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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

旭岳天女ヶ原湿原(自然観察講座)

2011年08月17日
東川
 北海道の最高峰でもあり、大雪山の中でも特に人気のある旭岳は夏山シーズンになると多くの登山者で時にはちょっとした「登山渋滞」になることもあります。
 そのごった返す姿見駅から旭岳山頂までとはうって変わって、姿見駅から下の天女ヶ原湿原の登山道はいつものことながら、静かな山歩きが楽しめる所です。
 あまりよく知られていないコースなのですが、途中の天女ヶ原湿原では夏は多くの湿原植物が観察出来て、野鳥観察にも適した場所です。もちろん秋には紅葉観賞にも素晴らしい場所なのです。
 8月10日(水)にもっとここの良さを知ってもらおうと、東川町との共催で自然観察講座を旭岳天女ヶ原湿原で行いました。
参加者のほとんどは地元東川町にお住まいで、旭岳も良く訪れている方でしたが、ゆっくりこの場所を訪れるのは初めてという方がやはり多かったようです。

 この湿原はいわゆる高層湿原と呼ばれるもので、溶岩台地上に堆積した火山灰によって不透水層という水を通しにくい地層となった所にミズゴケ等が侵入して、分解されない死骸が徐々に積み重なり長い年月をかけて湿原が発達してきました。その中でも成長が早い所があれば遅い所があり、成長の遅い所では水がたまって「池塘(ちとう)」と呼ばれる湿原の水たまりが形成され、ミズゴケと水位の関連で循環的に繰り返され、やがては泥炭の厚く堆積した湿原へ発達していくのです。


第1天女ヶ原(1合目)にて休憩中。
前日までの晴天から一転、雨上がりの中の湿原散策となりましたが、このしっとりと濡れた湿原がまたいいんです。
さらに湿原の周りにあるエゾマツ等がここの独特の美しさを引き立たせています。


8月の見どころは何と言ってもタチギボウシでしょうか。今年は開花が若干遅れているようなので、お盆明けでもまだまだ見られそうです。

 しかしこの湿原も乾燥化が進んで笹が進出している事や、登山道を利用する人が少なくなっていくことに比例して登山道の維持管理が後手に回り、歩きにくくなった道はさらに登山者が少なくなるという悪循環について触れ、登山道を適度に利用する事の必要性と登山道の維持管理の重要さなどについて学んでいただいた本日の観察講座でした。

 本日もう一つ、皆さんが興味津々(しんしん)だったのが「コマチグモ」でした。
 コマチグモは笹やヨシ等の葉を巻いて巣穴を作り、北海道にはカバキコマチグモ、ヤマトコマチグモ、アカスジコマチグモの3種類が生息しています。雌は子を巣の中で産卵し、生まれた子供は1回目の脱皮が終わると母グモの体を食べてしまうというなんとも「母性愛」という言葉では表せないような行動をとるのが特徴です。個人的には「子待ちグモ」と解釈していたのですが、どうやら美しい体をしていることから小野小町にあやかり「小町グモ」という意味で名付けられたようです。クモ嫌いの人からしてみれば「美しいクモ」といわれてもあまりピンとこないとは思いますが。


このようにクルクルと葉がちまきのように巻かれているのが特徴。中を開けるとお母さんグモが卵を大事そうに守っています。が、毒性の強いクモもいるので、下手に触らない方が良いようです。

 この日は一日中悪天候の予想だったこともあり、途中出会った人も全くおらず、本当に静かな時間が過ごせました。姿見の池から旭岳山頂を目指すのも楽しいですが、たまにはちょっと思考を変えてここ天女ヶ原湿原を歩いてみませんか?
 ただし、周辺はヒグマの痕跡が頻繁に目撃されている所ですので、早朝や夕方の入山(特に単独行動)は避けた方が良いでしょう。
 また、湿原の破壊は泥炭の踏みつけからも発生しますので、木道を外れて湿原内に立ち入ることのないようにお願いします。