北海道のアイコン

北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

天然記念物と外来魚

2011年01月06日
阿寒湖
みなさん、明けましておめでとうございます。昨年から阿寒湖自然保護官事務所でアクティブレンジャーをしている北川栄司です。はじめての雪国暮らしで右往左往しながらの活動ですが、今後とも宜しくお願いします。

さて、阿寒国立公園内の雌阿寒岳の麓、林道を20分程歩いた森の中にオンネトー湯の滝と呼ばれる観光スポットがあります。
ここでは、雌阿寒岳から湧出している温泉が滝となって流れている光景が見られますが、この温泉の中に生息しているマンガン酸化細菌によって、天然のマンガン生成現象が地表面で見られる希少な個所として、国の天然記念物に指定されている所でもあります。
ところがこの湯の滝に、近年外来魚が生息しており問題となっています。
外来種の問題はいろいろありますが、ここでは彼らが餌として温泉内の藻類を食べていることが挙げられます。
実は、マンガン酸化細菌は藻類上に共生しており、藻類が食べられてしまうとマンガン生成現象が行われなくなってしまうのです。
数年前から、地元の足寄町と環境省がこの外来魚駆除に取り組んでいますが、根絶には至っていません。



生息池の水抜き駆除が効果的ですが、滝からの流入に加え池内からも温泉が湧出しており、電気も通っていない山の中にあるため、長期間干し上げる事ができません。
また、冬場は林道までの道路も冬季閉鎖となるため駆除活動が行えず、夏場の駆除を生き延びた個体が冬から春にかけて数を増やし、数千匹以上の駆除を毎年行っても、根絶できない結果となっています。

そこで今後の対策調査の一環として、先日駆除を行った際、外来魚の生体捕獲を行いました。
湯の滝に生息する外来魚は2種類、グッピーとナイルティラピアです。





グッピーはご存知の方が多いと思いますが、ティラピアはアフリカ・中近東原産の淡水魚で、大きなものでは30cmを超える個体もいます。
水温による活動状況の違い等を観察する為、暫くは保護官事務所でお付き合いです。

ですが、マンガン酸化細菌を守る為に魚を駆除していくということは、つまり多くの魚の命を奪う、ということになります。
ティラピアは本来食用利用できますが、マンガン類の重金属を取り込んでいる湯の滝の魚は、それもできません。
湯の滝の外来魚は人為的に持ち込まれたと思われますが、本来の生息地や水槽の中にいれば駆除される必要のない命が、毎年失われています。
外来種を野外に放した少数の方たちの行いによって、現在多くの方たちが、労力・資金を使って命を奪う駆除活動に取り組まなければなりません。
みなさん、命を飼い育てることについて、もう一度考えてみてください。