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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

蛾眉(美人)には虫がつく???

2008年06月06日
稚内
 サロベツ湿原では早春になると、雪の上を這う毛虫を見かけることがあります。湿原の代表的な昆虫種ヨシカレハという蛾の若齢幼虫です。幼虫の食草はヨシやササなので湿原ではよく見かけます。

 
ヨシカレハ幼虫(NPOサロベツ・エコ・ネットワーク 島崎暁啓さん提供)
 
来たばかりの頃、この毛虫に出会った私は、修士課程でやっていたように、幼虫を何十匹か飼育し、寄生蜂や寄生バエの種類を確認することで湿原昆虫の食物連鎖の一部を調べようと思い、5月中旬から実行に移しました。

 採集した場所はもちろん国立公園外です。全部で40匹採集。毛虫が寄生されていた場合、1匹の毛虫から何匹の寄生蜂、寄生バエが出てくるのか、毛虫が死んでしまった場合、それは寄生によるものか、その他の原因かを正確に把握するため、1匹ずつ別々のプラカップに入れました。


ヨシカレハ飼育の様子

 2日おきくらいの頻度で、ササの葉っぱを入れ替え、糞のお掃除をします。ヨシカレハの幼虫の糞は乾いた感じのとてもきれいな緑色をしています。幼虫はササの葉の先っぽでつんっとつついてやるとすぐに丸まってしまい、その様子はシダ類やワラビの新芽に似ています。
次の機会に写真を載せたいと思います。

 ところで、皆さんは「蛾眉」という言葉をご存じでしょうか?古い時代の中国で使われていた、死語になりつつあるこの言葉は「美人」という意味です。なぜ美人を表す言葉に嫌われ者の「蛾」が入っているのでしょうか?

 皆さんは蛾の触覚を見たことがあるでしょうか?蛾の触覚の形もいろいろありますが、ヤママユの仲間など、中心の軸に対してひだが沢山つき、羽毛状になった触覚を持つものがいます。触覚の先端にいくほど、ひだの背も低くなっていって、触覚全体は細かい毛の流れまで形よく整った三日月型の綺麗な眉のように見えます。このことから、蛾の触覚のような眉を持つことが美人を表す言葉として使われていました。

 採集した毛虫のうち、1匹が色が白っぽくてキレイなコだったので、稚内自然保護官事務所の美人レンジャーの名前からとって、蛾眉〇〇〇と名づけました。

 そして、ことは起こりました!!!
5月末のある日、ヨシカレハたちの世話をしに行った私は蛾眉〇〇〇ちゃんの背中にコマユバチの繭がびっしりついているのを発見しました!繭数を数えてみると約40個。その後、体長数ミリの小さい蜂が羽化してプラカップ内を飛び回りました。う~ん・・・。やっぱり美人には虫がつく!!! 
美人レンジャー、同じ名前の毛虫がこんなことになって申し訳ない!
私を嫌いにならないで~!
コマユバチの種名まで調べられるかは分かりませんが、この蜂を豊富ビジターセンターに置いてある顕微鏡で観察できるようにし、湿原のヨシ・ササ→ヨシカレハ→コマユバチの食物連鎖を紹介したいと思います。


コマユバチ(?)に寄生された蛾眉〇〇〇ちゃん

 さて、他の毛虫くんですが、今のところ順調に育っています。ヨシカレハの成虫を図鑑で調べると、蛾眉の由来になったようなきれいな羽毛状の触角を持っていました。成長が楽しみです。

 湿原は一見地味な環境です。起伏のない平坦な地形。森林もありません。そして、蛾も嫌われ者です。毒を持つものがいたり、方向感覚なくバサバサ飛び回るからでしょう。でも、湿原に生きるようになったヨシカレハの生活史や、 コマユバチの親がヨシカレハの居場所を突き止める方法を考えていると、生き物の世界は本当におもしろく、不思議に満ちていると気づかされます。
サロベツ湿原は不思議の宝庫です。

 今後もおもしろい虫がいたらちょくちょく飼ってみようと思っています。また、新しい毛虫(おそらくヒトリガの仲間)も飼い始めました。オニシモツケの葉を食べていました。心当たりがある方は名前を教えてください。