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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

ペテガリ岳はるかなり

2021年11月18日

今回は、9月中旬のペテガリ岳登山道調査の様子をお伝えしたいと思います。

ペテガリ岳は、日本二百名山にも入っており人気のある山ですが、静内ダムから先の道道111号静内中札内線が通行止めとなっており、徒歩でも通行禁止のため、「神威山荘」から沢登りでベッピリガイ沢に尾根を乗り越して、ペテガリ山荘に入り、西尾根ルートを登る方法が用いられており、昔も今もいわゆる「はるかなる山」です。


▲快適なペテガリ山荘と登山口

 このはるかなる山のいわれですが理由はその登山史にあります。(※以下ヤマレコより引用)

『かつては深い谷に周囲を囲まれたこの山は、まさに「はるかなる山」であった。夏の登頂は昭和7年(1932)に慶応パーティによりなされたが、冬は北大山岳部がコイカクシュサツナイ岳からの往復ルートをとり、数度の挑戦を繰り返していた。昭和15年、コイカクシュサツナイ沢の雪崩で8人を失った痛手を乗り越え、その3年後の1月、コイカク頂上に築いたイグルーから、一気にラッシュ戦法で登頂した。実に往復17時間の行動であった。』

『戦後間もない昭和22~23年、早大山岳部が長大な東尾根から1カ月をかけて登頂したのも立派な記録だ。』

登山当日は、前々からずっと雨予報でした。この日新ひだか町では、シャクシャインの魂を弔うシャクシャインの法要祭の日でしたが、晴れることが多いのだそうで、なんと台風予報でもお祭りの間は晴れたというエピソードがあったようです。

シャクシャインとは新ひだかのアイヌ民族の長で、松前藩の圧政に対して立ち上がり、道内各地のアイヌを統率して1669年、シャクシャインの戦いを起こしましたが、松前藩との和睦交渉の席で謀殺されました。

静内川(アイヌ語でシベチャリ川)と日高山脈が見える高台に、このシャクシャインの城=チャシがあったのですが、現在は真歌公園になっており、そこで毎年シャクシャインの法要祭が行われます。アイヌの伝統料理を食べることができたり、古式舞踊などが披露されるとのことで、全道全国からアイヌ文化に関心がある方が参列しています。

また、真歌公園には無料のアイヌ博物館があり、アイヌ文化も学ぶことができてお勧めです。

▲シベチャリチャシ跡看板     ▲静内川と日高山脈       ▲静内川河口と太平洋

さて実際のお天気は、朝は予報通り雨でしたが、シャクシャイン法要祭の時間が近づくと雨はあがっていき、時折晴れ間も見えました。

  ▲雨があがって見えてきたペテガリ岳と滝      ▲紅葉の登山道

ナナカマドの赤色、ダケカンバの黄色と山はすっかり秋模様で、足下にもイワツツジや、ゴゼンタチバナなどの赤色と、可愛らしい赤い実も見られました。

最後のハイマツの急登を登ると山頂です。ペテガリ岳山頂からは時折雲の合間からカムイ岳方面、1839m峰方面が見えました。

 

▲ペテガリ岳山頂からルベツネ岳方面を望む    ▲神威岳方面を望む

実は私は、今年の4月末に単独で残雪のトヨニ岳から神威岳まで縦走したのですが、その時、神威岳山頂には300名山一筆書きのフィナーレのドローン撮影をしている田中陽希さんがおり、その光景を見上げながら神威岳に登ったという経験があります。その時は本人だと気がつかなかったのですが、下山後に神威山荘でお会いして驚きました。

最後の難関であった日高山脈を、麓で10日間の天候待ちをされた上でチロロ林道から入山し、神威岳までの長い稜線を毎日2時間かけてイグルーを作成しながら、8日間で縦走したというエピソードには感動しました。

その時に3日間苦労した縦走の最後に辿り着いた神威岳からの眺めは絶景で、壮大なペテガリ岳の姿がよく見えたのですが、日高山脈のお仕事に携わった上で、今日は逆に神威岳を眺めていると、感慨深いものがありました。

 

▲神威岳山頂から見たペテガリ岳方向       ▲田中陽希さん作成の雪だるまと神威岳山頂

南へ来るにしたがいカールは少なくなりますが、ペテガリ岳は東面にABCの3つのカールを持つ南日高の女王というにふさわしい山です。北隣のルベツネ岳とのコルから下るCカールは、以前縦走した際に行きましたが、ナキウサギが生息し、水場のある良い場所でした。なおペテガリ岳以南にはトヨニ岳までカールはありません。

登山道は地元山岳会により笹刈りをしていただいているおかげで、歩きやすかったですが、前衛峰の連なる長大な西尾根は長くアップダウンがあり、日の出から日の入りまで1日がかりで往復しました。

ペテガリ岳も2日目の行動時間が長い、2泊3日は要するルートになってしまいますが、歴史のある奥深い素晴らしい山でした。

日高山脈の良さは、なかなか人を寄せ付けない原生の自然を楽しむというような、静かな奥深さにあるのかもしれません。