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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

コアホウドリと傷病鳥研修

2008年05月01日
釧路湿原
少し前、傷病鳥取り扱いについて研修を受けた時のこと。
「この鳥を扱う時は猛禽類と同じ、いや嘴はそれ以上に気をつけて下さい。鋭いです。指が切断される可能性もあります。」
鋭い爪と嘴を持つワシ類に次いでコアホウドリをスライドで映しだし、獣医師さんが説明の声に力を込めたので印象に残っていました。続けて「北海道の東側だと悪天候後にこの鳥が保護されることが結構あるのです」と説明されるも、あまりに馴染みのない鳥なので縁は薄かろうと思っていました。
ところが。
「根室でコアホウドリが6羽収容され、4羽は生きています。明日そちら(釧路湿原野生生物保護センター)に搬送します」
・・・研修から2ヶ月とたたぬうちにご縁がありました。


特設プールに収まるコアホウドリ達

「鋭い切れ味」が定評の口の中を拝見。
くし状の突起は飲み込んだ魚を逆流させない役割があるとのこと。

コアホウドリは北大西洋の外洋に広く分布していますが、繁殖地は限られており国内では小笠原諸島の一部のみ。鳥獣保護法の希少鳥獣に指定されています。一般的な傷病鳥獣の取り扱いは北海道(都道府県)が行いますが、コアホウドリなど希少種は環境省が担当となるため、現地で保護した北海道根室支庁から引き継いでこちらに収容されました。
コアホウドリ達は発見時、港で「溺れて」いたとのこと。何かの理由で羽毛の撥水機能が低下していたようです。検査の結果病気の心配はなく、外傷も軽いので、獣医師さんの所見では回復次第放せる見込みです。今回は残念ながら情報が少なくコアホウドリ達の身に何が起こったのか特定はできませんが、外洋性の鳥が複数港にいたのは何とも不思議なところです。嘴や脚に擦れた跡があったことなど、可能性としては漁網による混獲が考えられるとのこと。やさしい漁師さんが港まで連れ帰ってきてくれたはいいものの、大きくて手に負えず放してしまったのでしょうか。すぐに連絡していただければ救命率も上がります。

傷病鳥獣の取り扱い研修の中で、収容現場の情報収集が非常に重要である点について説明を受けました。
現場の情報は治療の手助けになるだけではなく、例えば同じ場所で同じような事故が何度も起きる、不自然な死に方をしているなど、フィールドで野生動物の直面している問題を知る手がかりとなります。これらの情報が野生生物の生息を脅かしている問題の対策に結びつけば、結果的により多くの個体を救うことにつながるのです。
今回のコアホウドリの件ではこれ以上情報は得られなそうですが、同じような収容が今後何度も生じるようであれば、何か対応すべき問題がはっきりしてくるかもしれません。

春になってフィールドに出る機会が増える直前、このタイミングでのコアホウドリ(何しろ嘴の話題でとても印象に残っていた)の収容は、研修の内容を思い出すよいきっかけとなりました。これまで釧路湿原を巡視中に傷病鳥獣を発見したことはありませんが、野外に出る機会の多い私たちは傷病個体の第一発見者となる可能性が十分にあり、その際は救命率を高めるため、原因の発見のため、適切な対処に努めることが役目となります。しかし研修で学んだ内容は、めったに生じることのない収容の場面に限らず、通常の巡視の際も応用できる部分もあります。
傷病鳥獣の発生時に限らず普段から野生動物が知らせてくれている情報についても色々な側面に気がつくことができるよう、アンテナを研ぎ澄ませていきたいですね。


せっかくの機会なので傷病取り扱い実戦中。本藤AR(右)と一緒に保定と給餌を手伝う。指は無事ですが嘴の洗礼をしっかり受けています。