ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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2010年10月15日

7件の記事があります。

2010年10月15日【日本のいのち、つないでいこう! COP10まで1日前】

知床国立公園 羅臼 木村 慈延

お魚から見えた生物多様性

 今月18日からいよいよCOP10が始まります。
会場となる名古屋から知床まではかなり離れているため、北海道の端に住んでいる私は、恥ずかしながらあまり身近な事柄としては感じられずにいたのですが、羅臼のとある居酒屋で「生物多様性」の有り難みについて改めて考えさせられる出来事がありました。以下AR日記らしからぬ内容ですがご容赦下さい。

とある居酒屋での出来事・・・
客(自分):「マスター今日は何か良い魚入ってる?」

店主:「今日はマグロとブリが入ってるよ!!」と威勢の良い一言。

 一見どこの店でも交わされそうな会話ですが、マグロとブリって羅臼で獲れる魚・・・?
 実はどちらも普通は羅臼で獲れる魚ではありません。本当はもう少し暖かい海で獲れる魚のはずなのに、どうやら最近の海水温の高さが影響しているそうなのです。
(※近年少しずつ水揚げされるようになったとか・・)

 美味しい食べ物が新鮮なまま口に入るということ自体は、悪いことではありません。しかし、これが一時的な出来事ではなく、長期間に且つ大規模に続くとしたらどうなるでしょうか?
 マグロやブリが獲れるようになった北海道は良くても、本州では獲れなくなってしまうかもしれません。また北海道に元々いた魚は、さらに北の海に消えてしまうことだって考えられます。さらに言えば、元々もっと北にいた魚は、どこに逃げればよいのでしょうか…。
 それでも魚は、環境の変化に合わせて移動できるだけマシです。貝や海藻など、あまり移動できない生き物はどうでしょうか。
 環境が変化して、各地の環境に適応した多種多様な魚介類が生息地を移したり、変化に耐えられずに死んでしまったりすると、生態系が崩壊し、私たちの食卓にも大きな影響が及ぶのは間違いありません。
 
 普段、生物多様性という小難しい言葉を考える人はほとんど居ないと思いますが、ある日突然、普段口にする食べ物が、自然界の環が崩れたことによって手の届かない物になってしまったら・・・・・想像するだけでもゾッとします。
 でもこうやって「食」に置き換えて考えることで、「生物多様性」って言葉も案外身近なものに感じられないでしょうか?皆さんもCOP10の開催期間中は「食」の目線でご覧になってはいかがでしょうか?せっかく日本で開催されるのだし、知っておいて損は無いと思います。


*******おまけ********
10月に入って今年もイカ釣り漁船が見られるようになってきました。
町の明かりよりも一層眩しいイカ釣り船。半島の反対側にあるウトロの町からも、山越しにボンヤリと明るさが確認出来るほどです。


根室海峡に現れたイカ釣り船(左側)2008/11撮影

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2010年10月15日【日本のいのち、つないでいこう! COP10まで1日前】

釧路湿原国立公園 釧路湿原 本藤 泰朗

リハビリ中のオジロワシ幼鳥

ここ釧路湿原野生生物保護センターでは事故などで傷ついた希少種が野生復帰のためにリハビリを行っています。

このケージはリハビリの最終段階で、奥行きは40mもあり、高い止まり木と低い止まり木を行き来する事で飛翔する為の筋肉を鍛え、更に生きた餌などを獲る練習などをし、野生に戻っても十分に生き延びられるよう訓練を行っています。
そして最終的には専門の獣医師により放鳥できるかどうかの判断を行い、野生へ戻ることになります。

現在このケージでは2羽のオジロワシがリハビリを行っています。

左側が成鳥(大人) 右側が幼鳥(今年の春産まれ)

タカ科のオジロワシは翼を広げると2m以上もあり、今年産まれの幼鳥も現在は成鳥と同じ大きさです。
大人と子供では羽の模様が違っていて、大人になると尾が白くなり、頭も白っぽくなり、文字どおりのオジロワシ(尾白鷲)になります。
北海道には一部繁殖している個体はいますが、多くは冬になると越冬のためにロシア極東地域などから渡ってくる冬鳥です。

今年の8月に収容されたこの幼鳥はひどい栄養不良で衰弱し、飛ぶ事も出来ない瀕死の状態で発見されました。

親がうまく餌を運んであげられなかったのかもしれません。
本来であれば親に餌を貰いながら、自分で餌を獲る訓練をして、独り立ちを目指している時期なのですが、その親がいないので自分で訓練するしかありません。

時々もう1羽に甘えるような声を出して近寄っていく行動も見られますが、もう1羽は無関心です。

センターの獣医師によると来年春までには放鳥したいとのことです。


ケージ内で豪快に飛翔するオジロワシ幼鳥

釧路湿原野生生物保護センターではけがや病気など、自分で生活することが困難になったワシやシマフクロウなどの希少種が収容され、野生に戻るためのリハビリをしている施設です。そのため、収容されている個体はできるだけ野生に近いような状態でリハビリを続けています。

