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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

十勝と日高をつなぐエサオマントッタベツ岳で見た聞いた感じたもの

2021年10月28日
丸岡梨紗

 10月上旬に登山道調査のために、エサオマントッタベツ岳に行ってきました。

 登山道の藪漕ぎを覚悟してはいましたが、入渓地点まで草刈りがされており、歩きやすかったです。

 ここは日高らしい沢登りからの山頂を目指すルートとなり、原始的な登山スタイルを楽しむことができます。

 繰り返す徒渉ではかなり水は冷たかったのですが、上流部の日陰では、キラキラと光るガラスのような氷も見られました。

左:【エサオマントッタベツ川はひたすら徒渉を繰り返す】

右:【ガラスのようにキラキラと光る氷】

 また、オショロコマでしょうか。魚影も多く確認されました。

 大滝の巻き道は慎重な通過が必要なところで、左岸にロープが設置されているところがありましたが、上部の滑滝は長く続くので慎重にぬめらないところ・登りやすいところをルート選びする必要がありました。

 今回は調査のためこの時期になりましたが、時期が遅くなると藻が発生し、沢がぬめりやすくなって大変危険であることと、行動時間が長いために、日没を考慮すると、遅くとも9月上旬までに計画することをお勧めいたします。

 このカールから流れ落ちる滑滝はトラフヘッドウォールと呼ばれる氷河地形の滝で、そんな滝を登ることができて心が躍ります。

【長大な滑滝】

 たどり着いた秋枯れの荒涼とした北東カールは、大変素晴らしいところで、衝立のようなカール壁にエサオマントッタベツが聳えていました。

                            下:【ブロッケン現象】

 ここから、その壁を越えて稜線に抜け、山頂を目指すのですが、稜線にあがったところ谷方面の一面の雲海の中に虹色に輝くリング、ブロッケン現象を見ることができました。

 ブロッケン現象とは、太陽などの光が背後から差し込み、影の側にある雲粒や霧粒によって光が散乱され、見る人の影の周りに、虹と似た光の輪となって現れる大気光学現象といわれています。霧の中に伸びた影と、周りにできる虹色の輪(ブロッケンの虹)の二現象をまとめて指しています。

山岳の気象現象として有名で、尾根の日陰側かつ風上側の急勾配の谷で山肌に沿って雲(霧)がゆっくり這い上がり、稜線で日光にあたって消える場合によく観察されると言われていますが(※Wikipediaより引用)、まさに今回はその状況です。 

 幻想的な光景中を山頂へ。山頂からは先月登った幌尻岳から1839峰まで見渡すことができ自分の山行を振り返りました。

 また、今回は確認できなかったのですが、山頂には十勝と日高のアイヌが日高山脈を越えて行き来していたということを示す古い石垣があるようです。エサオマントッタベツは、アイヌ語で「浜に向かう箱様の川」の意味をもっています。

 そして日高のアイヌの英雄である、シャクシャインも実は十勝生まれだったと言われています。帯広の拓成町(この上流にトッタベツ川がある)と新ひだか町の農屋を結ぶ道はシャクシャインロードと呼ばれていて、この道筋の川や沢の名付け方は十勝と共通しており相当古くから人が行き来したことを示しています。(参考文献※1)

 

【1839m峰方面を望む】

 

左:【山頂から見渡す雲海】            

右:【衝立のようなカール壁と雲海】

 下山すると霧は晴れ、青空に無数の小鳥が風に舞って輝いていました。日高山脈でナナカマドの実を食べたりして羽を休めつつ、南に向かって飛ぶのでしょうね。

 カールには来る冬に備えて貯食に忙しいナキウサギの声がこだましていました。カールは、冬期の風の向きや積雪から、日高山脈の北斜面と東斜面に分布し、十勝側でも多数のカールがみられ、水や高山植物が豊富な為、ヒグマやナキウサギの姿が多く見られます。

                       下:【北東カールより夕焼けのエサオマントッタベツ岳】

今回はそのナキウサギについてご紹介したいと思います。

ーナキウサギについて(参考文献※2)ー

 日本では北海道だけに生息しているエゾナキウサギは、ウラル、シベリア、モンゴル、中国東北部、朝鮮半島北部、カムチャツカ半島、サハリンと広く分布しているキタナキウサギの1亜種とされている。

