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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

増加

2009年09月02日
洞爺湖


「増加」

7月27日(月)~8月2日(日)、1週間のウチダザリガニ特定区域調査(毎年、同じ日の同じ場所にカゴを仕掛け、1週間毎日引き上げ分布密度の変動や生息域の拡がりをみる)を終えた。

これは…!?

洞爺湖温泉街一帯で、一昨年から昨年の増え方とは比較にならないくらい爆発的に捕獲数が増えた。捕獲カゴ35個、6日間の引き上げで5,197尾の捕獲。1日平均866尾。ひとカゴ平均に換算した数字で比較してみると、一昨年2.7尾、昨年4.3尾、今年24.7尾。

同じ時期の同じ場所で…。

昨年との微妙な水温の差や、自分が潜水するようになり、ザリガニ密集地帯にピンポイントでカゴを仕掛けることが出来るようになった、という理由だけでは片付けられない増加ぶりである気がする。

昨年度、11,000尾を捕獲したのは洞爺湖じゃなかったか。ある場所に侵入・定着した外来生物が、一定期間を経てから爆発的に増加するというのがこれか…。




(黒い粒はウチダザリガニの卵。昨年秋の調査では、535個もの卵を抱えたメスもいた。かなりの繁殖力であることは間違いない)
※ひと粒ずつ、卵の数をカウントしてくれた酪農学園大学の学生、お疲れ様。

くわえてスジエビやウキゴリ、ヨシノボリなど、混獲される他生物が減った(混獲された他生物は数をカウントしてリリースしている)。これだけの数のウチダザリガニが湖底をのそのそ歩き回っていたら、他の底棲生物は暮らしにくいのだろう。

この勢いで数を増し、生息域を拡げ、洞爺湖につながる河川に侵入した場合、そこに棲む生き物たちは何を思い、どう対応するのだろう?
洞爺湖の水源、湖から河川への遡上・産卵が見られるソウベツ川のサクラマスは困らないのだろうか、川底に産み落とされた魚卵など、格好のエサになってしまうのではないだろうか…。

今年度より、壮瞥町がウチダザリガニ防除に取り組んでいる。2名の担当者が11月まで、ひたすらウチダザリガニを捕獲するというなんとも強力な捕獲圧。先月、洞爺湖町と提携を結んだ酪農学園大学の学生も頻繁に洞爺湖を訪れ、ウチダザリガニをはじめ、アライグマや中島の生物、洞爺湖の水質など、様々な生物調査・環境調査を行い、地域のためにデータを蓄積してくれている。地元ダイバーによるNPO、UWクリーンレイク洞爺湖も、メンバー全員が本業を持つかたわらで、学校や民間企業などからの依頼による環境学習会、ダイビングツアー等を受け入れながら、熱心にウチダザリガニ防除に取り組んでいる。足元の自然をなんとかして守りたいという一心で。そういった地道な活動により、地域の子供を育て、身近な自然環境を守っていくことが、将来的に地域の活性化にもつながると考えているからだ。




(防除活動中に声をかけられることも多い。丁寧に外来生物やウチダザリガニについて説明する。普及啓発効果も大きい。)




(ザリガニ防除がきっかけで、今では洞爺湖でダイビングライセンスを取ることもできるようになり、地元ダイバーも増えはじめている。)

いつまでも「観光振興第一」という考え方では何も変わらない。一気にとはいかないが少しずつ転換を図る必要がある。そのためにはまず、足元の自然や環境問題についてもっと深く理解し、その貴重さや大切さに気付いてほしい。

8月末現在、洞爺湖での総捕獲数、20,000尾。みなさんと連携し「根絶は不可能」とあきらめる前に、出来る限りの捕獲圧をかけ続けてみようと思う。