北海道のアイコン

北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

「大きな球状マリモの生息地へ!」

2024年03月27日
森竹祐
こんにちは!阿寒湖管理官事務所の森竹です。
 
3月6日に阿寒湖のマリモ生息地であるチュウルイ湾で、阿寒湖義務教育学校9年生(中学3年生)対象のマリモ氷上観察会が行われました。
 
1997年から続く伝統ある観察会で、地元の子は高校進学から阿寒湖を離れるため、「最後にマリモを観察することで保護の大切さを知ってもらいたい」という
地元有志の考えから始まりました。進学先でマリモをきっかけにさらに人脈を拡げてほしいという願いも込められています。
 
幸運にも、今年は地元関係者として参加することができました!

マリモのこれまで

阿寒湖で最初にマリモが見つかったのは、今から127年前の1897年(明治30年)。
1898年に「毬藻(マリモ)」と命名されました。
 
マリモは、1920年代までに阿寒湖の4カ所に群生していたと記録されています。
しかし、その後の木材伐採による河川からの土砂流入などにより湖西部の2カ所が消滅。
そのうちの1カ所は、マリモが最初に発見されたシュリコマベツ湾でした。
代替テキスト
林の向こう側に見える、マリモが最初に発見された「シュリコマベツ湾」
マリモの生息が危機的になった出来事はほかにもあり、
1950年代には、水力発電による湖水利用により阿寒湖の水位が著しく低下し、
多くのマリモが水面から出てしまうというアクシデントが発生。

その後も生活排水による水質汚染や売買目的の盗掘や生息地への遊覧船の乗り入れなど様々な問題が発生し、
マリモへの被害を抑えるために水質の改善や生息地への立ち入りを禁止するなどの対策をとってきました。
 
マリモは、文化庁により1952年に「特別天然記念物」に指定され、
環境省の環境省レッドリスト2020では「絶滅危惧種I類(絶滅の危機に瀕している種)」に指定されています。
代替テキスト
「チュウルイ湾」のマリモ
一方、海外で大型の球状マリモ群生地として有名であったアイスランドの「ミーヴァトン湖」では2014年にマリモがほぼ絶滅したと報告されました。
そのため、現在、大型の球状マリモ群生地が残っているのは、『“世界で阿寒湖だけ”』と考えられています。
 
2000年に行われたミーヴァトン湖のマリモ調査では、群生地・個体数ともに阿寒湖よりも多かったことがわかっています。
 
その大きな群生地が消滅してしまったのは、生息環境の悪化によるものだと考えられています。
マリモは非常に繊細で環境の変化による影響を受けやすいことが明らかになっており、この性質はマリモを保全していく上で最も配慮しなければならないといえます。

マリモの様子

厚さ約40cmの氷の下、水深1.6mの湖底に群生していたマリモ。
これまで、鮮やかな緑のマリモの写真を見ることが多かったのですが、実際に見たマリモは茶色っぽく、
イメージとはかけ離れた色をしていました。その理由はプランクトン付着によるものとのことでした。
 
実際に触ってみましたが、感触は絨毯のような感じでした。外側は比較的頑丈な印象を受けたのですが、
研究者の方曰く、今年は例年に比べて柔らかく、夏の猛暑が影響した可能性があるとのことでした。
代替テキスト
直径約20cmのマリモ  
代替テキスト
氷の厚さは38センチでした

阿寒湖のマリモが見られる機会はごくわずか

昨年の1月に着任して以来、阿寒湖のマリモを見たのは今回の観察会が初めてでした。
生息地でマリモが見られる機会はめったにありません。
 
環境省職員として阿寒湖で働く以上、「1度はマリモ群生地を見て状況を知っておきたい」という
これまでの願いが1年越しにようやく叶いました。
 
『阿寒湖といえばマリモ』というイメージは多くの方がお持ちだと思います。
まさにマリモは阿寒湖の「象徴」ともいえる存在です。
 
前述のとおり、大型の球状マリモ生息地は『世界で阿寒湖だけ』
この貴重な生息環境を未来に残していくことは、阿寒湖の環境保全活動として大きな意味を持ちます。
 
阿寒湖で日々仕事をしながら感じているのは、阿寒湖の歴史はマリモなしには語れないということ。
そして何より、マリモは地域の方々にとって「大切に守ってきた“地域の宝”」になっているということです。
 
これまでの保全活動の成果で生き延び、長きにわたり阿寒湖で暮らす子どもたちの門出を見守ってきた「マリモ」。
今年もその役目をしっかりと果たしていました。
 
「マリモ」という地域の宝が、これから先も存続してくれることを願うばかりです。