徐々に歩行ラインがずれていってしまうことがあるのです。
写真の場所では、左の谷側斜面に歩行ラインがずれ込み、斜面に登山道上の礫(石ころ)が流入して、植生を覆っていました。
こういう時、刈払い前の段階で歩きやすく感じる所、つまり藪の薄いところを狙って刈払いを行うと、藪によって拡幅された、植生へのインパクトの大きいラインを固定化することにつながってしまうのです。

ですから写真の事例では、日向斜面の枝のみを刈払い、できたオープンスペースに登山者を誘導させる方法を毎年継続して行っています。これを「意図的刈払いによる登山者コントロール」(名前は、私が勝手に付けました)と呼んでいますが、この手法によって刈り残された日陰側は、徐々に足元が見えにくくなり、登山者は、ただ「自分が歩きやすいラインに進む」という本能に従って、結局、刈払い担当者の思惑通りのラインを歩かされてしまうのです。
結果は右の5年後写真を見ての通り。拡がっていたラインの上には、日陰側の枝が覆いかぶさり、今では、誰もが自然に元のラインを歩きたくなるのが分かるかと思います。

オープンスペースの創出による歩きやすさの演出と、枝を残すことによる歩きにくさの演出とのW効果による、より強度な登山者誘導の実現と言いましょうか。面白いですね。サッカーの組織的な守備体系を見ているようです。


しかし、ここで終わってしまっては、ありがちな話です。実は、今日は、その先の話、刈り払った笹や枝という「現地材」の活用方法についてもセットでご紹介したいと思うのです。続けて、事例写真をご覧ください。

写真:笹筵(場所:沓形コース登山口付近)



筵(むしろ)なんて言葉、最近の若い人は聞いたことがあるでしょうか?って、私もまだ若いつもりですが、この「笹筵」は刈り払った笹の再利用品です。

利尻山の山麓はネマガリタケという笹だらけ。これを編み込んで作ったのが笹筵になるのです。笹の交差部分には、ネマガリタケの根本を短くカットした杭を打ち込んで、ズレたり飛ばされたりするのを防いでいます。
筵の網目サイズを変えれば、落ち葉のたまりやすさや、種子のキャッチ能力、光の入り具合を変えることも可能。手作り植生ネットというワケです。雨滴や凍結融解による侵食予防にも有効です。

写真の事例では、ステップ&プール工法によって補修された登山道横の、複線化していたラインに、植生回復を促す目的で笹筵を設置しましたが、他にも、例えばショートカットや、ぬかるみを避けるために生じた脇路に、踏み込み防止と植生回復工とを兼ねて設置している場所もあります。まだ、それほど設置数は多く無いのですが、様々な場所や用途に使えそうだと考えています。
この登山道シリーズ過去3回では、石や倒木といった、大重量系の現地材を利用した工法を紹介してきましたが、工事内容がやや大掛かりで、体力的にも技術的にも、ややハードな内容に見えたかと思います。しかし、笹などの軽い現地材の活用に目を向け始めると、一気に発想が広がりませんか?

現地材の有効活用という考え方が染み付くと、通常捨ててしまうようなモノが、全て勿体無く見えてきてしまいます。基本的にすべての作業が人力手作業となる登山道補修において、この発想はとても大事。
とある石積み工法ハンドブックに、『石積みは、意志の積み重ね』と書いてありましたが、石に限らず、散在しているモノも意志を持って組み立てれば、それぞれ機能するものに生まれ変わるのです。

例えば、拾い集めた枝を使ったこんな工法もあります↓
写真:ショートカット防止を兼ねた粗朶(そだ)柵工(場所:鴛泊コース3合目)



小枝を杭に絡ませて編み込むことで、「粗朶(そだ)柵工」と呼ばれる土留め柵の簡易版が作れてしまいます。
ビーバーの作るダムみたいにも見えますね。専門家ではないので詳しく説明することは出来ませんが、背面土圧の低い場所での応急的な土留めとして有効なこの工法、製材された丸太で作る土留め柵と違って、枝と枝の空隙から、植生回復を期待することも出来ます。

