アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
利尻山の登山道補修 その5
2011年03月04日
稚内
これまでこのシリーズでは、なるべく他の山でも参考になるような工法を紹介しようと思って、一般的な地質における、一般的な登山道の補修工法を紹介してきました。
しかし、山には場所ごとに色んな環境があって、その土地独特の問題を抱えているケースも少なくありません。利尻山の山頂部もその一つ。
そこで、今回からは、利尻山の山頂部を例に、固有の条件下における登山道補修の試行錯誤の過程を紹介していきたいと思います。
まずは写真をご覧いただきましょう。
写真:通称3mスリット(利尻山山頂付近)
人の背丈をはるかに超える土壌侵食が起こっているのは、利尻山の山頂に程近い場所。赤茶色の「スコリア」と呼ばれる火山噴出物が、厚く降り積もって地層を構成しているのが分かります。
利尻山における独特の問題というのは、まさにこのスコリアの特徴に起因するものでして、特徴とは、ズバリ「土層に締まりがなく、崩れやすい」ことにあります。・・と言ってもピンと来ないですよね。難しいことを書くより、こちらもまず、その特徴によって引き起こされた、ある現象の写真を見ていただきましょう。
写真:大雨直後→5日後の経過写真(利尻山山頂付近,2006)
※9月2日の雨量:19ミリ/1時関最大、50ミリ/日(元泊アメダス)
※9月3日の雨量:15ミリ/1時関最大、16ミリ/日(元泊アメダス)
この変化の速さこそが、スコリアの土壌固結力の弱さを物語っています。
大雨の後に、深さ30センチほどのガリー(溝)が発生しているのに、周りや、上部から次々と日々崩れてくるスコリアが供給されてくるので、5日後には、何事もなかったかのようにガリーが埋め立てられてしまっているのです。
マジックを見ているようですよね。
でも、これは紛れもない事実でして、遅くとも90年代以降、利尻山の山頂部で浸食と堆積が繰り返されてきたと推測されています。このうち、流下してきた土砂が堆積する緩斜面では、登山道脇の植生へのスコリア流入が進行することで裸地が拡大し、3mスリットのような急斜面では、堆積より侵食のスピードの方が圧倒的に速いので、削られていく一方になり、3mスリットのような姿になり、今の利尻山の姿が出来てしまったものと考えられます。
ただ、実は過去の記録写真というのが意外(?)にも少なく、いつ頃、どこから、どれくらいのペースで登山道侵食が進んだのかはよく分かっていません。風景や山頂での記念写真を撮る人は多くても、登山道の写真を記録している人なんて、あまりいませんからね。
そんな中、1991に撮影された写真が事務所に残されていたので、これを、この場所で補修を始める前の2007年の写真と比べてみました。
写真:急速な登山道侵食の進行(利尻山山頂付近1991年→2007年)
これが約15年の間に起きた変化です。
写真に写る人の背丈から類推して、少なめに見ても、深さ・路幅共に1m程度侵食されているのが分かります。写真に写っている区間で、およそ30mの距離がありますから、単純計算した場合、この場所だけでも、30立方米の土砂が流出したことになります。(※あくまで、机上の計算なので誤解のないように!)
さて、とにかく崩れやすい(動きやすい)土層だということだけは分かっていただけたと思いますが、もう一度、スコリアの特徴について振り返ってみたいと思います。
スコリアは、軽石と似てガサガサした触感を持つ礫で、同じく軽石状にブツブツと穴があいています。これはマグマが噴出する際に、中の水分などが発泡したため。スコリア、あるいはその降り積もり方にも色々ありますが、利尻山の山頂付近のスコリア層では、このスコリアのひと粒ひと粒が、非常にルーズな状態でグズグズに積み重なっています。
ブナ森のような樹林下の土壌に触れると、湿っていて、手でこねても粘り気があると思いますが、このスコリア層には、粘り気や水分がほとんど無いのが特徴。先の「固結力がない」という言葉を、「すぐバラバラになる」と言い換えた方が分かりやすいでしょうか。
水に浸す前のお米が積み重なっているようでもあります。
こういった地層なので、はじめの3mスリットの写真で見るように、壁に手を触れると、それだけでポロポロとスコリアの粒が剥がれ落ちてしますのです。
とは言っても、足元にスコリアが積もっていると、ひどく歩きにくく、それこそ3歩上がって2歩下がる状態になってしまうので、スリップしやすく、登山者としては、その結果、さらに歩きにくくなるのが分かっていながら、スコリアにも、すがりたくなってしまうのでしょう。
しかし、何とか悪循環を断ち切らなくてはいけない。
この思いから、ようやく、2005年度から利尻山山頂部における登山道補修の取り組みが始まりました。
いつもなら、すぐに施工事例の写真をお見せして、工法の目的と手段を紹介するところですが、今日は説明ばかりになってしまいスミマセン。次回からは、いよいよ利尻山山頂部における、利尻山固有の事例に対する処方を書いていきたいと思いますが、その前に、まずその特殊性について理解を頂きたいと思い、長~~い説明をしてしまった次第です。
どうか懲りずに次回以降も読んで下さい!!
