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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

旅立って

2008年04月07日
釧路湿原
4月4日昼下がり、事務所裏に懐かしい「珍客」が現れました。今年の1月15日に釧路湿原周辺で放鳥されたオオワシ(まだ大人になりきれていない亜成鳥)です。
といってももちろん、顔を見ただけではわかりません。放鳥した時に装着された標識で確認できました。


エゾマツの上で休むその個体(飛翔しないと標識は見えない)

釧路湿原自然保護官事務所がある「釧路湿原野生生物保護センター」は、種の保存法の対象種のうちオオワシ、オジロワシ、シマフクロウ等の猛禽類を専門に保護収容している施設でもあります。猛禽類を専門とする獣医師さんが委託を受けて在駐し、北海道各地で保護されたこれらの種の治療、野生復帰の為のリハビリ等にあたられています。
今回帰ってきた(?)のは2007年春に保護された個体。ひと夏を事務所裏のケージで過ごして冬を待ち、野外に復帰となったものです(この時は他に3羽が一緒に放鳥されました)。
 標識はワシの行動の調査研究が目的で装着されるのはもちろんですが、放鳥直後についてはその個体が「野外で無事か否か」を確認できる手段として機能します。慎重なリハビリを経ても、いざ放してみると上手に餌を採れない等、野外でうまく生活できない場合もあり、アフターケアが欠かせないのです。一度放した個体が再収容され、野外に返すための努力が繰り返される場合もあります。結果をフィードバックすることは、リハビリ技術の向上にもつながります。
 ただ、一度放した個体が「自分で」戻ってくるのはずっと携わっている獣医さんから見ても珍事だとか。


観察を続けるうちにリハビリケージの側のシラカバに移動し、ケージ内を覗き込んでいました。内側のオオワシ成鳥も相手が気になっている様子。結局夕方までセンター付近にいました。
 
このオオワシ亜成長の放鳥直後数日間、私も追跡を手伝わせてもらいました。その際は放鳥場所から大きく移動はしないものの付近の河川から確認され、餌の魚を求めて移動した?等の暮らしぶりが伺えました。その後の追跡情報では根室方面まで移動したとのこと。まずは順調に復帰したと言っていいのでしょう。
しかし、本当に野生に帰ったと安心できるのはこれからの行動次第。
無事な姿が確認できたことは嬉しいのですが・・・ここではないのですよ君の帰るべき場所は。

オオワシの夏期の生息地はロシア沿海部。北海道へは越冬の為に渡ってきますが、春の訪れと共に北へと帰るのが本来の行動です。つまり、きちんと生態通り渡りをしてくれることがオオワシの野生復帰における重要なポイントなのです。放鳥の場所を選ぶ際も、餌条件等の他に、時期になったら他の個体の様子を見てきちんと渡りが促されるよう、越冬ワシが集まるポイントなどに配慮しているのです。放鳥が冬まで待たれるのにはこのような理由があります。

釧路湿原を巡視していてもこの2週間ほどでオオワシを見かける頻度が、とりわけ子育てをするであろう成鳥を見かける頻度がずいぶんと少なくなりました。
この亜成鳥も道案内役がいなくなる前に無事に渡ってほしいものです。