粗朶柵工は、河川護岸などに用いる場合、柳などの軟らかい木を使うようですが、利尻では、あくまで落枝や刈払いによる現地発生材だけなので、針葉樹、広葉樹と樹種に関係なく、全てゴチャ混ぜ。利尻の粗朶柵工は、まだまだ完成度が低いので見本にまではなりませんが、ひとつのアイデアとして、他地区で試行錯誤している方の発想の種になればと思っています。

今回の記事を読んで、「これならウチでもやっているよ!」とか、「もっといい方法がある」と思う方もいたでしょうね。本州の山岳地では「小枝のダム」という名称で、枝木を使った土留め柵を設置しているところもありますし、是非、私も色々な登山道をウォッチングしに行きたいものです。



過去の登山道補修シリーズはコチラから↓
http://c-hokkaido.env.go.jp/blog/author/author417.html

※上記の施工箇所は、国立公園特別保護地区で国有林内であることから、現地石材の利用にあたっては、許可手続き等を行っています。

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2011年01月31日利尻山2011冬山情報

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

年明けから降り続いた雪も、この5日くらいは小康状態で、私はなぜか一晩ですっかり雪が消えた夢を見てしまいました・・。
しかし現実は真っ白。平地でも1月の割には多めの雪で、ポン山など利尻山麓の低山でも笹が覆われて、歩きやすくなっています。
現在の山の状況はこんな感じ↓(2011.1.27)

利尻山 空港から 110127

厳冬期に山頂が見えることは滅多に無いので、貴重な写真です!
上の写真左側のぽっこりした小山が「ポン山」で、アイヌ語で“小さな山”という意味の、見たままの名前が付けられています。このポン山は、地元の方に人気の山で、毎週、スノーシューやクロカンスキーのトレースが付いているんですよ。登山口にある日本名水百選の甘露泉水は、冬でも湧き出しています。
ほぼ同じ角度から、山頂のクローズアップ写真(2011.1.27)

利尻山山頂付近 望遠2 110127

利尻山の山頂部を見ると、ところどころに雪庇が発達しているのが分かります。写真左側の稜線が鴛泊コースで、右側の稜線で肩のように角張ったところが、沓形コースの三眺山。山頂の右に、半分雲にくれて見えているのが「ローソク岩」です。この角度で見ると、ピラミッドのように見えて、ローソクっぽくは見えませんがね。
なお、山頂の真下に見える広い斜面が、沓形コースの難所「親不知子不知(おやしらずこしらず)」です。この雪が、例年7月上旬まで残ることになるのですが、滑り落ちたら一気に下まで行ってしまうのがよく分かります。

それにしても、利尻山というのは何ともカッコイイ。
細い稜線と切り立った山容がアルピニストの心をくすぐるのがよく分かります。近年では、バックカントリースキーヤー・スノーボーダーも増えて、山肌の急斜面にスプレーを上げているのを見かけます。とはいえ、やはり人数はとても少なく、3月末頃の晴天率が高くなるまでの間に入るパーティーは、指で数えられるほどしかいません。
それもそのはず、日本海から直接吹き付ける風は猛烈で、利尻島では、平地でも北アルプスの稜線並みの風を味わうことがあります。

猛烈な風は、当然、スキーヤーにもクライマーにも平等に吹き付けます。ガスの中で見えにくい雪庇の張り出しと、その下に広がる空間も。欠航率が高くなる冬の海と空は、ケガをしてもすぐには救出に向かわせてくれませんし、なんとか下山できたとしても、大きな医療機関に直行するわけには行きません。
冬山のルートやラインは、想像力次第なところもあるので、どこがどうとも言えませんが、山以外の利尻島独特の条件についても、十分調べた上でお越しください。

それと、登山をされる方には、一点お願いがあります。
先日1月23日に、プライベートで鴛泊コースの避難小屋まで行ってきたのですが、小屋2階のドアが開きっ放しになっていて、中に雪が吹き込んでいました!1時間ほど除雪して、ドアも閉めてきましたが、留め具がはまりにくくなっているので、悪天候の中でも下山時にしっかり閉まっていることを十分ご確認の上、出るようにしてください!!