残念ながら一般の来訪者の方は、人慣れをさせないために、近くで見学することはできません。人に慣れてしまうと野生に戻った後に人間の近くへ来てしまい、また新たな事故に遭ってしまう可能性があるからです。

釧路湿原野生生物保護センターの2階からはそんなリハビリの最終段階にあるオジロワシの様子を望遠鏡で見ることができます。窓越しではありますが野生に帰る為に頑張っているワシたちを応援してあげてください。

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2010年10月15日日本のいのち、つないでいこう! COP10まで1日前

釧路湿原国立公園 釧路湿原 日吉 真樹子

実りの秋 サルナシ

秋といえば実りの秋。現在、様々な植物が実をつけています。
実といえば何色を思い浮かべますか?
赤い実、紫の実、ピンクの実など、色も形も様々です。

さて、中には緑色の実もあります。「実」と聞いて食べられそう、おいしそうと思う色は赤や紫だと思うのですが、緑色の実でもとてもおいしい実があります。

それはサルナシです。サルナシというよりコクワ、というほうが馴染みがあるかもしれません。

サルナシ(コクワ)の実 マタタビ科

味はキウイフルーツに似ています。ジャムや果実酒にもしたりするようです。

人がおいしいと思うものは動物たちや鳥たちも食べます。そしてその種を様々な場所へ運びます。
こうして種は新しい場所へ根を下ろし、子孫を増やしていきます。
動物たちも植物も互いに必要としているのですね。

動物も植物も人も、みんなが持ちつ持たれつの関係にあり、もしその中のどれかが欠けたら全てのバランスを崩してしまう。そんなことを考えられたら、少し難しく聞こえる「生物多様性」が少しわかるかもしれません。

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2010年10月15日【日本のいのち、つないでいこう! COP10まで3日前】

大雪山国立公園 上川 井上 智雪

~大雪の紅葉~
大雪の山々では紅葉が一段落し、厳しい冬に入る前の静けさに包まれています。打って変わって事務所の周りの小山や町の街路樹が赤や黄色に紅葉し賑やかになっています。



この写真は9月の銀泉台の第一花園の写真です。赤色の植物の大半はナナカマド(特にウラジロナナカマド)で黄色の大半はカバノキ(特にダケカンバ)が生えています。このナナカマドは私たちを楽しませてくれるだけではなく、リスはもちろんクマの食料にもなる真っ赤な木の実をつけます。
標高が下がると、植生が変化するので紅葉する植物も変わってきます。



紅葉の代名詞ともいえるカエデ(写真はハウチワカエデ)です。さらに山地ではダケカンバが黄色く紅葉していましたが、山麓ではシラカンバ(白樺)が黄色く色付きます。



環境が変われば植生も紅葉のタイミングも変わるのは当たり前ですが、隣に生えているモミジは、なぜか青々としていました。日当たりが原因でしょうか?

大雪での初めての紅葉のシーズンを過ごしました。日々彩りを変化させていく多様な植物の紅葉した素晴らしい景色を見ることができた秋でした。

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2010年10月15日日本のいのちつないでいこうCOP10まであと3日

大雪山国立公園 上士幌 三浦 武

というわけでタイトルにもある日本の名を冠した生き物です。
それは、二ホンザリガニ〔絶滅危惧II類(VU)〕:アメリカザリガニ科アジアザリガニ亜科アジアザリガニ属ザリガニ (学名Cambaroides japonicus)。学名にも日本を意味するものが付けられています。
明示の頃シーボルトとハーンによって世界に紹介された二ホンザリガニですが、北海道から天皇家にも献上されていて、ザリガニポタージュとして調理された記録があります。本州に持ち込まれた二ホンザリガニは一部、栃木県日光にも移植されて代を重ねています。

さて、道東を中心にすっかり在来種を駆逐してしまっているウチダザリガニの秋防除in然別湖(今年最後)がいよいよ始まります。見慣れてしまってうんざりするウチダザリガニですが、本来棲んでいた二ホンザリガニが周辺に生息しているのか確かめたく、ひとりで調べてみました。

結果。探索開始から2分であっさり確認。足元の石を持ち上げるといました。近くの別の石をひっくり返すと今度はものすごく小さな個体。しっかり繁殖しています。調査終了。

この大きさで相当な年数を生きています

ずんぐりと丸みを帯びたザリガニ。明らかにウチダの体型とは異なる姿に愛嬌を感じます。なにしろウチダの場合はどんなに小型でも人間への攻撃性は凄まじく、挟む力も尋常ではありません。



いることが分かったので長居は無用。石を元の状態に戻してザリガニを水に戻しこの場から立ち去りました。
このまま二ホンザリガニにとって良い環境が残ることを祈りつつ、週明けから始まるウチダザリガニ防除の準備をするのであった。

落ち葉を主食とする二ホンザリガニの生息環境

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2010年10月15日「日本のいのち、つないでいこう」いよいよCOP10 ~ヤチヤナギ、

利尻礼文サロベツ国立公園 稚内 賀勢 朗子

 「生物多様性」が健全に保たれるためには、多くの生き物が存在していることが必要で、存在し続けるためには、生き物たちは子孫を残していかなければなりません。次の世代に命をつないでいくために、生き物たちは様々な作戦をとります。

