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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

たまには在来種

2008年12月05日
洞爺湖
洞爺湖では今年度、1万1千尾のウチダザリガニを捕獲した。
これだけウチダザリガニを見ていると、彼らに罪はないとわかっていながらも、その姿を見るたびに悲しい気持ちになる。交尾を終えたこの時期、お腹にびっちり卵を抱えた奴なんかを見ると、なおのこと「ゲンナリ」してしまう。

そこで11月のある日、「たまには在来のザリガニを見に行こう」と外に出掛けた。

ニホンザリガニ(女子高生のあいだではニチザリ)は、現在日本に生息する3種類のザリガニのうち、唯一の在来種。本州ではザリガニ=アメリカザリガニらしいが、本来日本では、ニチザリこそが真の「ザリガニ」だ。低水温の綺麗な水でしか生きることができず、環境の変化には極めて弱い。北海道と東北の一部のみに生息しているが、開発による河川や湖沼環境の悪化、水質汚染等の影響によりその数を減らしており、2000年には絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)に指定された。

この日も長靴をしっかり洗ってから洞爺湖畔あちこちの川に入った(人一倍ウチダザリガニに触れる機会の多い僕は、川に出掛ける前に必ず長靴を念入りに洗う。ザリガニペストの感染防止のために。これは休みの日、釣りに行く時にも怠らないようにしている)。ニチザリが好みそうな、それほど水量の多くない水の綺麗な沢を登り、石をはぐったり落ち葉や泥を掘ったりしてみるが気配がまったくない。地形図を見ながら見当をつけ、車を移動させ、いくつかの川や沢を歩き回ってみたがまったく見つからず敗退。

このまま帰るのも悲しいので、以前から生息が確認されている場所に行ってみた。うっすら雪が積もった今、ニチザリたちは元気なのかなぁ…と。ここは地元の方がかなり頑張って生息を確認し、情報を提供してくれた場所。ここも国立公園内である。

落ち葉や泥をかき分けること20分。いた。泥の中から眠そうに1匹のニチザリがのそのそ顔を出した。起こしてしまって申し訳ないが可愛いから触らせて。ウチダザリガニやアメリカザリガニに比べると、体全体が丸みを帯びており、サイズも小さく、なぜかわからないけど表情までメチャクチャ可愛い。僕が普段ウチダザリガニばかり見ているからそう思うのかなぁ…。



なぜ「ザリガニ」という生き物が、マニアを生むまで男心をグッと捉えるのか、ずっと
不思議だったのでニチザリを手の平に乗せ、眺めながら考えてみた。答えはおそらく、体の一部が明らかに「武器」になっているからだと思う。男には狩猟時代の名残である闘争心、戦闘本能がある。だから明らかに強そうだったり、強そうな武器を持っている奴に惹かれるのだ。そう考えると、男がカブトムシやクワガタ、カマキリやタガメなど、角やハサミを持つ生き物に惹かれてしまう説明がつく。…。僕だけですか?

結局この日、体長1cmにも満たないニチザリベビーを含む10尾ほどの個体を確認。しばらく手を浸けているとキーンと痛くなるような冷たい水の中、落ち葉の下や泥に潜って一生懸命に生き、しっかりと繁殖をしている。



このあと、地元中学生からもらった情報で「数年前にはニチザリがたくさんいた」という、洞爺湖へ注ぎ込む河口に行ってみたが、砂防工事による河川改修により、川は見事な三面張りコンクリートの「排水溝」と化しており、ニチザリはおろか、生き物の気配はまったくなかった。



ザリガニ以外の生物においても、外来種による影響、開発による環境悪化等、常に原因は人間にある。食料難解決策としてどうしてもウチダザリガニを持ち込む必要があったの?セイヨウオオマルハナバチを持ち込んでまでトマトの受粉を促進させなければならなかったの?身の安全を確保するために何がなんでもマングースを持ち込まなければならなかったの?本当にその川にダムや護岸工事が必要だったの?森林を伐採する必要があったの?

僕が子供の頃は、外来種や環境破壊なんていう言葉を耳にすることはそう多くはなかった。今、半強制的に環境問題を背負わされた子供たちへのせめてもの償いとして、子供たちが身近な自然に触れ、そこに暮らす生き物に興味を抱くような機会を出来るだけたくさん設けること。それは私たちに課せられた義務です。

※場所はニホンザリガニ保護のため、事務所位置を掲載しました。ニホンザリガニを見つけても、なるべく持ち帰らずに元の場所に戻して下さい。