避難小屋の様子↓(2011.1.23除雪後に撮影)



※この季節の利尻山は全域がバリエーションルートです。十分な準備・計画で冬山事故の防止に努めて下さい。http://www.wakkanai-syo.police.pref.hokkaido.lg.jp/kakuka/chiiki/fuyuyamatozan.html

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2011年01月25日礼文島巡視報告②

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

 前回の記事で礼文島南部の様子をお伝えしましたが、今回は北部に巡視に行ってきましたのでその様子をお伝えします。

スコトン岬
 
 礼文島の北限スコトン岬は左右どちらも海で遮るものが何もないため、常に強い風が吹いている場所です。この日の気温はマイナス5℃くらいでしたが、強い風のため体感気温はさらに低く感じます。駐車場から岬の先端に向かう歩道は風が強いこともあり、積雪は少なめですが、ところどころ吹きだまって深雪になっているところがあるので、岬の先端まで行くには長靴が必要です。風は強かったものの空気は澄んでいたので、無人島の海驢島(とどじま)がよく見えました。ここで、生き物の気配を探してみたのですが、この日はオオセグロカモメが数羽いた以外その他野鳥やアザラシなどの生物を確認することはできませんでした。




岬の先端に向かう歩道。正面に海驢島が見えます(1/20撮影)

澄海岬(すかいみさき)
 
 澄んだ海の岬と書く澄海岬は晴れた日にはその名の通りエメラルドグリーンの海と色とりどりの花が織りなす色彩豊かな景勝地ですが、冬の灰色の空の下では夏のような鮮やかな色彩は影を潜めていました。駐車場から展望台に向かって歩いて行くとすぐに膝まで埋まってしまうほどの深い雪が待っており、這うようにして展望台までの斜面を登って行きました。しかし、雪に足を取られながらも展望台までたどり着くとそこにはほとんど積雪はありませんでした。(たまるところにはたまっていましたが)ここでもオオセグロカモメを数羽確認することができました。




(左)斜面の陰で風が比較的弱い場所=雪が多く積もり階段の柵が埋まっています。
(右)風がまともにあたる展望台=風で雪が飛ばされてところどころ地面が見えています。
二つの地点は距離にして50mぐらいですが、雪の積もり方にこれだけの差があります。(1/20撮影)

久種湖(くしゅこ)
 
 礼文島の北東部、船泊(ふなどまり)集落のほど近くに久種湖という周囲4kmほどの湖があります。最北の湖といわれるこの久種湖は渡り鳥たちの休息の場となっており、時期によって大型の猛禽類から、小型の鳥まで数多くの野鳥を観察できるバードウォッチングスポットです。
現在は湖全体が凍結していますが、氷が融けだすころ湖の南部でミズバショウが咲き始め、礼文島に春の訪れを告げてくれるでしょう。




凍結した久種湖(1/20撮影)

 礼文島は12月中は雪が降っても気温が上がったり、雨が降ったりでほとんど積雪がなかったのですが、年始の豪雪もあり、現在は島一面雪に覆われています。ただ、礼文島は東海岸沿いでは比較的積雪が多いのですが、逆に風衝地となる西海岸沿いは積雪がほとんどない場所もあるなど、雪の積もり方が一様ではないという特徴があります。そして、この雪の積もり方の差こそが礼文島に高山植物が多い理由だといわれています。つまり、積雪が多い場所では雪が保温の役割を果たすため、ササなどが生息しているのに対し、風で雪が飛ばされてしまい土まで凍結する場所では生き残ることができるのは寒さに強い高山植物に限られるということです。礼文島にはそんな風と雪と高山植物の特別な関係があり、それが花の浮島礼文島固有の景観を形作っているのです。

