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アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北海道地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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釧路湿原国立公園 釧路湿原

172件の記事があります。

2008年07月10日どうして保護されているの?

釧路湿原国立公園 釧路湿原 本藤 泰朗

7月9日、釧路湿原野生生物保護センターに中標津町の小学校から5人の小学生たちが訪れました。修学旅行の途中、総合学習の一環として、ここではどんな動物がどのように保護されているのか?ということが知りたくてやってきました。

当センターで保護されているオオワシ、オジロワシ、シマフクロウについて学んだあと、実際にリハビリ中のオオワシとオジロワシを見学するという予定です。


オオワシって翼を広げるとどのくらい?
小学生が二人手を広げて並ぶと約2メートル50センチ。こんなに大きいんです。その大きさにみんなびっくり。


展示してあるシマフクロウの巣箱に入っています。大人も入れるくらいの大きさです。
シマフクロウの生息地や生息している可能性のあるところにはこんなに大きな巣箱が設置されています。

オオワシ、オジロワシ、シマフクロウの生態やここに運ばれてくる理由などを学んだ後、実際に保護されているオオワシとオジロワシを見に行きます。


猛禽類医学研究所の渡辺獣医師に、センターで保護しているオジロワシとオオワシについての話を聞いています。ここに保護されているワシたちは、交通事故や電線との接触による感電、鉛中毒など、人間社会に起因する要因で、負傷したり病気になったりしたものばかりです。事故で片方の翼を失ったオオワシや、感電してやけどを負っているオジロワシを見て、みんなの目がだんだん真剣になってきました。

今回の訪問で、子どもたちはどんな風に思ったのでしょうか?
「翼を失ったワシは野生に帰すことはできません。どうしたらいいと思う?」
「新しい翼を作ってあげればいい。」
「残念だけど、代わりの翼を作ることはとても難しい。でもみんなが大きくなって代わりの翼を作ってくれたらいいな。」
子どもたちと渡辺獣医のやり取りが印象的でした。

人間のせいでけがをして飛べなくなってしまったワシたちは、責任を持って人間が野生に帰すべき。そんな風に子どもたちが言っているように感じました。

人間とワシ、多くの野生動物たちが仲良く安心して暮らせる社会になるためにはどうしたらいいのか?今回の訪問をきっかけに、きっとこんなことを考えてくれたのではないでしょうか。

釧路湿原野生生物保護センターではけがや病気など、自分で生活することが困難になったワシやシマフクロウが収容され、野生に帰るためのリハビリをしている施設です。そのため、収容されている個体はできるだけ野生に近いような環境でリハビリを続けています。

今回の小学生達は特別に担当の獣医師と一緒に近くまで行きましたが、残念ながら一般の来訪者の方は、人慣れをさせないために、近くで見学することはできません。人に慣れてしまうと野生に放った後に人間の近くへ餌をもらいに来てしまう可能性があるからです。

しかし、センター2階からは窓越しにオオワシ、オジロワシを観察することができます。訪れた方は窓越しではありますが、野生に帰るために頑張っているワシたちをやさしく見守ってあげてください。

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2008年07月06日虫喰う花たち

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

今年はタヌキモの花の付きがよいみたいで、温根内ビジターセンターの木道では黄色いかわいい花が観察できます。

タヌキモはふわふわと水面を浮遊している(根を地中にはらない)水生植物で、「タヌキ」の名にふさわしく、タヌキのしっぽのようにふさふさの葉を水面に拡げています(写真の水面下に見えるのが葉です)。
 さて、このふさふさの葉には恐るべき機能が・・・



ちょっと拝借。
よく見ると葉にはブツブツがたくさんついています。これは「捕虫嚢」と呼ばれる小さな袋で、この袋で水面を漂う小さな虫などをとらえて栄養にしてしまうのです!
タヌキモは「食虫植物」なのでした。
袋は何も入っていないと透き通っているのですが、この写真の個体は食べ過ぎ・・・なのかずいぶん黒かったです。

食虫植物といえば「モウセンゴケ」の名前のほうがお馴染みかもしれません。
こちらも温根内で観察できます。水の張った場所に生息するタヌキモと異なり、こちらはミズゴケが発達したタイプの湿原に生育しています。


