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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

ヒサゴ沼避難小屋清掃登山・登山道整備

2009年07月15日
上士幌
 降りしきる雨の中、車内で緊急会議が開かれた。沼ノ原登山口は雨。会議中さらに雨は強くなっていく。
「この雨だと間違いなく急坂は滝の状態だ。転んで怪我するし、登れない人もいるよ」
山を知り尽くしたパークボランティア(以下PV)Yさんの言葉は重い。予報ではこのあとさらに雨は強くなる。
 いったん引き上げて翌日出直すか、無理して登るか。
「引き上げよう」
リーダーFさんの決断に反対者ゼロ。ヒサゴ沼B隊満場一致の引き上げだった。
 その夜、トムラウシ登山道コマドリ沢付近で女性骨折との一報が入る。まさかトムラウシA隊の事故ではないかと皆一瞬凍り付くが、本州からの登山客と判明した。登山道が危険な状態であったことは間違いない。


 翌日、曇り空ではあったが雨は上がっていた。所々の難所を慎重に通過し、五色岳分岐から一気にヒサゴ沼へ向かう。途中、ハイマツによる顔面への波状攻撃をかわしながら木道へ抜けると、そこにはホソバウルップソウの群生が待っていた。
 ヒサゴ沼へ近づくにつれ霧が濃くなり視界が悪化。木道が消え、代わりにとてつもない大きさの雪渓が姿を現す。


いつの季節でしょう


「本州の人はこの残雪見ると歩けなくなっちゃうらしいんだよ。気持ちがこわばっちゃうんだろうね」
 リーダーが語っていたそのことが2日後事故となって現実のものとなった。(注1)

 濃霧と大雪渓の関門をクリアし、ヒサゴ沼に到着すると、不思議なことに沼周辺だけは霧が晴れている。テントを設営し、それぞれ持ち寄った食料が並び、ビールと日本酒と・・・
     (中略)
 明日の晴天を祈り就寝についた。

 最終日の朝、霧が出たり消えたりの天気ではがゆい思いをしながらヒサゴ沼避難小屋清掃と登山道ロープ張りを行った。置きっぱなしなのかデポなのか不明のものは記録して秋に同じものがあった場合は撤去することになる。携帯トイレの使用済みと使用前を一緒に放置しているものやハンガーなど、ありとあらゆるゴミを集めて最後に集合写真を撮るときになって、青空が現れたのだ。ゴミは分担して担ぎ下山するという大変なことが待っているのだが、この青空はうれしいのである。


美しい風景にゴミは似合わないがこれが現実

 これで終わったわけではない。木道の傾きや浮きの応急処置をしながらの下山が待っている。
「持ち上げてみようか」
「無理じゃないの」
「やってみるべ」
「持ち上がったー。やればできる」


上から59歳64歳70歳(すごい)

 木道を持ち上げている間に素早く土台に石を積んでバランスを取る。こうしてシーソー状態となった木道が安定する。
 ある者は血圧の薬を飲み、ある者は膝に爆弾を抱えながら、皆それぞれ健康に不安を抱えながらの登山である。
今回のB隊PV平均年齢64歳。こうした人たちによって登山道の安全が保たれているのである。
 全員無事登山口に降りて解散、のはずだったが思わぬサプライズが用意されていた。当初のリーダー予定だったIさんがFさんの車の陰にメロンとそうめんと水を差し入れていたのだった。水分とエネルギーが枯れる寸前だったメンバー全員がメロンにかぶりつきそうめんをすする。Iさんたら味な真似を。お礼に秋のウチダザリガニ防除でいっぱい茹でザリガニ持って帰ってもらいましょう(笑)。

(注1)埼玉県の男性(69)が13日午後2時頃、化雲岳付近の雪渓で右足を負傷。ヒサゴ沼避難小屋で一夜を明かし、ガイドを通じ救助を要請。道の防災ヘリが出動し、男性を救助し清水町の病院へ搬送した。

(注2)さらに残念なことが起こりました。16日にも2件の遭難が発生し、10人の方がお亡くなりになりました。軽装と無理な続行が惨事を引き起こしたのではないかと指摘されているようです。大雪山は、とても厳しい山です。真夏とはいえ、氷点下にもなる気候。しっかりした準備と、引き返す勇気を持たなければなりません。