アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
利尻山の登山道補修 その2
2010年10月28日
稚内
早速、登山道補修シリーズの第2弾いきます!!
前回紹介したように、登山道を流れる水の勢いを「ステップ&プール工」で弱めようとも、水量が多すぎては、さすがに対処しきれません。そこで、登山道の整備・補修をする際は、「登山道外への排水」を一番先に考えなくてはならないのです。
といっても、具体的には、どのように排水するのでしょうか?今回は、利尻山で、最も多く採用している「導流水制工(どうりゅうすいせいこう)」と呼ばれる工法を紹介します!
【施工前】
↑施行前 100524勾配変化点
登山道の中央部に、溝が掘れているのが分かりますか?これが施行前の水の通り道です。
【施工後】
↑施工後 導流水制工
現地周辺の倒木を切って、「導流水制工」を作りました。出来上がりが自然に馴染んでいるので、写真では、分かりにくいかもしれませんが、よく見てください。写真手前から、中央までの間に4本の木材と、1つの「当て石(あていし)」を設置しています。
さて、施工後写真を見て、どちらの方向に水が流れていくのか、分かりますか?
正解は、写真左下方向です。
普通、排水場所を選ぶ際は、水が無理なく自然に登山道外に流れていくような地形を見つけます。写真の施工箇所は、山が写真左下方向に向かって傾斜していて、その傾斜に沿うように登山道がゆるやかにカーブしていますが、こういう所がよいのです。カーブを曲がろうとする遠心力を使って、ポーンと水を投げ出してしまうことができるからです。
とにかく、水の気持ちになって、「自分が水ならどこに流れていきたいのか?」、そんなことを考えながらの作業は楽しいものです。
【流水状況】
↑流水状況 導流水制工
水の流れは、ご覧の通りですが、この写真で注目して欲しいのは、「設置した木材に対して、直角方向に水が流れている」点です。(※手前から2本目の木材に注目)
コップからコップに水を移そうとするときに、コップを伝った水が、テーブルの上に滴り落ちてしまうことがありますよね。このように、水が物体に沿って流れようとする性質を生かしているのが、この工法の最大の特徴と言えます。
ただし施工時には、いくつか注意が必要です。
水は、物体に沿って流れるよりも、まず重力によって下に流れようとします。ですから、木材を、流したい方向に対して直角に配置するだけでなく、水の流れる道が一番低くなるように、5~15度程度の傾きをつけて設置します。こうすることによって、より水流の指向性が高まるのです。
それと、施行前に、排水先の状況もしっかりと確認しましょう。
脆弱な地質や植生がある高山帯などでは、あまり勢い良く排水してしまうと、現地の自然を壊してしまうからです。逆に、写真の施工箇所のような樹林帯では、排水した水が登山道に再流入しないか、笹薮に入って排水先の、先の先まで、地形を十分確認する必要があります。排水とともに流された枯れ葉が、排水先の笹の根に引っ掛かることで、登山道に水が跳ね返ってくることもあるので、こういう場所では、排水先の笹薮を少し刈るとともに、勢い良く水を流すことがポイントです。一般的には、斜面の傾斜がある程度きつい方が、勢い良く排水できるでしょう。
こまめに、できれば30~50mに一つの排水工を作るようにすれば(※勾配や地質などによって必要な間隔は大きく異なります。)、流水による登山道浸食は、かなり防ぐことが出来るはずです。
他にも、施工時に注意すべき点は色々とあるのですが、あまり書くと、難しくなってしまうので、今日はこの辺りでやめておきましょう。
でも面白いでしょう。水の動きに着目した、この工法。
何度も同じようなことを書きますが、登山道補修で対処すべきなのは、流水そのものではなく、浸食を起こす強い流れの勢いを逃がすことなのです。最近は減っているのかもしれませんが、コンクリート3面張りの水路のように、水に対してハードな対策をするばかりでは登山道に似合いません。
この工法は、柔よく剛を制すとでも言いましょうか。登山道にとてもよくマッチした工法だと思います。
・・しかし、登山道を掘るのは、水だけではありませんよね。次回は「人」、つまり登山者の動きを誘導する登山道補修について紹介したいと思いますので、お楽しみに!
