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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

バックカントリーブームと問題点

2010年12月14日
東川
近年のスキー、スノーボードの滑走性能の向上に伴って、スキー場だけではなく整備されていない山を滑る人が年々増えており、大雪山周辺においてもその雪質の良さで年々入込者が増えてバックカントリー銀座になりつつあるようです。
確かに管理されたスキー場を滑るのとは違い、人が入り込まない山の斜面に自分だけのトラックを刻むのは何とも言えない楽しみがあります。
 ただ、大雪山には夏以上に冬は厳しい気象条件が待ち構えています。辺りを静寂が包むエゾマツに囲まれた森、絶えず強風が吹き付ける高山帯と、数少ない晴天の日を除いては常に道迷いや場所によっては雪崩などの危険が待ち構えており、そこに入り込めるのはそれ相当のスキルを持った選ばれし人間だけ。
ですが、人が多く入りこむようになり様々な問題点も最近は増えてきました。


これはスキー等の滑走により傷ついてしまったハイマツなど。風の強い高山帯などでは雪が飛ばされてしまい、高山植物が真冬でもむき出しになっていることもしばしばです。スキーの滑走面も痛いですが、植物はもっと痛いでしょう。ダメージを受けた高山植物は簡単には回復しません。植物の見え隠れしているような所では滑走を自粛していただき、また春スキーの季節においても滑れる斜面までの雪が無くなった時点で、山スキー(もちろんスノーボードも)の利用は控えて頂く。これはバックカントリーのマナーではないでしょうか?

 旭岳スキーコースではスキー、スノーボード滑走に伴う高山植物の損傷防止ために毎年積雪量調査を行った上でコースオープンとしています。一定の積雪量の基準値の取り決めを行っており、それに達するまではスキー等の滑走道具をロープウェイへの持ち込みを控えて頂いています。

測定の基準箇所を設けて、雪崩の際に使うゾンデ棒を使って積雪量を測定します。今年は一度雨が降ってしまい、雪が固くなってしまっている所もあって、なかなかゾンデ棒が刺さらず測定が非常に困難な箇所もありました。

 測定の結果、深い所では積雪は2m近くあり、植生にも影響はないと思われることからスキーコースオープンとなりました。
 ただ、やはりここは寒い!本日は視界も良好でしたが、姿見駅周辺のこの時期の平均気温は-15℃(厳冬期は-25℃)、平均風速10m以上のこの地ではまさに冬山の厳しさを実感する所です。

 バックカントリーと言えばここ旭岳周辺もロープウェイを利用して気軽に深雪を楽しめる事で国内はもちろん、海外からの利用者も年々増えて来ている所です。
 それに併せて、冬山装備を持たないスキーヤー等による安易なケガ、遭難なども後を絶たないのもまた事実です。
「あまり遠くまではいかないから」「みんなが行っている所だから安心」「昔は皆ここを滑っていた」良く聞く言葉です。が、スキーコースを離れ、山に一歩踏み入れればそこは未知の世界、その場所では今まで起こった事のない雪崩も条件次第ではいつ襲ってくるかもしれません。もちろん山の天候は一変します。くれぐれも自分の技術、装備などにあった行動を心掛けることが重要ではないでしょうか?

 ただ危険も隣り合わせですが、冬山には夏山には無い魅力があるのも確かです。夏山以上に自然に優しく、自分には厳しくという気持ちでバックカントリーも楽しみたいものです。

北海道最高峰旭岳をバックにシュプールを刻む。ただ、冬では大雪山がこのような姿を見せてくれる事は稀です。厳しい冬山であることを十分認識の上で行動する事が大切でしょう。