しかし、山には場所ごとに色んな環境があって、その土地独特の問題を抱えているケースも少なくありません。利尻山の山頂部もその一つ。
そこで、今回からは、利尻山の山頂部を例に、固有の条件下における登山道補修の試行錯誤の過程を紹介していきたいと思います。
まずは写真をご覧いただきましょう。
写真:通称3mスリット(利尻山山頂付近)
人の背丈をはるかに超える土壌侵食が起こっているのは、利尻山の山頂に程近い場所。赤茶色の「スコリア」と呼ばれる火山噴出物が、厚く降り積もって地層を構成しているのが分かります。
利尻山における独特の問題というのは、まさにこのスコリアの特徴に起因するものでして、特徴とは、ズバリ「土層に締まりがなく、崩れやすい」ことにあります。・・と言ってもピンと来ないですよね。難しいことを書くより、こちらもまず、その特徴によって引き起こされた、ある現象の写真を見ていただきましょう。
写真:大雨直後→5日後の経過写真(利尻山山頂付近,2006)
※9月2日の雨量:19ミリ/1時関最大、50ミリ/日(元泊アメダス)
※9月3日の雨量:15ミリ/1時関最大、16ミリ/日(元泊アメダス)
この変化の速さこそが、スコリアの土壌固結力の弱さを物語っています。
大雨の後に、深さ30センチほどのガリー(溝)が発生しているのに、周りや、上部から次々と日々崩れてくるスコリアが供給されてくるので、5日後には、何事もなかったかのようにガリーが埋め立てられてしまっているのです。
マジックを見ているようですよね。
でも、これは紛れもない事実でして、遅くとも90年代以降、利尻山の山頂部で浸食と堆積が繰り返されてきたと推測されています。このうち、流下してきた土砂が堆積する緩斜面では、登山道脇の植生へのスコリア流入が進行することで裸地が拡大し、3mスリットのような急斜面では、堆積より侵食のスピードの方が圧倒的に速いので、削られていく一方になり、3mスリットのような姿になり、今の利尻山の姿が出来てしまったものと考えられます。
ただ、実は過去の記録写真というのが意外(?)にも少なく、いつ頃、どこから、どれくらいのペースで登山道侵食が進んだのかはよく分かっていません。風景や山頂での記念写真を撮る人は多くても、登山道の写真を記録している人なんて、あまりいませんからね。
そんな中、1991に撮影された写真が事務所に残されていたので、これを、この場所で補修を始める前の2007年の写真と比べてみました。
写真:急速な登山道侵食の進行(利尻山山頂付近1991年→2007年)
これが約15年の間に起きた変化です。
写真に写る人の背丈から類推して、少なめに見ても、深さ・路幅共に1m程度侵食されているのが分かります。写真に写っている区間で、およそ30mの距離がありますから、単純計算した場合、この場所だけでも、30立方米の土砂が流出したことになります。(※あくまで、机上の計算なので誤解のないように!)
さて、とにかく崩れやすい(動きやすい)土層だということだけは分かっていただけたと思いますが、もう一度、スコリアの特徴について振り返ってみたいと思います。
スコリアは、軽石と似てガサガサした触感を持つ礫で、同じく軽石状にブツブツと穴があいています。これはマグマが噴出する際に、中の水分などが発泡したため。スコリア、あるいはその降り積もり方にも色々ありますが、利尻山の山頂付近のスコリア層では、このスコリアのひと粒ひと粒が、非常にルーズな状態でグズグズに積み重なっています。
ブナ森のような樹林下の土壌に触れると、湿っていて、手でこねても粘り気があると思いますが、このスコリア層には、粘り気や水分がほとんど無いのが特徴。先の「固結力がない」という言葉を、「すぐバラバラになる」と言い換えた方が分かりやすいでしょうか。
水に浸す前のお米が積み重なっているようでもあります。
こういった地層なので、はじめの3mスリットの写真で見るように、壁に手を触れると、それだけでポロポロとスコリアの粒が剥がれ落ちてしますのです。
とは言っても、足元にスコリアが積もっていると、ひどく歩きにくく、それこそ3歩上がって2歩下がる状態になってしまうので、スリップしやすく、登山者としては、その結果、さらに歩きにくくなるのが分かっていながら、スコリアにも、すがりたくなってしまうのでしょう。
しかし、何とか悪循環を断ち切らなくてはいけない。
この思いから、ようやく、2005年度から利尻山山頂部における登山道補修の取り組みが始まりました。
いつもなら、すぐに施工事例の写真をお見せして、工法の目的と手段を紹介するところですが、今日は説明ばかりになってしまいスミマセン。次回からは、いよいよ利尻山山頂部における、利尻山固有の事例に対する処方を書いていきたいと思いますが、その前に、まずその特殊性について理解を頂きたいと思い、長~~い説明をしてしまった次第です。
どうか懲りずに次回以降も読んで下さい!!