アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
釧路湿原の秘境で「ワイズユース」体験
2008年02月04日
釧路湿原
釧路湿原で進められる釧路湿原自然再生事業。
事業を検討する「釧路湿原自然再生協議会」の下には、各事業に関する専門的な内容を話し合う小委員会が設置されています。
釧路湿原と自然再生に関する普及啓発を担当するのは再生普及小委員会、その中に作業部会として「再生普及行動計画ワーキンググループ(以下WG)」があります。検討テーマは釧路湿原の魅力・楽しみ方を伝える方法や、より多くの人に湿原に親しんでもらうにはどうしたらいいか等で、研究者だけでなく実際に湿原に関する普及的な取り組みを行っている様々な方が委員として参加しています。
*参考(リンク)
・釧路湿原自然再生協議会について→ http://www.kushiro-wetland.jp/
・再生普及行動計画WGの活動について→ http://www.kushiro-wetland.jp/wg/
さて先日、このWGの現地研修にお供して参りました。
研修の行き先は座長の一声で決まったとか。
「冬だし、赤沼に行こう」
赤沼の名前を聞いてピンときた方は、相当な釧路湿原通です。
赤沼周辺は釧路湿原では稀少なミズゴケ湿原が発達する重要な地域のため、国立公園の中でも「特別保護地区」に指定され、保護を最優先と位置づけている場所です。そのため遊歩道等の整備はされておらず、散策ポイントとしてガイドブック等に紹介されることもなく、調査許可を得た研究者などしか立ち入ることはありません。(同じような高層湿原の環境を観察できる場所としては、温根内ビジターセンターから木道が整備されています。)
こんな「秘境」を研修場所に提案した座長は、釧路市ウェットランドセンター主幹の新庄さん。釧路湿原のエキスパートです。もちろん、バックグラウンドは熟知されています。
果たして「冬だし」のココロとは?
当日はお天気も良く、絶好のハイキング日和。
防寒装備を調えて、普段は歩道の上から眺めるだけの湿原にいざ突入です。
植物の専門家でもある新庄座長が、ハンノキ、ホザキシモツケ群落、ヨシ、スゲと移り変わる植物を目の前に、植生と湿原の水位・水脈の関係をわかりやすく解説して下さいました。
湿原を潤す豊富な水。
そのため夏の湿原はぬかるみ、簡単に分け入ることを許してくれません。
しかし冬の厳しい寒さで凍りついた水は、私たちに足場を与えてくれます。
凍った川の上は平坦で歩きやすく(滑りますが)、水上であることをついつい忘れてしまいそうです(・・・と思った矢先、どこかでピシっと不安な音が!やはり自然は侮れない)。
不思議なことに、辿っていた川が突然途切れたりします。湿原の中を通る水脈は、表に出たり、地中に潜ったりしながら大きな河川へと集合していくそうです。
(赤沼の水の出入り口も地中に潜っているとのこと)
水の路が断たれると、ハンノキ林を、ヨシ原を、シモツケのブッシュを、盛り上がったミズゴケとミズゴケの間を、掻き分け縫い縫い進むことに。ぬかるみこそしないものの、地面はでこぼこで歩きにくく、油断すると足下から水がしみ出していてひやり。
ストックでつつくとぼこっと穴が空いて湧き水が!凍りついた冬の湿原でもやっぱり水は湧き、流れ、動いている証拠です。(湿原の底なし沼「ヤチマナコ」じゃなくてよかった・・・でもみんなどんどんつついて水を出す)
もう緊張感といい体力勝負感といい、まさにバックカントリートレッキング。
辿りついた赤沼は白く凍り、青空とのコントラストが見事(思わず空を仰ぎ見る委員も)。
湖面には美しい氷紋ができていました。
厳冬期以外の湿原は、ぬかるんでいて物理的に(安全に、手軽に)歩くことができません。また歩けるとしても、デリケートな湿原植生を踏みつけることになり、大きなダメージを与えてしまうことになります。このような事情から、赤沼に限らず、湿原全般的に遊歩道などから外れて歩く機会が提供されることはなかなかありません。湿原全体が私たちにとって「秘境」なのです。
しかし、実際に湿原に降り立ち、ヨシ原を掻き分け、ちょっとしたスリルと隣り合わせながら「探検」しなければ見ること、感じることができない湿原の一面が確かにあります。
このような歩き方は、「誰でも」「いつでも」「どこでも」「より大勢で」という訳にはいかないでしょう。
「ここはよく水が氾濫する所」
「こういう環境はヤチマナコが多い所」
どこが歩きやすくてどこが歩きにくいか、どこが安全か危険か、どこが強いか脆いか、知り尽くした案内人がいてこそ可能な取り組みだったと思います。
自然を壊すことなく、持続的にその魅力を体験しながら利用する「ワイズユース」という考え方。
植生に影響が少なく、歩きやすくなる冬を選び、フィールドをよく知る案内人が配慮を行いながらの立ち入りは、ワイズユースの一例と言えます。
WG委員の中にも、歩道が整備された場所以外の湿原を今回初めて歩いた方もおいでだったようです。ハードなトレッキングの末たどり着いた赤沼で飲んだコーヒーは、思わぬ味だったよう。色々な意味で「ああこんな楽しみもあるんだね」という感想が漏れていました。