虫採りの作戦も袋ではなくとりもち方式です(写真の部分がねばねばしています)。
タヌキモに負けず劣らずかわいらしい花をこれから咲かせます。

 湿原という栄養の乏しい環境で虫を栄養にしてしまおうという戦略を持った2種。見比べてみると面白いと思います。

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2008年06月02日枯れていても緑の湿原

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

温根内の木道を巡視してきました。
木々の緑は芽吹いているのに、湿原の大半を占めるヨシはまだ枯れています。
これはみんな昨年のヨシ。この冬は特に雪が少なかったため、例年よりも枯れたヨシが倒れず残っているようです。


でも、この枯れ野原は仮の姿。
木道を歩きながら観察してみると、下からは新芽が育っています。
1m以上の背丈のある枯れヨシに新緑が取って代わるまで1ヶ月程でしょうか。これからの季節、湿原は日に日に緑を増していきます。


ハンノキ林も新緑に。ここの林床はスゲ類とヒメカイウ。ヨシよりもスゲのほうが早く湿原を緑に彩ります。スゲの葉がどんどん伸びて、もう「ヤチボウズ(坊主状に盛り上がったスゲの根元)」が隠れてしまいそうです。
(そして「ヤチボウズはどこですか」と問われる日々が始まる・・・)


高層湿原ではミズゴケの上でヒメシャクナゲが可憐な花を咲かせていました。

まだ釧路では朝晩はストーブが必要なほど肌寒い日も多く、巡視の際も1枚羽織るものが手放せませんが、冷涼な気候の中でも湿原の季節は驚くほどの勢いで動いています。

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2008年05月24日身近な風景

釧路湿原国立公園 釧路湿原 本藤 泰朗

ここ釧路湿原野生生物保護センター周辺もずいぶんと春が深まってきました。せっかく咲いたエゾヤマザクラは先日の暴風でほとんど散ってしまいましたが、芽吹いたばかりの赤い若葉が、ヤナギやハンノキの萌黄色にアクセントを加えています。

本格的な花のシーズンはまだまだ先ですが、身近なところで少しずつ花の種類が増えていることに気付きます。


センター前の芝生の中に大きな群落を作っているシロスミレ。周りの草が大きくなる前に柔らかい春の日差しを独り占めにしています。



センター裏の池にはネムロコウホネが咲きました。

センター駐車場横の湿原名物ヤチボウズに緑の毛が生えたと思ったら、今度は先端が茶色っぽくなっています。
実はこれも花なんです。ヤチボウズを形作っているカブスゲの花です。


普段何気なく通り過ぎている日常の風景の中にも目立たない花が咲いていたりして、意外と自然を楽しめるものです。みなさんも立ち止まって足元を観察してみると、新しい発見があるかもしれませんね。

本日の釧路市の予想最高気温は10℃です。暖かかったり寒かったり、道東釧路の春はまだまだこれからです。

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2008年05月01日コアホウドリと傷病鳥研修

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

少し前、傷病鳥取り扱いについて研修を受けた時のこと。
「この鳥を扱う時は猛禽類と同じ、いや嘴はそれ以上に気をつけて下さい。鋭いです。指が切断される可能性もあります。」
鋭い爪と嘴を持つワシ類に次いでコアホウドリをスライドで映しだし、獣医師さんが説明の声に力を込めたので印象に残っていました。続けて「北海道の東側だと悪天候後にこの鳥が保護されることが結構あるのです」と説明されるも、あまりに馴染みのない鳥なので縁は薄かろうと思っていました。
ところが。
「根室でコアホウドリが6羽収容され、4羽は生きています。明日そちら(釧路湿原野生生物保護センター)に搬送します」
・・・研修から2ヶ月とたたぬうちにご縁がありました。