※注意
上記の施工箇所は、国立公園特別保護地区で国有林内であることから、現地材の利用にあたっては、許可手続き等を行っています。
参考URL:AR日記「利尻山の登山道補修 その1」
http://hokkaido.env.go.jp/blog/2010/10/26/index.html
前回紹介したように、登山道を流れる水の勢いを「ステップ&プール工」で弱めようとも、水量が多すぎては、さすがに対処しきれません。そこで、登山道の整備・補修をする際は、「登山道外への排水」を一番先に考えなくてはならないのです。
といっても、具体的には、どのように排水するのでしょうか?今回は、利尻山で、最も多く採用している「導流水制工(どうりゅうすいせいこう)」と呼ばれる工法を紹介します!
【施工前】
↑施行前 100524勾配変化点
登山道の中央部に、溝が掘れているのが分かりますか?これが施行前の水の通り道です。
【施工後】
↑施工後 導流水制工
現地周辺の倒木を切って、「導流水制工」を作りました。出来上がりが自然に馴染んでいるので、写真では、分かりにくいかもしれませんが、よく見てください。写真手前から、中央までの間に4本の木材と、1つの「当て石(あていし)」を設置しています。
さて、施工後写真を見て、どちらの方向に水が流れていくのか、分かりますか?
正解は、写真左下方向です。
普通、排水場所を選ぶ際は、水が無理なく自然に登山道外に流れていくような地形を見つけます。写真の施工箇所は、山が写真左下方向に向かって傾斜していて、その傾斜に沿うように登山道がゆるやかにカーブしていますが、こういう所がよいのです。カーブを曲がろうとする遠心力を使って、ポーンと水を投げ出してしまうことができるからです。
とにかく、水の気持ちになって、「自分が水ならどこに流れていきたいのか?」、そんなことを考えながらの作業は楽しいものです。
【流水状況】
↑流水状況 導流水制工
水の流れは、ご覧の通りですが、この写真で注目して欲しいのは、「設置した木材に対して、直角方向に水が流れている」点です。(※手前から2本目の木材に注目)
コップからコップに水を移そうとするときに、コップを伝った水が、テーブルの上に滴り落ちてしまうことがありますよね。このように、水が物体に沿って流れようとする性質を生かしているのが、この工法の最大の特徴と言えます。
ただし施工時には、いくつか注意が必要です。
水は、物体に沿って流れるよりも、まず重力によって下に流れようとします。ですから、木材を、流したい方向に対して直角に配置するだけでなく、水の流れる道が一番低くなるように、5~15度程度の傾きをつけて設置します。こうすることによって、より水流の指向性が高まるのです。
それと、施行前に、排水先の状況もしっかりと確認しましょう。
脆弱な地質や植生がある高山帯などでは、あまり勢い良く排水してしまうと、現地の自然を壊してしまうからです。逆に、写真の施工箇所のような樹林帯では、排水した水が登山道に再流入しないか、笹薮に入って排水先の、先の先まで、地形を十分確認する必要があります。排水とともに流された枯れ葉が、排水先の笹の根に引っ掛かることで、登山道に水が跳ね返ってくることもあるので、こういう場所では、排水先の笹薮を少し刈るとともに、勢い良く水を流すことがポイントです。一般的には、斜面の傾斜がある程度きつい方が、勢い良く排水できるでしょう。
こまめに、できれば30~50mに一つの排水工を作るようにすれば(※勾配や地質などによって必要な間隔は大きく異なります。)、流水による登山道浸食は、かなり防ぐことが出来るはずです。
他にも、施工時に注意すべき点は色々とあるのですが、あまり書くと、難しくなってしまうので、今日はこの辺りでやめておきましょう。
でも面白いでしょう。水の動きに着目した、この工法。
何度も同じようなことを書きますが、登山道補修で対処すべきなのは、流水そのものではなく、浸食を起こす強い流れの勢いを逃がすことなのです。最近は減っているのかもしれませんが、コンクリート3面張りの水路のように、水に対してハードな対策をするばかりでは登山道に似合いません。
この工法は、柔よく剛を制すとでも言いましょうか。登山道にとてもよくマッチした工法だと思います。
・・しかし、登山道を掘るのは、水だけではありませんよね。次回は「人」、つまり登山者の動きを誘導する登山道補修について紹介したいと思いますので、お楽しみに!
※注意
上記の施工箇所は、国立公園特別保護地区で国有林内であることから、現地材の利用にあたっては、許可手続き等を行っています。
参考URL:AR日記「利尻山の登山道補修 その1」
http://hokkaido.env.go.jp/blog/2010/10/26/index.html