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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

豊富ビジターセンターへさようなら

2010年11月05日
稚内
 サロベツ湿原の公園利用施設として中心的な役割を担ってきたサロベツ原生花園自然教室は昭和61年に建造され、25年間の間、“豊富ビジターセンター”の愛称で親しまれてきました。けれど、この施設は湿原の上に盛土して建てられていることから毎年地盤沈下に悩まされ、さらには湿原にとって重要な地下水への悪影響が懸念され、今年度のシーズン後には取り壊され、跡地をもとの植生に回復する自然再生事業が行われることになっています。

 私を含め豊富ビジターセンターに親しんだ多くの人たちは、最後の年だという哀愁のようなものを感じながらこの一年を過ごしましたが、ビジターセンターや木道から眺める湿原や空や利尻山は今年もたくさんのきれいな表情を見せてくれました。

 最後の秋。9月末には、夏の間に豊富ビジターセンターでサブレンジャーとして活動した大学生たちが
「サロベツの真ん中の音楽会~さよならビジターセンター 今までありがとう~」というタイトルでビジターセンターを会場とした音楽祭を企画しました。ビジターセンターに親しんだ多くの人たちが集まって楽器の演奏や歌を聴き、豊富ビジターセンターでの思い出を語りながら、ひとしきり賑やかな秋の夜を過ごしました。



豊富ビジターセンター最後の記念イベントとして開催された音楽会


 そして10月に入り、豊富ビジターセンターの倉庫からは徐々に荷物が運び出されていきました。
10月31日。開館最後の日はとてもよく晴れた日で湿原は黄金色に染まっていました。まるで「風の谷のナウシカ」が最後の場面で歩く、金色の草原のようでした。人の出入りがなくなった午後から展示物が徐徐に取り外され、梱包されていきました。事務用品や小物類も段ボールにまとめられ、運び出しの準備がされていきます。展示物が取り外されたビジターセンターの壁は長い年月の末に色あせていましたが、優しい黄昏時の光に照らされ、木の温かみを感じさせる壁でした。



ビジターセンター最後の秋 ~黄金色の草原~



 11月1日。ビジターセンター引っ越しの日。関係者が集まり、大小様々な備品類を運び出しました。
これらの備品は新設されたサロベツ湿原センターで利用されたり、持ち主に返却されたりします。そして運ばれなかった古い棚や椅子、剥製類はビジターセンターとともにその役目を終えます。部屋の隅に残された色あせた子熊の剥製の瞳がうるんで別れを惜しんでいるように見えました。

 けれども、豊富ビジターセンターに親しんだ地域の人たち、ここで活動したサブレンジャーを先輩に持つ後輩サブレンジャーたちは、ここでの経験をもとに新設されたサロベツ湿原センターの機能をさらに充実させていくことと思います。これからサロベツ湿原センターの歴史が始まるのです。私はアクティブレンジャーという名の“旅人”ですからいずれサロベツを離れ、新しい場所へと旅立ちますが、またいつかサロベツを訪れた時に、サロベツ湿原センターを拠点にたくさんの人たちが生き生きと活動している様子を見られるのを楽しみにしています。

 心に刻まれた豊富ビジターセンターの思い出とともにこれから多くの人たちが出発することでしょう!ここを拠点に沢山の人たちとつながりを持てたことをとても幸せに思います。
さようなら。そして、ありがとう。ビジターセンター。

※サロベツ原生花園の木道は西側の半分を調査用木道として残し、西側は撤去されます。調査用なので一般の方は入れなくなります。

※豊富町円山に新設されたサロベツ湿原センターは豊富ビジターセンター跡地前の道路を豊富市街地側に1.5キロのところにあります。稚内の歴代自然保護官が心血を注いだセンターです。
来年4月28日(木)にオープン予定になっております。皆さま、是非お越し下さい。


建設中のサロベツ湿原センター ~来年4月28日(木)オープン予定です~