Daisetsuzan National Park

上士幌管理官事務所はトムラウシ南沼汚名返上プロジェクトに参加しています。

南沼からトイレ痕が消える日

2022年10月28日
上士幌 上村 哲也
9月26日(月)~27日(火)、トムラウシ山短縮コースを巡視しました。新得町トムラウシ温泉からの南沼野営指定地の入口までを環境省直轄で管理しているため、登山シーズンに複数回訪れる登山道です。今季、締めくくりの巡視。野営指定地利用数調査の機材を撤収、周辺のトイレ痕調査を行いました。
27日、麓の新得町(標高178m)では朝の最低気温が12℃ほどに。南沼野営指定地(標高1,960m)では2℃であったでしょうか。地面には霜柱が出ていました。
 
野営指定地利用数調査は、野営指定地近くに自動カメラを設置して、夕方と早朝の数時間に野営指定地全景を10枚程度を撮影し、テントを数えて日ごとの利用数を集計するものです。6月28日から9月26日までの91日間にわたり調査し、霧や雲で撮影できなかった11日を除き、80日に422張りの利用が確認できました。以前の現地アンケート調査からテント1張りあたりの利用者数が2.1人と推定されますので886人の利用があったと考えられます。ちなみに、最多利用日は8月6日(土)で、30張りでした。
 
トムラウシ山へは、麓のトムラウシ温泉から登る「温泉登山口」と、片道1.5~2時間ほどをショートカットできる「短縮コース登山口」があります。今夏、これらの二つの登山口から、あわせて2400人ほどの入山がありました。
8月16日に大雨が降り、9月8日に復旧するまで、短縮コース登山口へ通じる林道が通行止めになりました。すると、年間の入山者が100~200人程度であった温泉登山口ですが、林道通行止めの間には367人もの入山がありました。昨年同期の短縮コース登山口入山は491人でした。今年も同様の方がトムラウシ山登山を計画したことでしょう。その多くの方が温泉口を選んででもトムラウシ山は諦めたくないと考えたに違いありません。
短縮コース登山口が利用できない間、野営指定地の利用数は68張りでした。利用者数は140人余りと推定できます。この数は調査開始以来と大差ありません。
 
2017年、南沼野営指定地周辺におけるし尿ゴミをなくし、踏分け道の植生を復元しようと、関係機関が連携してトムラウシ南沼汚名返上プロジェクトを開始しました。野営地から放射状に数本の踏分け道が認められ、43個のティッシュペーパーなどトイレ痕が確認されました。それが、なんと今年のトイレ痕は4個でした。新型コロナウィルスの感染拡大や林道通行止めにひるむことなく例年並みの登山者が訪れたトムラウシ山ですが、野外に残されたトイレ痕は、ついに一桁となりました。
6年に及ぶプロジェクトの成果でしょうか。アンケート調査、ポスター、チラシによる啓発、携帯トイレブースの増設と、積み重ねてきた活動が大きな成果となりました。
アンケート調査によるとプロジェクトの当初から、9割以上の登山者が携帯トイレを装備に加えていると回答を得ていましたが、千人近い登山者が泊まる南沼野営指定地、僅か4%の方が野外にし尿を残しても40個になってしまいます。それがとうとう4個、1%を下回りました。トイレのない山岳において携帯トイレを利用し持ち帰ることは、登山者の主流になりました。野営指定地のロープをまたいで岩陰に向かうなどということは、ほかの多くの登山者の視線が注がれ、心に強くブレーキがかかる行為になったのです。調査のために踏み込むことさえためらわれます。来年以降はドローンによる調査を検討しています。

トムラウシ山の入山者数、南沼野営指定地のテント数及びトイレ痕回収数の推移をグラフにまとめてみました。年によってばらつきはあるものの、2,000~3,000人前後の入山者と350張り前後のテント数を保っています。これに比べてトイレ痕は急降下していることが分かります。この流れが定着していくことを期待しています。
南沼からトイレ痕が消える日は、もう目の前です。
南沼トイレ痕の推移