北海道のアイコン

北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

エゾニュウの秋

2008年09月04日
稚内
エゾニュウの秋

 サロベツ原野の9月。観光客で賑わった7,8月が去って、日々秋の気配が感じられます。晴れた日にはどこまでも高く青く澄み渡った空。風の流れを映し出して大空のキャンパスに描かれた柔らかい羽毛状の秋の雲が浮かんでいます。


秋の青空

このような空の美しさと利尻山の風景を楽しみながら海岸線を走っていくと、海岸砂丘の草むらからニョッキニョッキと突き出ている大型の枯れた草本に気づきます。枯れて茶色くなった彼らはしかし、びっしりと種をつけています。この草本の名はエゾニュウ、セリ科の一稔性の多年生植物です。
花期は7~8月、小さな白い花が無数に集まり、まるで打ち上げ花火が開いたかのようなとても大きな複散形の花序を形成します。


エゾニュウの花~白い大きな花火のよう~

この花は夏の間、昆虫たちの人気レストランでした。しばらく観察していると、お客はひっきなしにやってきました。
カミキリムシ、マルハナバチ、コハナバチ、ハナアブ、ハナバエ、カメムシ、甲虫etc・・・。
特にハエの類が数多く訪れていたようでした。セリ科植物の花には外に向かってさらけ出された花盤と呼ばれる蜜を出す部分があります。
ハエたちは舐めとるのに適した口で花盤を舐めていたようでした。
ハチたちもエゾニュウの花の間で花粉まみれになっています。
私が近づいても気づかないくらいエゾニュウに夢中でした。
直径が4,5cmの太い茎を持ち2,3mもの高さに成長するのも、無数の花を散りばめた大きな花序をつけるのも、
原野の中でよく目立って昆虫を沢山呼び寄せ、花粉を運んでもらうためなのでしょう。
一生に一度だけ花を咲かせるエゾニュウ。年々エネルギーをためこみためこみようやく建てられた花の塔。
次世代を創る沢山の種を実らせ、枯れていきます。
厳しい最北の原野に生育する野草に健気さとたくましさを感じました。


びっしりと種をつけ、役目を終える

エゾニュウの他にも多くの植物が今年の仕事を終え、実を結びました。
季節は巡って、サロベツ原野にはもうすぐヒシクイなど冬鳥たちが渡ってきます。原野の沼地も賑やかになることでしょう。