今回の体験が検討に活かされ、ワイズユースの概念とともに湿原の楽しみ方がひろがるとよいですね。
事業を検討する「釧路湿原自然再生協議会」の下には、各事業に関する専門的な内容を話し合う小委員会が設置されています。
釧路湿原と自然再生に関する普及啓発を担当するのは再生普及小委員会、その中に作業部会として「再生普及行動計画ワーキンググループ(以下WG)」があります。検討テーマは釧路湿原の魅力・楽しみ方を伝える方法や、より多くの人に湿原に親しんでもらうにはどうしたらいいか等で、研究者だけでなく実際に湿原に関する普及的な取り組みを行っている様々な方が委員として参加しています。
*参考(リンク)
・釧路湿原自然再生協議会について→ http://www.kushiro-wetland.jp/
・再生普及行動計画WGの活動について→ http://www.kushiro-wetland.jp/wg/
さて先日、このWGの現地研修にお供して参りました。
研修の行き先は座長の一声で決まったとか。
「冬だし、赤沼に行こう」
赤沼の名前を聞いてピンときた方は、相当な釧路湿原通です。
赤沼周辺は釧路湿原では稀少なミズゴケ湿原が発達する重要な地域のため、国立公園の中でも「特別保護地区」に指定され、保護を最優先と位置づけている場所です。そのため遊歩道等の整備はされておらず、散策ポイントとしてガイドブック等に紹介されることもなく、調査許可を得た研究者などしか立ち入ることはありません。(同じような高層湿原の環境を観察できる場所としては、温根内ビジターセンターから木道が整備されています。)
こんな「秘境」を研修場所に提案した座長は、釧路市ウェットランドセンター主幹の新庄さん。釧路湿原のエキスパートです。もちろん、バックグラウンドは熟知されています。
果たして「冬だし」のココロとは?
当日はお天気も良く、絶好のハイキング日和。
防寒装備を調えて、普段は歩道の上から眺めるだけの湿原にいざ突入です。
植物の専門家でもある新庄座長が、ハンノキ、ホザキシモツケ群落、ヨシ、スゲと移り変わる植物を目の前に、植生と湿原の水位・水脈の関係をわかりやすく解説して下さいました。
湿原を潤す豊富な水。
そのため夏の湿原はぬかるみ、簡単に分け入ることを許してくれません。
しかし冬の厳しい寒さで凍りついた水は、私たちに足場を与えてくれます。
凍った川の上は平坦で歩きやすく(滑りますが)、水上であることをついつい忘れてしまいそうです(・・・と思った矢先、どこかでピシっと不安な音が!やはり自然は侮れない)。
不思議なことに、辿っていた川が突然途切れたりします。湿原の中を通る水脈は、表に出たり、地中に潜ったりしながら大きな河川へと集合していくそうです。
(赤沼の水の出入り口も地中に潜っているとのこと)
水の路が断たれると、ハンノキ林を、ヨシ原を、シモツケのブッシュを、盛り上がったミズゴケとミズゴケの間を、掻き分け縫い縫い進むことに。ぬかるみこそしないものの、地面はでこぼこで歩きにくく、油断すると足下から水がしみ出していてひやり。
ストックでつつくとぼこっと穴が空いて湧き水が!凍りついた冬の湿原でもやっぱり水は湧き、流れ、動いている証拠です。(湿原の底なし沼「ヤチマナコ」じゃなくてよかった・・・でもみんなどんどんつついて水を出す)
もう緊張感といい体力勝負感といい、まさにバックカントリートレッキング。
辿りついた赤沼は白く凍り、青空とのコントラストが見事(思わず空を仰ぎ見る委員も)。
湖面には美しい氷紋ができていました。
厳冬期以外の湿原は、ぬかるんでいて物理的に(安全に、手軽に)歩くことができません。また歩けるとしても、デリケートな湿原植生を踏みつけることになり、大きなダメージを与えてしまうことになります。このような事情から、赤沼に限らず、湿原全般的に遊歩道などから外れて歩く機会が提供されることはなかなかありません。湿原全体が私たちにとって「秘境」なのです。
しかし、実際に湿原に降り立ち、ヨシ原を掻き分け、ちょっとしたスリルと隣り合わせながら「探検」しなければ見ること、感じることができない湿原の一面が確かにあります。
このような歩き方は、「誰でも」「いつでも」「どこでも」「より大勢で」という訳にはいかないでしょう。
「ここはよく水が氾濫する所」
「こういう環境はヤチマナコが多い所」
どこが歩きやすくてどこが歩きにくいか、どこが安全か危険か、どこが強いか脆いか、知り尽くした案内人がいてこそ可能な取り組みだったと思います。
自然を壊すことなく、持続的にその魅力を体験しながら利用する「ワイズユース」という考え方。
植生に影響が少なく、歩きやすくなる冬を選び、フィールドをよく知る案内人が配慮を行いながらの立ち入りは、ワイズユースの一例と言えます。
WG委員の中にも、歩道が整備された場所以外の湿原を今回初めて歩いた方もおいでだったようです。ハードなトレッキングの末たどり着いた赤沼で飲んだコーヒーは、思わぬ味だったよう。色々な意味で「ああこんな楽しみもあるんだね」という感想が漏れていました。
今回の体験が検討に活かされ、ワイズユースの概念とともに湿原の楽しみ方がひろがるとよいですね。