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2010年12月13日礼文島巡視報告①

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 中野 雄介

冬の礼文島の巡視に行ってきました。

今回は礼文島南部の状況をお伝えします。

桃岩歩道
夏は色とりどりの花が咲き乱れる桃岩歩道ですが、さすがに現在は冬枯れの色彩でひっそりとした佇まいになっています。巡視を行った日は雲が多く時々雪がちらついてはいましたが、気温は比較的高く、積雪も全くありませんでした。しかし、そこは冬の礼文島、西から風が強く吹いており、時々飛ばされそうになりながら桃岩展望台から知床まで歩きました。歩道はぬかるみがほとんどなく、また積雪や凍結もないため歩きやすい状態になっていました。




桃岩歩道通称キンバイの谷から燕山を望む(12/6撮影)

礼文滝歩道
 礼文滝へ向かう歩道は一面の霜で覆われていました。この日は晴れたり、雪が降ったりと天気が目まぐるしく変わっていましたが、地面の霜は解けることなく、バリバリとよい音を立てていました。グイマツやトドマツ森の中を抜けて通称ハイジの丘から急な坂を下ると谷間を流れる川沿いの道になり、コースの終点礼文滝に至ります。今年は暖かいということですがそれでも少しずつ滝の水が凍り始めていました。




礼文滝:一日後に再度訪れてみるとかなり凍結が進んでいました(12/7,12/8撮影)

桃台、猫台
 礼文島の西海岸、ちょうど桃岩歩道を下から見上げるような場所に桃台、猫台という景勝地があります。ここでは桃の形をした桃岩と猫の姿に見える猫岩を同時に見ることができ、さらに眼下には青く澄んだ海が望めます。この日は雪がちらつく天気だったこともあり桃岩歩道沿いの岩の裂け目から流れ落ちている水が糸のように白く凍っていました。また、遠くて確認はできなかったのですが、オオワシかオジロワシと思われる猛禽類が上空を優雅に飛んでいました。




西海岸の奇岩猫岩:猫が背を丸めているように見えませんか?(12/8撮影)

例年ならこの時期は雪で真白だということですが、今年は暖かく、島全体を通して雪はほとんど見られません。しかし、これから冬本番、間もなく島全体が真っ白な雪景色に変わるでしょう。

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2010年12月09日利尻山の登山道補修 その3

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 岡田 伸也

こんにちは。
登山道補修シリーズ、久々の第3弾!!!今日は、“登山者の動きを誘導する”登山道の補修方法を紹介したいと思います。

とは言っても、誘導の方法は様々です。そのなかで、今回は、利尻で最もよく使われている『歩水分離』という手法を紹介しますが、ポイントは、これまでお話ししてきた水の動きと、人の動きの違いにあります。
水は、基本的に重力に従って地形の低い方に向かって動き(流れ)ますが、人の動きは、より複雑です。あえて簡単に言うなら『水の動きは物理の法則により、人の動きは感情による』といったところでしょうか。

例えば、「段差が低く、足元が汚れず、滑りにくいところを歩きたい」、「見たい、撮りたい、休みたい」、このような欲求は、登山中、誰もが感じるのではないでしょうか。このような登山者特有の心の動きを誘導するのが、今回紹介する補修方法のミソと言えます。
ですので、今回は、写真で紹介する登山道の、どのラインを歩いてみたいか?皆さんも登山者心理を100%働かせながら読んで頂けたらと思います!

