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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

【日本のいのち、つないでいこう! COP10まで50日前】

2010年08月26日
洞爺湖
☆☆コブハクチョウ(ガンカモ科ハクチョウ属)☆☆

「ハクチョウが車に引かれそうなんです。助けてあげて下さい」
巡視をしていたら、観光客の人にそう頼まれた。

洞爺湖畔の路上をチョロチョロしているのはコブハクチョウ。ここ数年、明らかに見かける数が増えているし、観光ガイドブックやパンフレットなどでも洞爺湖を象徴する生き物であるかのように写真が使われることもある。




原産はヨーロッパ。1952年に都市公園などでの飼い鳥として日本に持ち込んでいる。野生個体の飛来という可能性もないわけではないが、洞爺湖では夏も冬も、年間を通して見かけるし、湖畔でしっかり営巣している。よそから飛んできた可能性は非常に低い。じゃあなぜ洞爺湖に? もちろん人間が持ち込んだもの。観光目的で。ここでは立派な(?)外来生物であり、北海道のブルーリスト(外来生物リスト)にもしっかり名を連ねている。

とはいえ、外来生物であることを知らず保護を求めるのは仕方ない気もする。あちこちの川や湖で、「今年もハクチョウが飛来しました」といった報道も多く(餌付けして定着させた場所もある)、人間はハクチョウを「優雅で美しい生き物」として見る。

指定された希少種以外の保護はしないことに加え、コブハクチョウが外来生物であることを伝えても「冷たいんですね」と返されることが多い。ハクチョウばかりが気になるのは上記のようなイメージのほか、大きくて白くて目立つからだろう。車に引かれて死んでいく生き物は、爬虫類から昆虫まで他にも山ほどいる。

「洞爺湖の中島に行くと可愛いシカに出会えます」
「野生のシカが住み、緑がいっぱいで自然豊かな中島」

本当にそれでいいの?

人間が観光目的で持ち込んだたった3頭が、繁殖と大量死を繰り返しながら現在約300頭にまで増え、島の生態系をメチャメチャに破壊している。草から幼木から首が届く範囲の木の葉まで、シカが食い尽くす。植物が根を張らないから土壌が乾燥化し、雨や雪解け水とともに土が流れ、既存の樹木はどんどん倒れる。常に台風直後のような不気味な景色。植生が普通ではないから当然そこに暮らす生き物にも影響が出る。




地元住民がもっと島のことを勉強し、問題の改善に取り組んで欲しい。環境問題を学ぶ場所として積極的に問題を発信し、人に見せ、そして私たち人間がいかに身勝手な生物であるかをおおいに学んでいただくべきだ。

「シカって可愛いね~」「シカに煎餅をあげてみませんか?」
いつまでもこれではいけないと思う。

夏になると増えるホタルの放流。どうしてこんなにも「ホタル、ホタル」と騒ぐのだろう。ただ単にこの昆虫の『光る』という特性が、日本人が好む「わび」とか「さび」にマッチするというだけの話ではないのか。現に光らないホタルだってたくさんいるのに、そっちには誰も目を向けない。地域の自然や環境を総合的に考えたうえで(地域ごとの個体差や他生物とのつながり、幼虫の餌となる貝を放流することの影響、そもそも現在ホタルが住める環境なのかどうか…など)、それでもホタルの放流に取り組んでいる方は気を悪くされるかも知れないが、奥の深い生き物どうしのつながりには目もくれず、光を放って飛んでいくホタルだけを眺め「綺麗だね~、いいことをしたね~」という自己満足の放流が多すぎる気がしてならない。

富良野岳にリシリヒナゲシ。樽前や羊蹄にも、あるはずのないコマクサが生えている。


様々な種類の生き物がいるということは環境が壊れていない証拠…、綺麗な花がたくさん咲いていれば自然豊か… 「生物多様性」とはそんな単純な話ではない。砂漠に比べ、動物や植物の種類が豊富な熱帯雨林のほうが自然豊か? そうじゃない。砂漠には砂漠の、気が遠くなるほどの時間をかけて築かれてきた砂漠ならではの生物多様性が存在する。 

もう少しだけ考えてみて下さい。それぞれの場所で、それぞれの環境に適応した生き物どうしの「つながり」があるということを。そしてその貴重な環境やつながりを破壊しているのが私たち人間の身勝手であり、それを修復できる可能性を持っているのもまた、私たち人間であるということを。