特設プールに収まるコアホウドリ達

「鋭い切れ味」が定評の口の中を拝見。
くし状の突起は飲み込んだ魚を逆流させない役割があるとのこと。

コアホウドリは北大西洋の外洋に広く分布していますが、繁殖地は限られており国内では小笠原諸島の一部のみ。鳥獣保護法の希少鳥獣に指定されています。一般的な傷病鳥獣の取り扱いは北海道(都道府県)が行いますが、コアホウドリなど希少種は環境省が担当となるため、現地で保護した北海道根室支庁から引き継いでこちらに収容されました。
コアホウドリ達は発見時、港で「溺れて」いたとのこと。何かの理由で羽毛の撥水機能が低下していたようです。検査の結果病気の心配はなく、外傷も軽いので、獣医師さんの所見では回復次第放せる見込みです。今回は残念ながら情報が少なくコアホウドリ達の身に何が起こったのか特定はできませんが、外洋性の鳥が複数港にいたのは何とも不思議なところです。嘴や脚に擦れた跡があったことなど、可能性としては漁網による混獲が考えられるとのこと。やさしい漁師さんが港まで連れ帰ってきてくれたはいいものの、大きくて手に負えず放してしまったのでしょうか。すぐに連絡していただければ救命率も上がります。

傷病鳥獣の取り扱い研修の中で、収容現場の情報収集が非常に重要である点について説明を受けました。
現場の情報は治療の手助けになるだけではなく、例えば同じ場所で同じような事故が何度も起きる、不自然な死に方をしているなど、フィールドで野生動物の直面している問題を知る手がかりとなります。これらの情報が野生生物の生息を脅かしている問題の対策に結びつけば、結果的により多くの個体を救うことにつながるのです。
今回のコアホウドリの件ではこれ以上情報は得られなそうですが、同じような収容が今後何度も生じるようであれば、何か対応すべき問題がはっきりしてくるかもしれません。

春になってフィールドに出る機会が増える直前、このタイミングでのコアホウドリ(何しろ嘴の話題でとても印象に残っていた)の収容は、研修の内容を思い出すよいきっかけとなりました。これまで釧路湿原を巡視中に傷病鳥獣を発見したことはありませんが、野外に出る機会の多い私たちは傷病個体の第一発見者となる可能性が十分にあり、その際は救命率を高めるため、原因の発見のため、適切な対処に努めることが役目となります。しかし研修で学んだ内容は、めったに生じることのない収容の場面に限らず、通常の巡視の際も応用できる部分もあります。
傷病鳥獣の発生時に限らず普段から野生動物が知らせてくれている情報についても色々な側面に気がつくことができるよう、アンテナを研ぎ澄ませていきたいですね。


せっかくの機会なので傷病取り扱い実戦中。本藤AR(右)と一緒に保定と給餌を手伝う。指は無事ですが嘴の洗礼をしっかり受けています。

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2008年04月21日はじめまして。

釧路湿原国立公園 釧路湿原 本藤 泰朗

 みなさんはじめまして、4月より釧路湿原自然保護官事務所にアクティブレンジャー(AR)として着任した本藤泰朗です。昨年度までは弟子屈町でネイチャーとカヌーのガイドをしていました。
 私の担当は希少野生生物です。これから様々な活動を皆さんに報告しながら、道東の野生生物のことや、北海道の自然の素晴らしさについて分かりやすく伝えていきたいと思います。よろしくお願いします。

 早速ですが、4月14日、道東の浜中町霧多布岬にある湯沸岬、ピリカ岩にて行われたエトピリカのデコイ設置作業をご紹介したいと思います。

 エトピリカ?デコイ?何のことかさっぱりわからないという方も多いと思います。エトピリカとはアイヌ語で「くちばし・美しい」という意味があり、文字通りオレンジ色のきれいな嘴をもった、4月下旬から5月上旬にかけて繁殖のために道東の霧多布周辺に訪れる野鳥です。世界的には少なくありませんが、日本で繁殖するエトピリカは毎年10つがい前後と極めて少なく、国のRDB(レッドデーターブック)絶滅危惧種にも指定されています。更に世界で生息するエトピリカの南限の繁殖地として守っていかなければならない貴重な野鳥です。

 ではデコイとはいったい何でしょう?デコイ(英:decoy)とは英和辞典を調べると、囮(おとり)、誘惑物、おびき寄せる場所などの意味があり、狩猟で囮に使う鳥の模型のことです。そのデコイを使い、希少な鳥の繁殖を促進しようというものです。

