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北海道地方環境事務所

報道発表資料

2014年03月20日
  • その他

報道発表:「シマフクロウ放鳥手順」の策定について(お知らせ)

環境省 北海道地方環境事務所
所長: 出江 俊夫
野生生物課長: 小口 陽介
野生生物課自然保護官: 岸田 春香
電話(011)299-1954 FAX(011)736-1234
環境省 釧路自然環境事務所
所長: 西山 理行
野生生物課長: 大林 圭司
野生生物課自然保護官: 藤井 沙耶花(担当)
電話(0154)32-7500 FAX(0154)32-7575

 環境省では、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律で国内希少野生動植物種に指定されているシマフクロウについて、1984年(昭和59年)から保護の取組を進めてきました。
 1993年(平成5年)以降これまで、計10例*1のシマフクロウの人為的な放鳥を実施しており、放鳥に関する知見が蓄積されてきました。そこで、過去の事例や課題を整理し、放鳥の具体的な手順を示すことで今後のシマフクロウ生息地拡大を効果・効率的に進めることを目的として、この度、「シマフクロウ放鳥手順」を策定したので、お知らせします。

*1 傷病個体をその保護した場所や本来の生息地に戻す放鳥は含めない。

1 検討の経緯

 平成11年に策定した「シマフクロウ野外つがい形成促進計画(以下、アクションプランという)」において、シマフクロウ人為分散事業促進を進める3つの柱の1つである「シマフクロウ放鳥手順」(他の2つは「飼育下個体群の維持・充実計画」、「生息地拡大に向けた環境整備計画(平成25年3月策定)」)を策定するため、本年度「シマフクロウ放鳥手順ワーキンググループ」(以下WG、詳細については3参照)を設置し、案を作成しました。その後、シマフクロウ保護増殖検討会(平成26年3月6日開催)において検討し、承認されました。

2 シマフクロウ放鳥手順の概要

Ⅰ.背景

 アクションプランにおいて、生息地や個体数の充実には人為分散事業を促進すべきとされている。環境省では保護収容個体を中心として1993年(平成5年)以降これまで計10例の人為的な放鳥を実施しており、事例が蓄積されてきてはいるものの、その課題や手順についてはとりまとめられていない。このため、過去の事例を整理し、今後の生息地の分断や単独個体の解消も含め、シマフクロウ生息地拡大を効果・効率的に進めることを念頭に、本手順を策定した。

Ⅱ.計画の目的

アクションプランに掲げた「生息地(つがい生息地点)100箇所、個体数200羽」の中間目標達成に向け、生息地*2の拡大・充実を図るための戦略的な放鳥について基本的な考え方を明らかにすること
上記を効果的・効率的に実施するため、これまでの放鳥事例について整理を行い、傷病個体や飼育下繁殖個体等の効果的な活用も含め、放鳥の具体的な手順を示すこと

Ⅲ.これまでの取組状況と課題

(1)
これまでの取組状況
これまでに行った放鳥事例は野外つがい形成を目的としたものが7例(うちつがいでの放鳥は1例)、単独で放鳥したものが3例の計9羽10例である。放鳥を行った10例中8例について、送信機による追跡調査が実施されている。放鳥後に事故等が確認され収容されたのは3例であり、その内訳は交通事故による再収容、養魚場における溺死、そして重度の栄養不良による衰弱に関連する死亡である。
(2)
課題
  • 放鳥の目的に対応した放鳥場所の選定、放鳥個体の選択、放鳥地における環境整備について具体的な手順や検討事項を示す必要がある。
  • 放鳥の目的及び使用できるモニタリング機器等、追跡調査に充てられる人的資源や予算等の状況を考慮してモニタリング方法を検討する必要がある。
  • シマフクロウの遺伝的多様性の情報について整理する必要がある。
  • 放鳥の実施にあたって、多大な人的労力及び予算が必要であり放鳥数が増加しない要因の一つとなっていることから、効果的・効率的な放鳥方法の検討が必要である。

Ⅳ.遺伝的多様性についての情報の整理

 シマフクロウはかつて北海道内で広域に移動し、それにともなう遺伝的な交流があったが、生息地の減少や分断化にともなうボトルネック効果により、地域集団内の均質化、多様性の低下、近親交配率の増加が生じたと考えられる。また一部の地域集団では病原体に対する抵抗力の低下のリスクが高まっている可能性が示唆される。一方、その中でも少数の個体が移動し、遺伝的多様性の増加に貢献した例もある。よって、遺伝的な面から見た場合、多様性維持のためには、地域間の個体の移動により、遺伝的な交流を促進することが効果的と考えられる。

Ⅴ.放鳥適地及び放鳥個体の選択

(1)
放鳥適地の選択
放鳥適地の選択条件は、放鳥の目的によって異なる。放鳥の目的には、「野外つがい形成を目的とした放鳥」と「分散促進を目的とした放鳥」の2つがある。
野外つがい形成を目的とした放鳥の場合、長期間に渡ってつがいが放鳥地に定着し、繁殖を行うことが前提となることから、つがい及びその子が生息できる十分な餌環境があること、繁殖可能な洞又は巣箱がある、あるいは設置可能であること等が条件となる。
分散促進を目的とした放鳥の場合、放鳥したシマフクロウがその土地に定着せず、他地域へ移動分散することが前提となることから、移動分散の経路が確保されていることや分散可能な範囲内に生息可能な環境が整った地域があること等が条件となる。また分散促進を進めるに当たって拠点となる場所やエリアを設けて放鳥する方法もある。
(2)
放鳥個体の選択
放鳥個体は個体の特徴を十分に考慮したうえで、放鳥の目的に合ったものを選択する必要がある。放鳥個体には傷病個体、飼育下個体、野生下からの捕獲個体の3つの由来がある。
野外つがい形成を目的とした放鳥を行う場合、性別、年齢、身体機能に問題がないこと、つがいを形成する個体同士の相性等が選択条件となる。
分散促進を目的とした放鳥を行う場合、野外で自活できるよう十分な飛翔能力、採餌能力を有していること等が選択条件となるが、これまで実施された事例が少ないため今後事例の積み上げを行うことが重要である。

Ⅵ.放鳥の実施にあたっての検討項目

 Ⅴ章で記載した生息地の拡大・充実を図るための戦略的な放鳥にあたっての基本的な考え方を踏まえ、実際の放鳥の実施にあたって検討すべき項目について具体的に記載している。
実際の放鳥における手順は、まず、放鳥前の準備として放鳥個体の決定及び放鳥予定地における環境整備、次に、放鳥時期及び放鳥方法の選定、その後、放鳥前訓練(リハビリ)、順化、放鳥(リリース)、最後に放鳥後のモニタリング及び緊急時の対応、という順序で行うが、過去の事例よりそれらを行う際の留意点について具体的に整理した。

Ⅶ.その他

情報共有体制及び公表、本放鳥手順の見直しについて記載している。

3 放鳥手順策定ワーキンググループについて

○ 検討委員
  竹中 健 シマフクロウ環境研究会 代表
  早矢仕有子 札幌大学 教授
  藤巻 裕蔵 帯広畜産大学 名誉教授
  山本 純郎 日本鳥類標識協会 会員
○ 請負者
  株式会社 猛禽類医学研究所 代表 齊藤慶輔
○ 開催状況
  第1回 平成25年12月17日 
  第2回 平成26年2月7日

<添付資料>

シマフクロウ放鳥手順(平成26年3月) [PDF 980KB]

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