北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。
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皆様こんにちは。
2021年もそろそろ暮れようとする12月11日、道東のとある河川で、希少種の生息環境を確保するため、環境省事業として、シマフクロウの餌となる魚類を保全するため魚道の改良を行いました。
今回のターゲットはズバリ、底生魚類(※)の一種、カジカ(エゾハナカジカ)の遡上促進です!地味っ!ですが、シマフクロウ研究者の竹中さんによると、カジカが豊富に生息する地域ではシマフクロウの餌の大半がこの魚だったこともあるとのことで、シマフクロウの餌としてカジカはとても大事なのです。カジカは川底の石の隙間を生活空間や産卵場所とする魚類ですが、孵化直後の仔魚はいったん浮遊して海に流れ下り、そこで数週間成長した後、再び川に上るというライフサイクルを持っています。このように海と川を回遊する魚類にとって、川を遡るのに障害となる人工工作物は大敵です。
(※)底生魚とは、海や河川・湖沼の底部をおもな生活の場とする魚類の総称 。
<写真左>エゾハナカジカ <写真右>エゾハナカジカを食べるシマフクロウ(竹中氏提供)
今回の取組を行う現場には、川の中に高さ1.5mほどの段差(落差工)があります。落差工には既に3段の階段魚道が設置されており、サクラマスなど、泳ぎの得意な魚は魚道を使い上流へ遡上できます。しかし、カジカにとってはこの魚道内の段差すらハードルとなり、ここから上流に上れないため、この落差工の上流側にはカジカは生息していないのです...。
<写真>今回の魚道改良現場(段差(落差工)に設置された魚道(左端)が作業対象)
そのため、今回は既存の魚道に丸石や木材を使ってスロープを作り、カジカが上れるようにして、さらに落差工の前後にカジカの隠れ家となる石倉作りを行うことになりました。でももう12月ですよ...。川の中の作業を本当にするんでしょうか...?
当日は、幸いにも季節外れの暖かさで雪もなく、魚道の設計を手掛けて下さった研究者の岩瀬さん、竹中さんの他、EnVision環境保全事務所(エンビジョン)さん、そして口コミで集まってくださった周辺地域の市民の方々にご参加頂きました。もちろん環境省職員も一緒です。
<写真>作業開始前の全体打ち合わせの様子
まず作業は総重量5トン(5,000kg)の丸石の運搬から始まりました。実はこの丸石、1つ5kgから時には20kg?にもなる重い石でした。丸石運搬チームがその大量の丸石を、一列に並びバトンリレーならぬ石リレーで作業場所へ移動させました。
<写真左右>息の合ったバトンリレーならぬ石リレー。圧巻です
石倉製作チームは、ハンマーを振りかぶり、川底に木の杭を60㎝も打ち込み、袋状の網を固定した中に丸石を積み上げます。あっという間に3つの石倉が出来上がりました!
<写真左右>石倉制作のため木杭を打ち込み袋状の網を固定している石倉制作チーム
<写真>完成した石倉(水の中では、カジカが好む石の隙間ができていました)
環境省チームは、魚道に流れ込む川の水をせき止める重要任務を任されました。川底の砂利を入れた土嚢を作り(その数約50袋)、流木や倒木を組んでブルーシートを被せ、その上に土嚢を乗せて水の流れを止めようと奮闘しました!しかし、予想以上に水の力は強く、なかなか水が止まらず悪戦苦闘。1時間半かけてようやく完全に止めることに成功しました...。あー腰が痛い...。
<写真左>一心不乱に土嚢袋へ砂利を詰め込むウトロ・羅臼自然保護官事務所のARさん
<写真右>ビーバーのように倒木や流木も利用して、水のせき止めに挑戦中
<写真左>魚道への水のせき止めに奮闘する様子
<写真右>ようやく水のせき止めに成功し流れがとまりました
水が止まったところで、ついにスロープ製作チームの登場です!魚道に溜まった水を汲み出して、岩瀬さんの指導のもと、魚道本体に木材をボルトで固定し、その隙間に大量の丸石を詰め込みました。それを魚道3段分作りました。作り上げる頃にはそろそろ日が傾き、寒くなり始めていました。
<写真左右>木材を固定し、隙間に石を詰め込んでいる様子
<写真左右>完成したスロープ
無事にスロープが完成し、いよいよ通水です!環境省チームが苦労して作ったせき止めを崩すと、水が魚道に一気に流れ込み、丸石や木材はすべて水の下になりました。予想通り、スロープを流れる水はかなりスピードが遅くなっています。これでカジカがスロープを伝って上流へ上り、たくさん増えてくれるはず~!
<写真左右>通水後スロープは水の下へ...カジカが上れそうです
なんとか一日で作業が終わりました。すべて手作業だったので大変でしたが、個人的にはとても楽しくて、参加者の皆さんとの一体感や達成感は格別なものでした!
この川にはまだまだ同じような落差工(魚道)があるので、今後はさらに上流部に向かって次々と魚道を改良していこうと計画しています。来年度以降は、市民の方々へ広く参加を募り、皆さんと共に自然と触れ合い、小さな自然保護を行っていきたいと強く思いました!