 つまり、エトピリカの繁殖できそうな場所にデコイを設置し、これから霧多布周辺にやってくる個体が
「お?あんなところに仲間がいる。ここなら安心して巣が作れるな。」
と思わせて、繁殖を促そうという作戦です。海鳥の多くは自分が生まれた繁殖地に戻る傾向が強いため、なかなか思った通りには行きませんが、実際、国内でも東京都鳥島のアホウドリや、北海道天売島のウミガラスなどでこのデコイ作戦は実績があります。

 ここ浜中町でも1995年から繁殖地の浜中小島に町教育委員会と片岡義廣氏によりデコイの設置がおこなわれているほか、周辺の海上にもデコイを置いており、一定の効果を上げています。このピリカ岩周辺にも今回、漁協の合意を得て海上デコイを配置することになったことから、ピリカ岩そのものに上陸してもらう目的で陸上デコイの設置を行いました。

この危険な作業は、プロクライマーの阿波徹さん、高山典久さんの協力あってこそ初めて実施できたものです。


地元の漁師さんに船を出してもらい、ピリカ岩に上陸です。時々強いうねりが押し寄せる天候のなか、設置作業中、近くでずっと見守っていてくださいました。

 ところで、ここピリカ岩でも以前は繁殖が確認されていましたが、1992年を境に姿を見せなくなってしまいました。一体どうしてでしょうか?

 エトピリカは繁殖期になると、海に面した断崖に集団繁殖地(コロニー)を作り、卵を産み、育てますが、普段は海上で生活をしています。脚と短い翼を巧みに使って潜水し、魚や動物プランクトンなどを捕食しています。水深10メートルほどの所を広く横に泳いで餌を捕獲していると考えられていて、このことが間違って漁網にかかってしまう原因になっています。

 浜中町ではエトピリカの保護を図るため、漁協自ら繁殖地である浜中小島周辺に刺し網自粛海域を設けています。漁師さんたちの生活と希少種の保護をいかに両立させていくかが大きな課題であり、今年度は漁網にCDをたくさん付けて、光の反射を利用し、エトピリカに漁網の位置を知らせ、混獲を防ごうという取り組みが始まります。このアイデアは地元浜中町の中学生が発案しました。(詳しくはNPO法人霧多布湿原トラストのHPで:http://www1.ocn.ne.jp/~wetlands/)


これがエトピリカのデコイです。本物の鳥と同じ大きさで作られています。

片岡義廣氏の指導の下、今回はピリカ岩にエトピリカ基金の協力も得て10体のデコイを設置しました。このデコイと地元漁業関係者の協力でエトピリカが安心して暮らせるような環境が整いつつあります。近い将来、集団で繁殖しているエトピリカを私たちが目にする日が来るかもしれませんね。


デコイ設置終了。たくさんのエトピリカが集まるといいですね。

 ちなみに霧多布岬湯沸岬からピリカ岩に設置したデコイを双眼鏡などで見ることができます。しかしここは断崖に囲まれた岬です。くれぐれも危険ですから柵を乗り越えて入ったりしないようにしてください。せっかく訪れようとしている鳥たちを脅かさないためにも。

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2008年04月07日旅立って

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

4月4日昼下がり、事務所裏に懐かしい「珍客」が現れました。今年の1月15日に釧路湿原周辺で放鳥されたオオワシ(まだ大人になりきれていない亜成鳥)です。
といってももちろん、顔を見ただけではわかりません。放鳥した時に装着された標識で確認できました。


エゾマツの上で休むその個体(飛翔しないと標識は見えない)

釧路湿原自然保護官事務所がある「釧路湿原野生生物保護センター」は、種の保存法の対象種のうちオオワシ、オジロワシ、シマフクロウ等の猛禽類を専門に保護収容している施設でもあります。猛禽類を専門とする獣医師さんが委託を受けて在駐し、北海道各地で保護されたこれらの種の治療、野生復帰の為のリハビリ等にあたられています。
今回帰ってきた(?)のは2007年春に保護された個体。ひと夏を事務所裏のケージで過ごして冬を待ち、野外に復帰となったものです(この時は他に3羽が一緒に放鳥されました)。
 標識はワシの行動の調査研究が目的で装着されるのはもちろんですが、放鳥直後についてはその個体が「野外で無事か否か」を確認できる手段として機能します。慎重なリハビリを経ても、いざ放してみると上手に餌を採れない等、野外でうまく生活できない場合もあり、アフターケアが欠かせないのです。一度放した個体が再収容され、野外に返すための努力が繰り返される場合もあります。結果をフィードバックすることは、リハビリ技術の向上にもつながります。
 ただ、一度放した個体が「自分で」戻ってくるのはずっと携わっている獣医さんから見ても珍事だとか。


