報道発表資料
2013年04月24日
- その他
報道発表:タンチョウ生息地分散行動計画の策定について(お知らせ)
釧路自然環境事務所
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で国内希少野生動植物種に指定されているタンチョウについては、平成5年に保護増殖事業計画が策定され、保護の取組を進めてきました。地域住民をはじめとする方々の精力的な努力により、タンチョウの個体数は劇的に回復しましたが、一方で現在のタンチョウは釧路管内の給餌場周辺の限られた地域に集中して越冬しているため、給餌場等タンチョウの集結地において重篤な感染症が発症した場合等、個体数が一気に減少するおそれなどが生じています。
そこで、本種の生息のための諸条件を改善し、繁殖地及び越冬地の分散を図ることにより、給餌に依存しない個体群を絶滅の危機を回避できる規模まで創出し、タンチョウが自然状態で安定的に存在できるような状態になることを最終的に目指しながら、道内において生息分散が確実に進むことを目標に、「タンチョウ生息地分散行動計画」を策定しましたので、お知らせします。
記
1.検討の経緯
- 平成7~9年度にかけて、タンチョウ生息地分散促進計画策定のための調査を実施するとともに、検討会を開催。
- 平成10年度以降、塒(ねぐら)要件や越冬分散候補地の環境把握など、計画検討に必要な各種調査を実施。一方で、保護の取り組みとしては、まず絶滅の危機を脱するまで個体数が回復することを第一に、事故対策等に重点を置いて実施。
- 平成17年度の一斉個体数調査で、タンチョウが1,000羽を超えたことを受け、平成18年度には給餌のあり方について見直しを行った。その中で給餌の目的を最低限現在の個体数を維持するための暫定的措置として「冬期間の餌の補完」「分散促進(過密化の解消及び越冬地の分散)」の二点とするなどした『タンチョウの給餌に係る実施方針』を策定した。
- 釧路管内では平成20年度に鳥インフルエンザが発生(平成22年度にも発生)。野生生物保護対策検討会タンチョウ保護増殖分科会でも給餌場での感染リスクの危険性に鑑み分散が最優先課題とされ、『タンチョウの給餌に係る実施方針』よりさらに踏み込んだ給餌のあり方や分散に対する検討が求められた。
- 平成22年度にワーキンググループを設置し、2回の議論を経て同年度の分科会にアクションプランの素案を提示。
- その間、計画案に沿った試行的な取り組みを行いつつも、より実効性を持たせるべく計画検討を重ね、平成25年3月14日のタンチョウ保護増殖分科会の議論を経て今回の計画を策定。
2.計画の概要
- 地域住民の精力的な給餌などにより、絶滅が危惧されたタンチョウは2005年度には1,000羽を超えるまで回復
- 一方、現在のタンチョウは釧路管内の給餌場周辺の限られた地域に集中して越冬
- 越冬期は給餌に大きく依存しており、自然的には不安定な状態(安定的に存続できる状態とは言えない)
- 給餌場等で重篤な感染症が発症した場合、個体数が一気に減少するおそれ
- 過度の集中の緩和(誘引技術の確立、現行給餌場間の分散)
- 方向性を持った越冬分散(現行給餌場外への分散、道央・道南への分散、本州への分散手法等検討)
- 生息(繁殖及び越冬)適地の保全(現在の繁殖地及びその周辺部での保全、新たな生息環境の創出等)
- 生息域外保全
- 生息地分散に必要な調査の促進(分散効果の確認、GPSテレメトリ等の活用による行動追跡及び環境利用把握、定点カメラや直接観察、無人飛行体などによる自然採餌場の利用把握、誘引技術の確立、個体数モニタリング(繁殖期、非繁殖期)、給餌量の変更に伴う影響評価及び対策の推進、社会的側面等も取り入れた越冬候補地の抽出、遺伝的解析、その他)
- 実行体制の確保
- 実行にあたっての合意形成
- 生息地そのもの及び給餌場相互の分散を促して安定化を図るとともに、空間的な拡がりを持たせることで感染症などのリスクに備える
- 自然分散を促す取り組みによって生息域を拡げ、自然状態で安定的に存続できるような状態になることを最終的に目指しながらも、まずは道内において生息分散を確実に進める
3.年次計画の概要
第Ⅰ期(過度の集中の緩和と分散手法の確立): | |
(a) | 過度の集中の緩和として、環境省委託給餌場が占める越冬個体数の実数を減らすこと |
(b) | 過度の集中の緩和として、北海道委嘱給餌場のうち100羽を超える規模の音別高橋給餌場と茶安別丸山給餌場の越冬個体数の実数を減らすこと |
(c) | 給餌に依存しない地域個体群創出のための情報把握 |
(d) | 「方向性を持った分散」のための候補地検討と、道央方面への分散拠点確立にむけた準備等 |
(e) | 生息域外保全の取り組みと人為的移入の手法開発 |
(f) | 実行体制の確立 |
第Ⅱ期(道内における生息分散): | |
(a) | 釧路地域以外の越冬個体数を20%台とすること |
(b) | 道南まで越冬分布を拡げること |
(c) | 独立群が定着できる新規の生息環境を創出すること |
最終的な目標を達成するには、長期的に取り組む必要があるが、まずは当面短・中期的な取り組みが必要な第Ⅰから第Ⅱ期までの具体的な計画を策定した。
事業開始後5年程度経過した後にタンチョウの生息状況及び事業の進捗状況を確認し、次の段階に移るか等の判断も含め、適宜計画の見直しを行う。
分散計画のイメージ
参考:
※平成22~24年度タンチョウ保護増殖分科会及び平成22年度素案検討時のワーキンググループ委員
《タンチョウ保護増殖分科会委員》 | |
黒沢 信道 | 釧路地区農業共済組合中部事業センター長 獣医師 |
古賀 公也 | 釧路市動物園 園長補佐 |
林田 恒夫 | (財)日本野鳥の会 元 釧路支部長 |
藤巻 裕蔵 | 帯広畜産大学 名誉教授 【座長】 |
百瀬 邦和 | NPO法人タンチョウ保護研究グループ 理事長 |
正富 宏之 | 専修大学北海道短期大学 名誉教授 |
《ワーキンググループ委員》 |
|
小川 巌 | 酪農学園大学環境システム学部 教授 |
黒沢 信道 | 釧路地区農業共済組合中部事業センター長 獣医師 |
古賀 公也 | 釧路市動物園 園長補佐 |
百瀬 邦和 | NPO法人タンチョウ保護研究グループ 理事長 |
※タンチョウ生息分散行動計画【PDF.972KB】