アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
根室海峡の流氷と動物たち
2008年02月12日
羅臼
知床半島と国後島との間に広がる細長い海は、「根室海峡」と呼ばれています。羅臼町が面するこの根室海峡にも、1月末から本格的に流氷が流入してきました。
写真1. 羅臼の海岸線から見た流氷(2月5日撮影. 対岸は北方領土の国後島)
根室海峡に来る流氷は、斜里町のウトロなどに接岸した後、少し遅れて知床岬先端を回り込んできた流氷です。これには、海流の方向が関係しています。
さて、羅臼町内の「流氷観測初日」はいつだったのでしょうか?東半分が羅臼町である知床岬の先端部では、1月23日に根室海峡へ流入する流氷帯を見かけました(エゾシカ密度操作実験の業務参加中)。定住人口のいる場所からとなると、1月28日に道道終点である相泊の裏山(標高約250m)から、幅広の流氷帯を観音岩方向に見ました(巡視中)。そして羅臼の中心市街から流氷帯が見えたのは、高台からだと2月1日が最初、海岸線の低いところからだと2月5日が初日になるようです。特に2月5日以降は、羅臼漁港よりも南側(標津町寄り)の海岸からも、沖合に広がる流氷帯が見えています(2/12時点)。羅臼漁港よりも北側(知床岬先端寄り)の相泊やサシルイ岬付近であれば、ほぼ接岸しているのが2月5日に観察されました。
写真2. 知床岬先端部の流氷帯. 左側の根室海峡に流入し始めている(1月23日撮影)
流氷は、知床が世界遺産として認定されるに至った重要な要素であり、知床に生息する動物たちの生態に大きな影響を与えています。以下、勤務日以外の休日に走り回って集めた観察記録も含めて、大型動物各種の今冬の動向と、流氷との関係について、あれこれ書いてみたいと思います。
まずはオオワシとオジロワシ。羅臼自然保護官事務所が11月30日から週1回ペースで実施している海岸線ワシ調査(羅臼町の海岸線の一部:約40 kmの区間を調査)では、1月22日に確認個体数が急激に増えました。流氷のウトロ接岸が1月21日、根室海峡への流入開始が前述したように1月23日ですから、流氷と共に移動してきて、新たに羅臼へ飛来したワシたちがいるのかもしれません。実際、1月23日に知床岬先端から流氷帯をこじ開けて脱出したときには、船から見える範囲の流氷上だけで、とまっているワシたちを15羽以上確認しました。
写真3. 流氷にとまるオオワシ成鳥(2月5日撮影)
トドは、11月18日に数頭規模の群れを初確認し、それ以降は沿岸の休息場所でほぼ毎日、ゆったりと遊泳するメス成獣主体の群れを陸から観察できていました。このようにトドが昼の間ずっと滞泳・休息している特定の休息場所(上陸はしない)は、知床の海獣ハンター達から長年「付き場」と呼ばれ、近年は羅臼漁港よりも標津寄りの沿岸に数ヵ所点在しています。トドが最も多かった12月には、各付き場にいた複数群を合計すると約100頭が確認されていました。しかし流氷帯が羅臼市街地に接近してきた2月4日を最後に、大きな群れを付き場で見かけることはなくなりました。現在は、「ごく少数を場所不定で時々見かける」というような、流氷期の例年どおりのパターンになっています。
写真4. トドの群れ. 付き場の1つにて撮影(1月19日)
ゴマフアザラシは、12月23日に標津寄りの沿岸で1頭確認したのを皮切りに、海岸線から時々見かけていました。1月19日以降は、羅臼市街地から近い礼文町地区にある暗礁で、プカプカのんびり立ち泳ぎをするアザラシたちを毎日観察できるようになり、2月4日には同所で20頭以上を確認しました。しかし2/8の昼休みと2/10に同所へ行ってみたところ、1頭も発見できませんでした(他の場所では1頭見ましたが)。2月5日に有害駆除が実施された影響も多少あるかもしれませんが、みんな沖合の流氷帯の方へ移動してしまったのでしょう。
なにはともあれ2月下旬になれば、流氷の上に乗るゴマフアザラシを観光船からたくさん観察できるようになるはずです。アザラシの出産期である3月末-4月上旬まで羅臼沖に流氷帯が残っていてくれれば、ゴマフアザラシやクラカケアザラシの真っ白な赤ちゃんとの出会いも、期待できるかもしれません。
写真5. 立ち泳ぎしてノドをこちらに見せているゴマフアザラシ(1月19日撮影)
シャチは、1月23日に知床岬からの帰路、観音岩沖で親子連れ3頭と遭遇しました。今後3月まで流氷勢力が強いまま維持されると、シャチの餌となるアザラシ類の数が羅臼沖に増えてくると予想されます。そうなれば、沖合でシャチと遭遇する機会も増えるかもしれません。
写真6. 横一線に並んで浮上したシャチの家族群. 左から子、メス、オスの順に背ビレが並んでいる(1月23日、観音岩沖にて撮影. 背景は国後島)