観察を続けるうちにリハビリケージの側のシラカバに移動し、ケージ内を覗き込んでいました。内側のオオワシ成鳥も相手が気になっている様子。結局夕方までセンター付近にいました。
 
このオオワシ亜成長の放鳥直後数日間、私も追跡を手伝わせてもらいました。その際は放鳥場所から大きく移動はしないものの付近の河川から確認され、餌の魚を求めて移動した?等の暮らしぶりが伺えました。その後の追跡情報では根室方面まで移動したとのこと。まずは順調に復帰したと言っていいのでしょう。
しかし、本当に野生に帰ったと安心できるのはこれからの行動次第。
無事な姿が確認できたことは嬉しいのですが・・・ここではないのですよ君の帰るべき場所は。

オオワシの夏期の生息地はロシア沿海部。北海道へは越冬の為に渡ってきますが、春の訪れと共に北へと帰るのが本来の行動です。つまり、きちんと生態通り渡りをしてくれることがオオワシの野生復帰における重要なポイントなのです。放鳥の場所を選ぶ際も、餌条件等の他に、時期になったら他の個体の様子を見てきちんと渡りが促されるよう、越冬ワシが集まるポイントなどに配慮しているのです。放鳥が冬まで待たれるのにはこのような理由があります。

釧路湿原を巡視していてもこの2週間ほどでオオワシを見かける頻度が、とりわけ子育てをするであろう成鳥を見かける頻度がずいぶんと少なくなりました。
この亜成鳥も道案内役がいなくなる前に無事に渡ってほしいものです。

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2008年03月11日温根内木道のリニューアル

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

釧路湿原の西側に位置する温根内には、ビジターセンターを起点に湿原内を散策できるよう木道が整備されています。
同じルート上でヨシ・スゲ湿原からミズゴケ湿原と、タイプの違う湿原を観察できるコース。春から夏にかけては多くの湿原の花が観察できるので特に人気があります(1年を通して利用できます)。
12月よりこの木道の1部区間の掛け替え工事が実施され、先日ついに通行可能となりました。

素材は道産カラマツ。湿原に混入した場合のことを考えて着色料、防腐材等の薬剤は一切使用していません。
真新しい木材の色が掛け替えていない区間とややミスマッチですが、じきに湿原になじんでいくでしょう。

現在の温根内の木道は、実は2代目。
平成4~5年に設置された初代木道の劣化に伴い、平成11年~12年に掛け替えられたものです。
泥炭という不安定な地盤、水位の変動、厳しい寒さによる凍結など、湿原の環境は木道にとってかなり過酷なもの。
支柱を深く埋め込んだり、横木を渡すなどさまざまな工法の工夫が行われてきたものの、数年間湿原のサイクルに翻弄され続けると、歪みや傾き、木材の腐食が生じてしまいます。

(掛け替え工事の途中の様子 2007年12月撮影。支柱を新しいものに交換し、交換前の古い板をのせてある状態)

(撤去された支柱の木材。設置されていた場所によって劣化の程度に差はあるが変色、腐食がみられる)

ベストと思われる工法をもってしても、現状では数年で掛け替えになってしまうのはやむを得ないようです。

湿原の東側、達古武オートキャンプ場の散策路も、劣化に伴い一部区間を平成16年に掛け替えています(補修未完の区域は通行止め)。
ここの散策路は直接湿原の中に分け入っていく温根内とは異なり、湿原と丘陵地との境目にあります。
さて丘陵沿いなら泥炭上より安定感はあるのでしょうが・・・。

2月に巡視した時の様子です。左側の丘陵地から流れ出る湧水が木道を飲み込むように凍結していました。
凍結の厳しい場所では、一面がスケートリンクのよう。

(標識でかろうじて木道の位置でがわかります)
夏はじわじわと湿原を潤すようにしか見えないのですが、湧水の流出量に驚かされました。
湿原に道をつけるということは、やはり一筋縄ではいかないようです。