<写真>完成したスロープを体感
(お昼休みには、エンビジョンの方がシカ汁やシカ焼き肉を振る舞ってくださり、寒空の下、身に染みる美味しさに参加者全員がほんわかしました。どうもありがとうございました)
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アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、利尻礼文サロベツ、知床、阿寒摩周、釧路湿原、大雪山、支笏洞爺国立公園があります。
皆様こんにちは。
2021年もそろそろ暮れようとする12月11日、道東のとある河川で、希少種の生息環境を確保するため、環境省事業として、シマフクロウの餌となる魚類を保全するため魚道の改良を行いました。
今回のターゲットはズバリ、底生魚類(※)の一種、カジカ(エゾハナカジカ)の遡上促進です!地味っ!ですが、シマフクロウ研究者の竹中さんによると、カジカが豊富に生息する地域ではシマフクロウの餌の大半がこの魚だったこともあるとのことで、シマフクロウの餌としてカジカはとても大事なのです。カジカは川底の石の隙間を生活空間や産卵場所とする魚類ですが、孵化直後の仔魚はいったん浮遊して海に流れ下り、そこで数週間成長した後、再び川に上るというライフサイクルを持っています。このように海と川を回遊する魚類にとって、川を遡るのに障害となる人工工作物は大敵です。
(※)底生魚とは、海や河川・湖沼の底部をおもな生活の場とする魚類の総称 。
<写真左>エゾハナカジカ <写真右>エゾハナカジカを食べるシマフクロウ(竹中氏提供)
今回の取組を行う現場には、川の中に高さ1.5mほどの段差(落差工)があります。落差工には既に3段の階段魚道が設置されており、サクラマスなど、泳ぎの得意な魚は魚道を使い上流へ遡上できます。しかし、カジカにとってはこの魚道内の段差すらハードルとなり、ここから上流に上れないため、この落差工の上流側にはカジカは生息していないのです...。
<写真>今回の魚道改良現場(段差(落差工)に設置された魚道(左端)が作業対象)
そのため、今回は既存の魚道に丸石や木材を使ってスロープを作り、カジカが上れるようにして、さらに落差工の前後にカジカの隠れ家となる石倉作りを行うことになりました。でももう12月ですよ...。川の中の作業を本当にするんでしょうか...?
当日は、幸いにも季節外れの暖かさで雪もなく、魚道の設計を手掛けて下さった研究者の岩瀬さん、竹中さんの他、EnVision環境保全事務所(エンビジョン)さん、そして口コミで集まってくださった周辺地域の市民の方々にご参加頂きました。もちろん環境省職員も一緒です。
<写真>作業開始前の全体打ち合わせの様子
まず作業は総重量5トン(5,000kg)の丸石の運搬から始まりました。実はこの丸石、1つ5kgから時には20kg?にもなる重い石でした。丸石運搬チームがその大量の丸石を、一列に並びバトンリレーならぬ石リレーで作業場所へ移動させました。
<写真左右>息の合ったバトンリレーならぬ石リレー。圧巻です
石倉製作チームは、ハンマーを振りかぶり、川底に木の杭を60㎝も打ち込み、袋状の網を固定した中に丸石を積み上げます。あっという間に3つの石倉が出来上がりました!
<写真左右>石倉制作のため木杭を打ち込み袋状の網を固定している石倉制作チーム
<写真>完成した石倉(水の中では、カジカが好む石の隙間ができていました)
環境省チームは、魚道に流れ込む川の水をせき止める重要任務を任されました。川底の砂利を入れた土嚢を作り(その数約50袋)、流木や倒木を組んでブルーシートを被せ、その上に土嚢を乗せて水の流れを止めようと奮闘しました!しかし、予想以上に水の力は強く、なかなか水が止まらず悪戦苦闘。1時間半かけてようやく完全に止めることに成功しました...。あー腰が痛い...。
<写真左>一心不乱に土嚢袋へ砂利を詰め込むウトロ・羅臼自然保護官事務所のARさん
<写真右>ビーバーのように倒木や流木も利用して、水のせき止めに挑戦中
<写真左>魚道への水のせき止めに奮闘する様子
<写真右>ようやく水のせき止めに成功し流れがとまりました
水が止まったところで、ついにスロープ製作チームの登場です!魚道に溜まった水を汲み出して、岩瀬さんの指導のもと、魚道本体に木材をボルトで固定し、その隙間に大量の丸石を詰め込みました。それを魚道3段分作りました。作り上げる頃にはそろそろ日が傾き、寒くなり始めていました。
<写真左右>木材を固定し、隙間に石を詰め込んでいる様子
<写真左右>完成したスロープ
無事にスロープが完成し、いよいよ通水です!環境省チームが苦労して作ったせき止めを崩すと、水が魚道に一気に流れ込み、丸石や木材はすべて水の下になりました。予想通り、スロープを流れる水はかなりスピードが遅くなっています。これでカジカがスロープを伝って上流へ上り、たくさん増えてくれるはず~!
<写真左右>通水後スロープは水の下へ...カジカが上れそうです
なんとか一日で作業が終わりました。すべて手作業だったので大変でしたが、個人的にはとても楽しくて、参加者の皆さんとの一体感や達成感は格別なものでした!
この川にはまだまだ同じような落差工(魚道)があるので、今後はさらに上流部に向かって次々と魚道を改良していこうと計画しています。来年度以降は、市民の方々へ広く参加を募り、皆さんと共に自然と触れ合い、小さな自然保護を行っていきたいと強く思いました!
<写真>完成したスロープを体感
(お昼休みには、エンビジョンの方がシカ汁やシカ焼き肉を振る舞ってくださり、寒空の下、身に染みる美味しさに参加者全員がほんわかしました。どうもありがとうございました)