では、前置きが長くなりましたが、今回も施行前後の比較写真からご覧ください。

【施行前後】根系裸出防止工

ここは、利尻山沓形コース6合目付近(標高668m)。森林限界(高木限界)を抜けて、ハイマツ帯に入ったところです。
登山道脇に、地を這うように伸びたダケカンバですが、水による土壌流失のせいで根元がむき出しになっています。こういう状態のことを「根系のハードル化」と呼んでいますが、皆さんもどこかで見たことがありませんか?

張り出した根が邪魔で、つい切りたくなってしまいますが、ずっと昔から、この厳しい環境で少しずつ根を伸ばしてきたダケカンバを、「我々登山者が、安全に歩きやすくなるために」切ってしまうのは、どうしても気が引けます。ノコギリを入れれば、ほんの数秒で切れる太さですが・・

でも、この程度のハードルなら、切らずに、なおかつ土壌を再び安定する方向に持っていく処置をしながら、登山者にとって歩きやすく、そして面白く!歩ける補修をすることが可能です。
何も新しい技術を用いるわけではありません。補修の基本的な考え方は、私の日記「利尻山の登山道補修 その1,その2」でお伝えしてきたのと同じです。ます第一に、根系がハードル化してしまった根本原因である、流水の勢いを弱めてやることを考えるのです。

【施工後】ステップ&プール工による流勢緩和

写真右側に、土壌浸食を起こす強い流水の勢いを弱める目的で、浸食に取り残された大石を利用してプールを作っています。

しかし、ただのステップ&プール工と違うのは、写真左側の部分です。
もう一度、同じ写真を見せますね。

【施工後】石積み工による歩行ラインの創出

ステップ&プール工を作る石組の左端の石を、石積み階段の一部にすることで、ハードルを乗り越すための通路に仕立てています。また、この石積み階段は、ハードル化した根系を踏みつけ圧から守るための、台座にもなっています。
さらにここでは、将来的に、上部からの流出土砂や枯葉がプール内に堆積していくことを見越して、あえてやや大きめのプール(水深の深いプール)を作っています。腐葉土が堆積されていけば、流勢の緩和効果は弱まりますが、根系は、さらにしっかりと安定させることが出来るでしょう。

「ハードルの乗越し処理」+「流水処理」=「根系裸出の進行抑止」
という構造ですね。

歩行ラインは、現地の状況によって、写真のように左右に分ける場合もあれば、流水ラインと交差させる事もあります。流勢の緩和効果を高めるためには、なるべく大きなプールを作りたいのですが、登山者にとっては邪魔で歩きにくいですよね。新たなハードルができたような感じになってしまいます。そうなると路肩に脇道が発生して、整備が逆に荒廃を広げてしまいかねません。
そこで歩行ラインと流水ラインを分離することで、双方の機能を両立させているのです。

登山道は河川ではなく、人が歩く道でもあるので、水の動きだけに目を奪われると、補修もうまくいきません。作り手には、登山者心理に立った想像力が要求されます。
さあ、ということで、次回は、この登山者心理に立った誘導を、日常的な登山道のメンテナンスに生かした事例を紹介したいと思います。

ちなみに、今回ご紹介した補修は、登山道修復歴10年以上の作業者による「作品」です。見た目に自然に馴染んでいて、まさか整備したとは分からないかもしれませんが、知らずに作業者の狙い通りのラインに誘い込まれてしまいます。登山者にしてみれば、あたかも、自分で歩きやすいラインを選んだかのように!!
登山が本来持つ自由さを演出しながら、機能はしっかりと。JAPANビューティーですね~。

こんな登山道にワクワクしている登山道マニア?のブログですが、今後もこのシリーズ、どうぞお楽しみに~♪



※注意
上記の施工箇所は、国立公園特別保護地区で国有林内であることから、現地石材の利用にあたっては、許可手続き等を行っています。

■参考URL
AR日記「利尻山の登山道補修 その1」
http://c-hokkaido.env.go.jp/blog/2010/10/26/index.html
AR日記「利尻山の登山道補修 その2」
http://c-hokkaido.env.go.jp/blog/2010/10/645.html

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