木道は私たちの足場となり、安全を確保し、植生を踏みつけから保護するなど適正な利用を誘導するルートとして機能し、自然と向き合う機会を与えてくれます。
あたりまえのように歩いていますが、その場の設置、維持管理にはより深く湿原の自然の有り様と向き合うプロセスが係わっています。
リニューアルされた木道もこれまで通りの木道も、湿原を見に来る多くの方に活用されてほしいと願います。

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2008年02月04日釧路湿原の秘境で「ワイズユース」体験

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

釧路湿原で進められる釧路湿原自然再生事業。
事業を検討する「釧路湿原自然再生協議会」の下には、各事業に関する専門的な内容を話し合う小委員会が設置されています。
 釧路湿原と自然再生に関する普及啓発を担当するのは再生普及小委員会、その中に作業部会として「再生普及行動計画ワーキンググループ(以下WG)」があります。検討テーマは釧路湿原の魅力・楽しみ方を伝える方法や、より多くの人に湿原に親しんでもらうにはどうしたらいいか等で、研究者だけでなく実際に湿原に関する普及的な取り組みを行っている様々な方が委員として参加しています。
*参考(リンク)
・釧路湿原自然再生協議会について→ http://www.kushiro-wetland.jp/
・再生普及行動計画WGの活動について→ http://www.kushiro-wetland.jp/wg/

さて先日、このWGの現地研修にお供して参りました。
研修の行き先は座長の一声で決まったとか。
「冬だし、赤沼に行こう」

赤沼の名前を聞いてピンときた方は、相当な釧路湿原通です。
赤沼周辺は釧路湿原では稀少なミズゴケ湿原が発達する重要な地域のため、国立公園の中でも「特別保護地区」に指定され、保護を最優先と位置づけている場所です。そのため遊歩道等の整備はされておらず、散策ポイントとしてガイドブック等に紹介されることもなく、調査許可を得た研究者などしか立ち入ることはありません。(同じような高層湿原の環境を観察できる場所としては、温根内ビジターセンターから木道が整備されています。)
こんな「秘境」を研修場所に提案した座長は、釧路市ウェットランドセンター主幹の新庄さん。釧路湿原のエキスパートです。もちろん、バックグラウンドは熟知されています。
果たして「冬だし」のココロとは?

当日はお天気も良く、絶好のハイキング日和。
防寒装備を調えて、普段は歩道の上から眺めるだけの湿原にいざ突入です。


植物の専門家でもある新庄座長が、ハンノキ、ホザキシモツケ群落、ヨシ、スゲと移り変わる植物を目の前に、植生と湿原の水位・水脈の関係をわかりやすく解説して下さいました。

湿原を潤す豊富な水。
そのため夏の湿原はぬかるみ、簡単に分け入ることを許してくれません。
しかし冬の厳しい寒さで凍りついた水は、私たちに足場を与えてくれます。

凍った川の上は平坦で歩きやすく(滑りますが)、水上であることをついつい忘れてしまいそうです(・・・と思った矢先、どこかでピシっと不安な音が!やはり自然は侮れない)。
不思議なことに、辿っていた川が突然途切れたりします。湿原の中を通る水脈は、表に出たり、地中に潜ったりしながら大きな河川へと集合していくそうです。
(赤沼の水の出入り口も地中に潜っているとのこと)


水の路が断たれると、ハンノキ林を、ヨシ原を、シモツケのブッシュを、盛り上がったミズゴケとミズゴケの間を、掻き分け縫い縫い進むことに。ぬかるみこそしないものの、地面はでこぼこで歩きにくく、油断すると足下から水がしみ出していてひやり。

ストックでつつくとぼこっと穴が空いて湧き水が!凍りついた冬の湿原でもやっぱり水は湧き、流れ、動いている証拠です。(湿原の底なし沼「ヤチマナコ」じゃなくてよかった・・・でもみんなどんどんつついて水を出す)
もう緊張感といい体力勝負感といい、まさにバックカントリートレッキング。


