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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

樹木のかたち

2009年02月16日
稚内
青々と茂らせた葉を落としてしまったら死んだようにみえる、というわけではなく、冬の樹木には張り詰められた緊張感を感じることがあります。
刺さるような寒さに奪われぬよう、裸の樹木たちが「伸びる、花を咲かせる、実を結ぶ」という生命力の源を冬芽に凝縮させ、しっかり握りしめているようにみえるからです。
冬芽、葉や実がついていた痕、そして枝ぶり。
これらを見ることは花や葉のつき方、枝の伸び方など、樹木がどういう構造をしているのか知るヒントになってくれます。
今回は原野の樹木の冬の様子をいくつか紹介してみたいと思います。


春を待つハルニレの大木

 原野に多いハンノキたちは、冬のこの時期、枝先にえんじ色の粗挽ソーセージのようなものを何個も垂らしています。
そして枝の途中にはマツカサ状の球体を上向きにつけています。これらは一体なんでしょうか? 
実はソーセージみたいなものはハンノキの今年の雄花が集まって房になったもの、マツカサ状の球体は去年の雌花の集まりが受粉後に種子となったときに種子を入れる容器の役割をしていた果穂と呼ばれるものです。
今年の雌花は小さく地味で目立ちませんが、雄花から少し離れた枝の途中にひっそりとついています。
私は、ハンノキやシラカバといったカバノキ科樹木が持つ房状の雄花が開花した様子が好きです。
寒さが緩んだ4月頃、堅く閉ざした房の表面が徐々にほどけて、つづりあわされた多数の鱗片となって長く垂れ、それぞれの鱗片の下から細かい雄しべがのぞくと、まるで精巧な細工をほどこしたかんざしのように見えます。


ハンノキの雄花(枝先)、雌花(雄花の位置から少し下ったところ)、去年の果穂


 次はヤチダモをご紹介しましょう。こちらも原野でよく見かける樹木です。
冬芽の出っ張りと葉痕の窪みが積み重なってできたでこぼこの枝はふしくれだった指のようで、私はこの木に男性的な印象を受けました。また、このでこぼこ模様は縄文時代の土偶にも見えるのですが、皆さんはいかがでしょう? 
ヤチダモには雄の木と雌の木があり、雌の木には冬の時期、秋に翼のある種を沢山つけていた軸の部分が残っていることが多くあります。


ヤチダモの枝先(でこぼこ模様が土偶に見える?)

 ところで、雄しべと雌しべを同じ木につける植物を雌雄同株(しゆうどうしゅ)といいます。
そのうちの多くは雄しべと雌しべが一緒になった花(両性花)をつけますが、
ハンノキのように同じ木に雄しべを持つ花(雄花)と雌しべを持つ花(雌花)を別々につけるものもあります。
一方、ヤチダモのように雄花と雌花を持つ個体が分かれている植物を雌雄異株(しゆういしゅ)といいます。
植物たちがそういった様々な雄と雌のかたちをとるのは自ら動くことのできない彼らがいかに効率よく子孫を残すかという問題と深く関わっています。 一般に、雌雄同株の樹木は相手がいなくとも同じ木の中で受粉を行い、種子をつくることができます。
反面、新たな遺伝子が取り入れられず繁殖力や生存力が低下してしまうという危険にもさらされています。
同じ木の中で受粉を行うことの報酬より損失が大きくなる場合があり、それが雄の木と雌の木を別々に出現させた主な理由と考えられているようです。

 ハンノキとヤチダモについて、これから花になる冬芽、去年の実の痕、葉が落ちた後の枝ぶりなどについて紹介しました。
樹木の持つ美しくおもしろいかたちにはいろいろな意味がかくされています。
特に、冬の樹木からは夏とは違って樹木のつくりの原型のようなものが見られるのではないでしょうか。
皆さんも冬の樹木を観察してみてはいかがでしょう。