北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。
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アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、利尻礼文サロベツ、知床、阿寒摩周、釧路湿原、大雪山、支笏洞爺国立公園があります。
人間界でサミットの影は薄くなっても、自然界の営みは何も変わらない。例年通り木々は彩づき、葉を落とし、どこからともなくユキムシが舞い始めた。洞爺湖の水中では相変わらず、ウチダザリガニがしっかりと呼吸し、交尾し、繁殖を続けている。そしてそいつをなんとかしようと僕もいまだに足掻き続けており、僕が乗る官用車は相変わらずザリガニ臭い。
今月初旬の生息域確認調査において、その大幅な拡大が確認された。心配されていた河川流出口付近でも大型の個体が確認されており、今後河川への流出とそれに伴う河川生態系への影響が懸念される。そして僕は、とうとう川にカゴ罠を仕掛けている自分を想像してため息をつく。
私事だが、8月に講習を受けダイビングライセンスを取った。潜水士資格はないので業務として潜水することはできないから、一般ボランティアダイバーとして休日に、防除認定団体の活動に参加している。まさか自ら潜水してザリガニを追いかけ回すことになろうとは思ってもみなかったのだが…。
(写真提供:田中正文氏)
これまでは水中の様子について、全て潜ったダイバーからの情報を頼りに想像するしかなかったが、今は自分の目で直に見ることができる。ザリガニがどんな場所にどんなふうに隠れ、どれくらいの速度で歩いたり泳いだりするのか…。水中の様子がわかるから、効率良く捕獲できそうな場所にカゴを仕掛けることもできるようになった。「百聞は一見にしかず」とはよく言ったものだ。
ザリガニのみならず、水の中では新発見が多い。陸から眺めると何もないように見える洞爺湖の水中にも、しっかりと生命は息づいている。太陽光をうけてキラキラと輝く淡い水色の中で、背丈以上もある水草がユラユラと揺れ、そのあいだをウグイやワカサギの稚魚が群れていたりすると、あまりの美しさに見とれてしまう(ザリガニの生息密度の濃い場所には水草はほとんど生えていない)。
(写真提供:田中正文氏)
今冬の休日は、滑ろうか潜ろうか迷う日が多くなりそうだ。雪が降ったら山、降らなかったら湖。どっちも良さそうな日はどうしよう…。実に贅沢な悩みだ。
そんな馬鹿げたことに悩む僕を横目に、悩みの根源であるウチダザリガニたちは例年どおり、相変わらずの生命力で北海道の寒い冬をも乗り切ってしまうのだろう。大半のメスは相変わらずたくさんの卵をお腹に抱えたまま…。