 分裂して自分と全く同じ遺伝子を持った別個体をつくるものは短期間に沢山増えることができます。
雄と雌が出会って結ばれるものは多様な遺伝子の組み合わせをつくることで様々な環境に適応する可能性を生み出します。そして種によっては独り立ちできるまで大事に子育てしたり、大量に卵を産んで生き残れる可能性を増やしたり、風や虫を利用して子孫の分布を拡大したりと、実に様々な作戦を持っています。命をつないでいく方法の様々な在り方そのものがそれぞれの生き物の個性であり、これも「生物多様性」を形づくるひとかけらだと私は思います。

 最近、サロベツ原野に数多く生育し、なんの変哲もないと思っていたヤチヤナギを通じて植物の命のつなぎ方の奥深さを考えさせられました。ここでご紹介したいと思います。

 ヤチヤナギは北方の湿原に生育するヤマモモ科の落葉低木で、別名はエゾヤマモモ、北海道の泥炭地や本州三重県以北の高地湿原に生育しています。葉の裏をこするとスーっと清々しくよい香りがするこの低木には雄の木と雌の木があり、サロベツでは雪解け間もない5月始めから6月頃にかけて雄の木は黄色い花を、雌の木は赤い花をつけているのが見られます。園内の木道脇に沢山ある木なのですが、小さな風媒花(ふうばいか)なので注意していないと気づかないかもしれません。葉は花が終わった後に展開してきます。


【花と果実】


【葉の展開の様子】

 雄の木と雌の木がある(雌雄異株)ということは、別々の株同士が有性生殖をするということであり、その長所は上にも書いたとおり、遺伝子を合体させて新しい環境に適応できる子孫を生み出すこと、また、種子が遠く運ばれることによって親株から離れたところへ分布を広げられることです。

 しかし、ヤチヤナギには繁殖についてもうひとつ作戦があることを知りました!
それは栄養生殖もするということです。ヤチヤナギには匍匐枝(ほふくし)といって根元から出て地面を横に這う枝があります。匍匐枝の節からは新しい株がつくられ、これは親株のクローンです。
これには一体どのようなよいことがあるのでしょうか。
匍匐枝でつながっている株の間では成長に必要な養分や光合成産物の相互交換が行われており、株同士は各々が生育する場所で多く得られる養分を別の株に供給し、不足している養分は提供してもらうことができます。匍匐枝で結ばれていると親株から遠く離れて分布することは難しくなりますが、結ばれた複数の株全体の生存や成長を高め、根付いた場所にしっかり定着することができるのです。

 植物が利用できる養分が少ない湿原において、新しい環境に分布を広げる作戦と根付いた場所に定着する作戦の両方を持ち合わせるヤチヤナギ。なんてたくましくしなやかなのだろうと感心してしまいました。

 しかしながら、ヤチヤナギの個体群は、北海道や尾瀬では比較的多く生育し安定しているようですが、三重県や愛知県では小さな個体群が隔離された状態で自生していて地域的には絶滅も危ぶまれているようです(愛知県版レッドデータブック2009)。たくましいヤチヤナギといえども、湿原の減少などにより少しずつ追い詰められてきています。

 生物多様性の危機は単に種の数が減少するということではなく、それぞれの種の個性豊かな生き様が失われるということだと思います。それが失われた世界はとてもパサパサとした味気ないものに感じます。

いよいよCOP10が開催されますが、これを機会に私自身も生物多様性を未来に受け継ぐために何をしていったらよいかを見つめ直してみたいと思っています。


【来年への準備 花芽や葉芽ができてきています。】












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2010年10月15日【日本のいのち、つないでいこう! COP10まで 1日前】

知床国立公園 ウトロ 伊藤典子

知床のシンボルになりそうなハンゴンソウ(キク科キオン属)

知床の夏に咲き誇っていて、みんなの目を楽しませてくれていたハンゴンソウ。現在、知床でもっともよく目にする花ではないでしょうか。知床では、シカによる採食が進み、昔はよく見られた花がどんどん無くなってしまっているようです。しかし、その中でも、たくましく咲き誇っているのがハンゴンソウ。鮮やかな黄色い花は観光客を楽しませています。ハンゴンソウに含まれるなんらかの成分をエゾシカは嫌がるため、生き残っているようです。


8月中旬のフレペの滝遊歩道の様子。一面が黄色く染まっている。


しかし、冬になってみると、このハンゴンソウがシカ達の大事な食料元になっているようです。ハンゴンソウは雪が積もった大地から枯れたままの姿で立ちつくしています。それをむしゃむしゃと食べるエゾシカ。夏には、見向きもしないハンゴンソウに冬には支えられているのですね。一見、つながらないようにみえる生きもの同士もどこかでつながっているようです。この他にも目に見えない場所で、つながっている生きものがたくさんあるのでしょう。


1月中旬の様子。硬そうに見えるハンゴンソウの茎を懸命に食べています。

さて、今時期は枯れているハンゴンソウよりも、まだかろうじて緑色を保っている草を食べたいようです。

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