辿りついた赤沼は白く凍り、青空とのコントラストが見事(思わず空を仰ぎ見る委員も)。

湖面には美しい氷紋ができていました。

厳冬期以外の湿原は、ぬかるんでいて物理的に(安全に、手軽に)歩くことができません。また歩けるとしても、デリケートな湿原植生を踏みつけることになり、大きなダメージを与えてしまうことになります。このような事情から、赤沼に限らず、湿原全般的に遊歩道などから外れて歩く機会が提供されることはなかなかありません。湿原全体が私たちにとって「秘境」なのです。
しかし、実際に湿原に降り立ち、ヨシ原を掻き分け、ちょっとしたスリルと隣り合わせながら「探検」しなければ見ること、感じることができない湿原の一面が確かにあります。

このような歩き方は、「誰でも」「いつでも」「どこでも」「より大勢で」という訳にはいかないでしょう。
「ここはよく水が氾濫する所」
「こういう環境はヤチマナコが多い所」
どこが歩きやすくてどこが歩きにくいか、どこが安全か危険か、どこが強いか脆いか、知り尽くした案内人がいてこそ可能な取り組みだったと思います。
自然を壊すことなく、持続的にその魅力を体験しながら利用する「ワイズユース」という考え方。
植生に影響が少なく、歩きやすくなる冬を選び、フィールドをよく知る案内人が配慮を行いながらの立ち入りは、ワイズユースの一例と言えます。



WG委員の中にも、歩道が整備された場所以外の湿原を今回初めて歩いた方もおいでだったようです。ハードなトレッキングの末たどり着いた赤沼で飲んだコーヒーは、思わぬ味だったよう。色々な意味で「ああこんな楽しみもあるんだね」という感想が漏れていました。
今回の体験が検討に活かされ、ワイズユースの概念とともに湿原の楽しみ方がひろがるとよいですね。

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2007年12月13日御神渡り出現

釧路湿原国立公園 釧路湿原 磯野 満里子

釧路湿原の東側には、かつて海であった名残の湖が点在します。
この季節、凍った湖面に「御神渡り(おみわたり)」が出現しはじめます。

御神渡りは、湖の氷が寒暖の差で収縮と膨張を繰り返し割れ目から隆起していく現象です。
塘路湖に例年より10日ほど早く出現したと情報が入り、早速確認しに行きました。が・・・


収縮と膨張を繰り返すということは、いつも盛り上がっているとは限らない・・・。
私が行った時は氷が緩んで水面がのぞいていました。
高さは今ひとつでしたが、対岸まで見事に一筋に続いている様子がうかがえました。
辺りには氷がぶつかりあう「ミシミシ」「パキン」という音に混じり、これも氷が動くことで出るものなのでしょうか?
音叉のような、あるいは動物が啼いているような、何とも表現しようのない微かな音が響いていました。
この音も「御神渡り」と表現される理由かと思う神秘的な印象を受けましたが、人によって感想は異なるようです。
あなたの耳にはどう響くのでしょう?
氷の織りなす湿原の世界を堪能しに、是非足を運んでみて下さい。

御神渡りは寒さが厳しくなるにつれ高く盛り上がり、その表情を刻々と変え見応えも増していきます。
塘路湖エコミュージアムセンターのスタッフによると、塘路湖で御神渡りができる場所は今回の地点を含め3カ所ほど。
但し、御神渡りの見やすい場所がわかりにくい場合や、見に行く際に私有地を通らせてもらう場合もあるとのことです。
エコミュージアムセンターに立ち寄り、詳しい情報を確認してから見に行くことをおすすめします。

同じ湿原東側のシラルトロ湖、達古武湖も御神渡りができはじめているので、そちらに足を伸ばして観察することもできます。
いずれの湖もまだ氷が不安定なので、必ず岸から観察して下さい。


エコミュージアムは現在改装中ですが、通常どおり開館しています。
映像展示などもリニューアルしたので、是非お立ち寄り下さい。
冬期開館時間 10:00~16:00 
休館日 毎週水曜日 及び 年末年始(12月29日~1月3日)


湖の氷の状態が水鳥の行動を左右することも。
シラルトロ湖では奥のほうで羽を休めていることが多いヒシクイ。
この日は国道沿いから観察できるわずかな開氷面に集中していた。
全面が氷で覆われる日が続くようになると南へ渡るため、姿が見られなくなるのもそろそろ。

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