 高山帯を中心に12℃前後の寒冷な気候を好み、露岩帯やガレ場など岩塊が積み重なったところや、岩塊地上に森林が成立しているところなどに生息する。

 エゾナキウサギは,氷河が発達して海面が下がり、間宮海峡と宗谷海峡ともに陸橋があったヴュルム氷期の3.5万~4万年前に大陸から北海道に渡ってきたと考えられている。その後、氷期が終わって氷河が北へ後退していった後も、山岳地帯に生き残ったので、遺存種・生きた化石などといわれる。

                         

【日高山脈における分布】

 南限は豊似岳南東の三枚岳、標高では様似町幌満川流域の標高50mにも生息している。  

【縄張りについて】

 多くの場合、つがいでのなわばりの直径は40ー70mで、一年中つがいでなわばりが持たれるが、9月から12月では雌雄の行動圏が一致し、オスはオス、メスはメスに対して防衛する同性間なわばりとしてほぼ全域が防衛される。

【糞について】

 糞はふつう直径約3ー4mmの固くて丸いフンで、排出直後は表面がぬめっていて黒褐色だが、乾くと黄土色や薄茶色になる。岩や苔の上,まれに倒木の上に糞は見つかる。

【鳴き声】

・長鳴:キチッという音を一定間隔で連続して強く発せられる4~16音からなる鳴きで、雄だけが発する。構成音数は3月から6月の十音前後から秋の数音へと減っていく。

・短鳴:単独であるいは不規則な間隔で連続して発せられる鳴きで、雌雄ともに発するが、雌の多くの鳴きは短鳴である。

・震え声:震え声は尻下がりの柔らかい鳴きで、多くの場合岩中へ逃げ込む時に発せられる。

【冬眠しない】

 積雪下での採食も行なうが、それだけでは食物不足となるため、貯食を行う。貯えられる場所は、岩の下の隙間や木の根の下である。色々な種類の植物を貯食しており、草本類、木本類、シダ類、蘚苔類、キノコ類を利用する。採食と同様に、」出入り口の近くで貯食物を獲得するため、貯食物は周囲の植生を反映し、貯食場によって種類と割合構成はかなり異なるものとなる。

 翌日は晴れていましたが霧雨が降るような不思議なお天気。沢の下降は特に注意が必要で滑りにくいところ、歩きやすいところを探して注意深く三点支持をして一歩一歩確実に足を置きましたが、そんな私たちに微笑みかけるかのように谷には虹がかかっていました。

ー三点支持とは(参考文献※3)ー

 手・足四肢のうち三肢で体を支えることを三点支持(さんてんしじ)と言います。三点で支持して一肢だけを自由にして次の手がかり・足場へと移動することで岩場を安全に登ることが出来ます。

 三点のうち特に足場は重要で、足場が不安定のまま登ると事故を起こす場合があります。

ハシゴを登る姿勢が基本で、手は基本的にはバランスをとるためのものであり、岩からなるべく体を離して、重心のラインが靴のつま先を通るようにしてください。怖がって手でしがみついて体が岩にくっついてしまうと滑落の危険が生じます。

ー三点支持ワンポイントアドバイスー

・足で登る(足の力が腕より強いため)
・手は目線(ホールドを高くすると岩の表面に体がくっついてしまって重心線が靴のつま先に通らずに靴が滑ってしまう可能性が高く、足下が見えづらい)
・体を岩から離して重心のラインは靴のつま先を通ること
・足をクロスさせない(足が引っかかったりする危険性がある)
・膝を使わない(膝は不安定なため靴底の摩擦(フリクション)を利用して登る)
・かかとは少し下げ目(フリクションがきいて滑りにくくなると同時に、ミシンを踏まないように楽に足を掛けることができる)
・頭をつかって適切に足場や手がかりの置く場所を考えながら登る

・スタンスの置き方は岩に対して垂直(横におかない)

 今回は、幻想的な光景の中、冬に向かう自然の姿を感じることができました。

 同じ山でも、季節や天気によって様々な楽しみ方ができると思います。

 また、自然について知識を高めたり、良く観察すると見える世界も違ってきます。

 日高山脈の奥深い山々の風景、動植物について今後も発信していきたいと思います。

ー参考文献ー

※1 十勝毎日新聞記事 電子版 2020/11/05 13:12 

入手先URL https://kachimai.jp/article/index.php?no=2020115131613 

※2 小野山敬一.1993.6.エゾナキウサギの生活を追って

※3 ページ名「ヤマレコ 三点支持の基本」 更新日:2013年09月16日 

入手先URL https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=45