写真7. 船に自ら接近、下をくぐってから急浮上した子シャチ
(1月23日に若松自然保護官が撮影したビデオ映像よりキャプチャ)
写真1. 羅臼の海岸線から見た流氷(2月5日撮影. 対岸は北方領土の国後島)
根室海峡に来る流氷は、斜里町のウトロなどに接岸した後、少し遅れて知床岬先端を回り込んできた流氷です。これには、海流の方向が関係しています。
さて、羅臼町内の「流氷観測初日」はいつだったのでしょうか?東半分が羅臼町である知床岬の先端部では、1月23日に根室海峡へ流入する流氷帯を見かけました(エゾシカ密度操作実験の業務参加中)。定住人口のいる場所からとなると、1月28日に道道終点である相泊の裏山(標高約250m)から、幅広の流氷帯を観音岩方向に見ました(巡視中)。そして羅臼の中心市街から流氷帯が見えたのは、高台からだと2月1日が最初、海岸線の低いところからだと2月5日が初日になるようです。特に2月5日以降は、羅臼漁港よりも南側(標津町寄り)の海岸からも、沖合に広がる流氷帯が見えています(2/12時点)。羅臼漁港よりも北側(知床岬先端寄り)の相泊やサシルイ岬付近であれば、ほぼ接岸しているのが2月5日に観察されました。
写真2. 知床岬先端部の流氷帯. 左側の根室海峡に流入し始めている(1月23日撮影)
流氷は、知床が世界遺産として認定されるに至った重要な要素であり、知床に生息する動物たちの生態に大きな影響を与えています。以下、勤務日以外の休日に走り回って集めた観察記録も含めて、大型動物各種の今冬の動向と、流氷との関係について、あれこれ書いてみたいと思います。
まずはオオワシとオジロワシ。羅臼自然保護官事務所が11月30日から週1回ペースで実施している海岸線ワシ調査(羅臼町の海岸線の一部:約40 kmの区間を調査)では、1月22日に確認個体数が急激に増えました。流氷のウトロ接岸が1月21日、根室海峡への流入開始が前述したように1月23日ですから、流氷と共に移動してきて、新たに羅臼へ飛来したワシたちがいるのかもしれません。実際、1月23日に知床岬先端から流氷帯をこじ開けて脱出したときには、船から見える範囲の流氷上だけで、とまっているワシたちを15羽以上確認しました。
写真3. 流氷にとまるオオワシ成鳥(2月5日撮影)
トドは、11月18日に数頭規模の群れを初確認し、それ以降は沿岸の休息場所でほぼ毎日、ゆったりと遊泳するメス成獣主体の群れを陸から観察できていました。このようにトドが昼の間ずっと滞泳・休息している特定の休息場所(上陸はしない)は、知床の海獣ハンター達から長年「付き場」と呼ばれ、近年は羅臼漁港よりも標津寄りの沿岸に数ヵ所点在しています。トドが最も多かった12月には、各付き場にいた複数群を合計すると約100頭が確認されていました。しかし流氷帯が羅臼市街地に接近してきた2月4日を最後に、大きな群れを付き場で見かけることはなくなりました。現在は、「ごく少数を場所不定で時々見かける」というような、流氷期の例年どおりのパターンになっています。
写真4. トドの群れ. 付き場の1つにて撮影(1月19日)
ゴマフアザラシは、12月23日に標津寄りの沿岸で1頭確認したのを皮切りに、海岸線から時々見かけていました。1月19日以降は、羅臼市街地から近い礼文町地区にある暗礁で、プカプカのんびり立ち泳ぎをするアザラシたちを毎日観察できるようになり、2月4日には同所で20頭以上を確認しました。しかし2/8の昼休みと2/10に同所へ行ってみたところ、1頭も発見できませんでした(他の場所では1頭見ましたが)。2月5日に有害駆除が実施された影響も多少あるかもしれませんが、みんな沖合の流氷帯の方へ移動してしまったのでしょう。
なにはともあれ2月下旬になれば、流氷の上に乗るゴマフアザラシを観光船からたくさん観察できるようになるはずです。アザラシの出産期である3月末-4月上旬まで羅臼沖に流氷帯が残っていてくれれば、ゴマフアザラシやクラカケアザラシの真っ白な赤ちゃんとの出会いも、期待できるかもしれません。
写真5. 立ち泳ぎしてノドをこちらに見せているゴマフアザラシ(1月19日撮影)
シャチは、1月23日に知床岬からの帰路、観音岩沖で親子連れ3頭と遭遇しました。今後3月まで流氷勢力が強いまま維持されると、シャチの餌となるアザラシ類の数が羅臼沖に増えてくると予想されます。そうなれば、沖合でシャチと遭遇する機会も増えるかもしれません。
写真6. 横一線に並んで浮上したシャチの家族群. 左から子、メス、オスの順に背ビレが並んでいる(1月23日、観音岩沖にて撮影. 背景は国後島)
写真7. 船に自ら接近、下をくぐってから急浮上した子シャチ
(1月23日に若松自然保護官が撮影したビデオ映像よりキャプチャ)