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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

礼文岳登山道

2011年08月18日
稚内
 礼文島の地形は周氷河地形というなだらかな丘陵地帯が続くことが特徴としてあげられます。そのため、島の最高峰も礼文岳の490mとあまり高くなく、お隣にそびえる利尻山(標高1721m)とは対照的です。この礼文島最高峰礼文岳へは登山道が整備されており、桃岩歩道や礼文林道と比べると花の数は少ないものの、海抜0mの海岸から山頂まで高度によって様々な変化が楽しめるコースとなっています。今回は礼文島の中でも他のコースとは一味違った魅力のある礼文岳登山道をご紹介します。
 礼文岳の登山口はフェリーターミナルのある香深から北に向かって海岸線を15kmほど行った内路(ないろ)地区にあります。登山口の目の前は海岸なので、ほぼ海抜0m地点から登ることになります。登り始めはつづら折れの道が続き、ここでは礼文島の他の地域でも見ることができるヨツバヒヨドリ(キク科)、カンチコウゾリナ(キク科)、キンミズヒキ(バラ科)、ハナイカリ(リンドウ科)、ネジバナ(ラン科)などの花が見ごろを迎えています。



上段左:ヨツバヒヨドリ 右:キンミズヒキ
下段左:ハナイカリ 右:ネジバナ(8/11)

 つづら折れの坂道を抜けるとトドマツ(マツ科)やダケカンバ(カバノキ科)などの樹林帯に入ります。礼文では珍しい森の中の道は傾斜が比較的緩やかなことに加えて夏でも涼しくとても快適なのですが、虻(あぶ)などの虫が大挙して襲ってくるので、ちょっとでも立ち止ると一瞬のうちに虫に囲まれてしまい、ゆっくり写真を撮るのも一苦労です。しかし、森の中では小さな小さな野生のランであるアリドオシラン(ラン科)、アリドオシランと同じく小さな白い花のウメガサソウ(イチヤクソウ科)、黄色い花がつり下がっているようなキツリフネ(ツリフネソウ科)、細長い柄の先に散形に白い花をつけるイケマ(ガガイモ科)など桃岩周辺の風衝草原とは異なる植生がみられます。森の中では上に挙げた花のほかにも小さな花、目立たない花が多く咲いていますので、じっくり観察しながら歩いていると思わぬ発見があるかもしれません。



左:涼しい森の中の道
右上段:アリドオシラン 下段:イケマ(8/11)

 森の中の道を1時間半ほど登っていくと突然森が途切れ視界が開けます。このあたりが森林限界でここから先はハイマツ(マツ科)などが生い茂る高山帯になります。そして森林限界から少し登ると第一のピーク(通称偽ピーク)に到達し、ここではじめて礼文岳山頂の全容を一望することができます。ここから少し下って山頂を目指すのですが、この辺りの道はレキ質で浮石が多くなっているので、特に下るときは浮石に乗って転倒しないよう注意が必要です。そして第一のピークから山頂まで15分ほどやや急な上り坂を登るといよいよ礼文岳山頂です。360度遮るもののない山頂からは礼文島全域だけでなく、海の向こうにそびえる利尻山や空気が澄んでいるときはサハリンまで見渡すことができます。この日はサハリンこそ見えなかったものの、利尻山の美しい姿を望むことができました。山頂付近では数が少なくあまり目立たないものの、エゾムカシヨモギ(キク科)、ヤマハハコ(キク科)、チシマワレモコウ(バラ科)などの花が一番美しい時期を迎えていました。



上段左:礼文岳山頂の看板 右:山頂から望む利尻山
下段左:エゾムカシヨモギ 右:ヤマハハコ(8/11)

※登山の際の注意事項
 
 礼文岳の標高490mはお隣の利尻山と比較すると相当低いように感じますが、山頂付近で森林限界が見られるように高山帯の気象条件は厳しいです。また、山頂付近では360度遮るものがないため、非常に風が強く、時には吹き飛ばされそうなほどの強風が吹くこともあります。ふもとは無風で暑くても、山頂に近付くにつれて風が強くなり、気温も下がるということが多いので、登山の際はレインウエアに加えて長袖のシャツを持参するようにしてください。長袖を着ていると森の中で虫の襲来にあった時にも役立ちます。(さらに虫よけグッズがあると便利です!)また、標高490mとはいえ、山頂への道は登山道であり、登りはおよそ2時間、下りはおよそ1時間半の行程になりますので、決して楽なコースではありません。加えてところどころ滑りやすい場所やぬかるんで歩きにくい場所も見受けられます。とはいえ、準備さえしっかりしていれば、半日で往復できる行程ですので、ぜひ皆さんにもトライしていただきたいと思います。しっかりとした装備で天候を見極めながら、ご自分や同行者の体力にあった登山を心掛け、山頂からの絶景を楽しみましょう。