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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

浜辺の植物たち

2011年07月26日
稚内
 皆さんの中には「礼文島=高山植物の楽園」というイメージをお持ちの方も多いと思います。もちろん礼文島は海抜0mから高山植物が咲くというまれにみる特殊性を有しているのですが、実は浜辺を主な生息地とする海岸性の植物もたくさんあります。今回は一見見落としてしまいがちな海岸性の植物を取り上げてみました。
 礼文島の西海岸は海蝕崖と呼ばれる海面からそそり立つような断崖絶壁が続いており、海岸線の多くの場所は人が立ち入ることのできない文字通りの秘境なのですが、北部の鉄府(てっぷ)海岸や8時間コース終盤のアナマ、南部の礼文滝など一部通行可能な場所もあり、そこでは砂地や岩場に生息する海岸性の植物を見ることができます。現在、それらの場所では海岸性の植物が見ごろを迎えています。中でも西海岸を歩いていて最も目を引くのが、赤色の大きな花をつけるバラ科の低木ハマナスです。実はこのハマナス、花は美しいのですが、枝には無数の鋭いとげを隠し持っており、触るとものの見事に返り討ちにあいます。やはり美しいものにはとげがあるということでしょうか?



鋭いとげを隠し持つハマナス(7/21 ゴロタ岬付近)

 アナマ周辺、礼文滝、元地付近では青紫色の花と緑白色の葉が美しいハマベンケイソウ(ムラサキ科)、黄緑色でつやのある葉が特徴的なハマハコベ(ナデシコ科)、全体を白い毛でおおわれたシロヨモギ(キク科)、ピンク色で5角形の花を咲かせるハマヒルガオ(ヒルガオ科)などが見られます。また、海岸付近にはヨツバシオガマ(ゴマノハグサ科 礼文のものはサイズが大きく、レブンシオガマとも呼ばれます)やカラフトゲンゲ(マメ科)、チシマキンレイカ(オミナエシ科)など高山性の植物も生息しており、海岸性の植物と高山性の植物が並んで咲く不思議な光景を見ることができます。これらの花はどれも砂地や海岸沿いの岩場など条件が厳しい場所に生息し、山に咲く花とは一味違った力強さを感じさせてくれます。



上段左:ハマベンケイソウ(7/21 アナマ付近) 右:ハマハコベ(7/20 礼文滝)
下段左:シロヨモギ(7/20 礼文滝) 右:ハマヒルガオ(2010/7/8 鉄府)
 
 礼文に咲く花のうち、高山植物は冬の寒さに耐える力強さを持つ一方で夏に花を咲かせる姿は可憐で繊細さを感じますが、浜辺の植物は砂地や岩場で潮風に耐えながら生きている姿そのままのたくましさと力強さがみなぎっているように感じます。そしてその両者が同じ場所に咲くという不思議。これぞ、礼文島の奥深い魅力だと私は思うのです。



左:カラフトゲンゲ(7/13) 右:チシマキンレイカ(7/13)

 皆さんも礼文島の西海岸を散策するときは高山植物とともに、浜辺の植物にも注目してみてはいかがでしょうか?