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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

北からのお客様たち

2009年10月21日
稚内
 9月から10月末頃までのこの時期、原野に出ていると高い空の上から「グワァ、グワァ」と声が降ってくることがあります。ユーラシア大陸北部からはるばる海を越えて渡ってきたオオヒシクイの声です。空を見上げてみると、群れがVの字型の鉤になったり、一列の棹になったりしながら、飛んでいく様子が見えたりします。彼らは越冬のために南へ渡っていく途中であり、サロベツ原野近辺の湖沼で翼を休め、そこからさらに南下するのです。

 原野に渡ってきたオオヒシクイについては、昨年のAR日記にも載せましたが、ガン類に属する鳥を見たのはその時が初めてでしたので、あまり知っていることがなく、ただただひとところに集まる数の多さに圧倒され、オオヒシクイを突き動かして渡り鳥たらしめている要因のようなものの不思議さを漠然と感じました。そして今年、再びブログを書こうと思って気づいたことですが、今もやっぱりオオヒシクイについて知らないことがすごく多いことを感じます。




 今年も幌延町下沼地区の牧草地に飛来したオオヒシクイたちを何回か観察しに行き、農道沿って見られる数のカウントを行いました。実際は農地の奥の草むらの向こうにもわんさかわんさかいたことでしょう。

○カウント数
9/5   11羽(国定鳥獣保護区管理員さんカウント)
9/11   800羽~1000羽(賀勢カウント)
9/12   1644羽(国定鳥獣保護区管理員さんカウント)
9/14   2000羽(賀勢カウント)
9/22   4437羽(国定鳥獣保護区管理員さんカウント)
9/28   5347羽(国定鳥獣保護区管理員さんカウント)
10/6   2200~2500羽(賀勢カウント)

※これを見ると9月の末が飛来数のピークだったことが分かります。

 観察しながら思ったことですが、彼らは外見(羽の色、模様)がみんな一緒です。
しかもひとところにウジャっと集まって沢山いる・・・。
当たり前のことを改めて実感したのですが、だからこそ観察が難しい・・・。
実際には個体ごとの特徴や個性があるのでしょうが、鳥を見るのにあまり慣れていないと画一的に見えてしまいがちかもしれません。

 同じガンカモ科でも、カモの仲間は雄の羽の色や模様が鮮やかで雌は地味ですから、少なくとも雄雌の区別はつきます。区別がつくということで観察はかなりしやすくなります。
「カモの雄たちはお嫁さんをもらうためにオシャレを競っていて、雌たちは強くてハンサムな雄に憧れるんだ」という風に彼らの行動や形が持つ意味に対するイメージも湧きやすい気がします。

 だから、カモの観察には親しみが持ちやすいけれど、オオヒシクイなどガンの観察にはとっつきにくい印象を持つ人が多いかも!?

 けれど、同じように見えるオオヒシクイの群れでは沢山の家族が集まって構成されているということ、個々の家族は渡りの間は常に一緒に行動し、お互いを確認し合っているのだということ、ヒナは親鳥の鳴き声と顔を他と区別して覚えているのだということ、雄と雌はどちらか片方が死なない限り一生同じ相手とつがうこと(これは年ごとにつがう相手を変えるカモとは対照的です)、など実に豊かな「個」の姿がそこにはあるようです。
これだけ明確に「個」を認識できる鳥だからこそ、わざわざ外見の違いに凝ることはしなかったのかもしれません。


群れから外れて農道から近い場所で採餌していたオオヒシクイ5羽。
彼らは家族なのでしょうか。私を見て変な奴が来たぞ!というふうにお尻をふりふり遠ざかっていきました。


 
人間がオオヒシクイの個々を区別できるようになるには、かなりじっくり腰を据えた観察が必要でしょうが、来年はオオヒシクイの「個」にもう少し注目した観察をしてみたいと思いました。
「あそこにいる何羽かは家族だ!」くらいは分かるようになりたいな、と思うこの頃です。