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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

ウトナイ湖野生鳥獣保護センターでアフリカゾウについて学ぶ

2012年05月22日
苫小牧
こんにちは。 先日の日食はなかなか迫力がありましたね。日食中は本当に肌寒くなり改めて太陽のありがたさを実感しました。

さて、先週の19日(土)にウトナイ湖野生鳥獣保護センターでアフリカゾウの研究者、中村千秋さんによる講演会が有り参加してきました。
講師:中村千秋さん(アフリカ在住)
略歴:アメリカのミシガン州立大学院を卒業後、アフリカのケニヤ ツァボ・イースト国立公園にて、アフリカゾウ国際保護基金(AEF –I)の客員研究員として勤務。また、ケニヤに住む地域住民のお母さん達の生活自立プロジェクト(識字教室、洋裁教室を開催。洋裁を習得しシャツやエプロンを作って売っている。)や、現地の子供達に対してのエコツアーの開催(自分達の住んでいる環境の素晴らしさを知ってもらう。)を通し、現地でのボランティア活動を行っている。2008年にNPOサラマンドフの会を発足し日本でも普及啓発に精力的に活動中。


力強さと繊細さが共存する“アフリカ”を納めたポストカード。3枚で500円で購入しました。収益はすべて、中村千秋さんがそのままケニヤに届けます。


現在、アフリカではアフリカゾウの個体数が1980年代からの乱獲により激減し、国際的な絶滅危惧種とされています。
一見アフリカと聞くと野生動物の宝庫や楽園といったイメージですが、言い換えるなら地球上ではもうそこにしか野生動物が住めないと言えるのではないでしょうか。しかし悲しい事に、そんな貴重なアフリカの大地でも未だに密猟者が後を絶たず、多くの野生動物が命を奪われています。アフリカゾウもそんな悲しい被害者なのです。密猟者達は毒矢や銃でアフリカゾウを殺し、牙を切り取って密輸会社に売り渡すのです。

では、ここで皆さんに質問です。
ゾウは一体誰に殺されているのでしょうか?


その答えの前に、密猟者の背景を考えてみましょう。
第一に、密猟者の多くは隣の国のソマリアからやって来ると言われています。
「ソマリア」 その名前を聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
紛争、貧困、女性差別。その中でも貧困が密猟者を作っている要因なのです。
彼らは貧困から抜け出すために、命がけでお金を得ようとします。
象牙(ゾウゲ)は格好の標的というわけです。
貧困に陥った人が絶滅の危機にいるゾウを殺し、その牙を仲介屋(密輸会社)に売り渡し生活費を得る。ケニアの国立公園では、密猟者を見つけた場合その場でレンジャーが射殺しても良いということになっており、密猟者は生死をかけてゾウの牙を捕るのです。

さて、その牙はどこへ行くのかというと最も大口の輸入先は私たちの国、日本や中国などです。
象牙では様々な商品が作られ、高級品として一部の人の手に高値で渡っています。

もう先ほどの質問の答えが分かったかもしれません。

ゾウを殺しているのは誰か。



私が伝えたいことは、何気ない私たちの生活が思わぬ場所で大きな影響を与えていること、私たちみんながその影響を自覚し責任を持って生きていくべきではないかということです。象牙商品を手に取った人が、自らゾウを殺したわけではもちろんありません。それに誰もアフリカゾウが絶滅すれば良いなんて思ってはいません。
しかし、私たちが普通に生活すること自体が=他の生き物の命を頂いて成り立っているのだ。ということを忘れて欲しく無いのです。
そして、可能ならばこのアフリカゾウのように不幸な、一方的で理不尽な命の犠牲を少しでも減らせる選択を皆さんにして頂きたいと強く願っています。
もちろん私にも足りないことは沢山あります。

まずは日本から遠くの、でも同じ地球という家に住んでいる仲間の事を知って下さい。
知ることから、すべては始まります。

知った後には、考えてみて下さい。

今あなたが何気なく使っている物、食べているものは、いったいどこから来たのだろうかということを。


サラマンドフの会:スワヒリ語でサラマは平和、ンドフはゾウを意味します。
ゾウの平和を願ってネーミングされました。
少しでも興味のあるかたはウトナイ湖野生鳥獣保護センターの山田獣師氏へお問い合わせ頂くか、またはhttp://www.salamandovusociety.org のホームページをご覧下さい。

また、今年の8月20日~8月27日、8月27日~9月3日にケニヤ・エコツアーと題して、ケニヤの野生動物や地域住民の支援活動などについて学べるツアーも開催されることになっておりますので、そちらも合わせてチェックしてみて下さい。




ウトナイ湖は国指定鳥獣保護区であるというだけではなく、世界的にも貴重な渡り鳥の中継地であり、ラムサール条約に登録された国際的に重要な湿地でもあります。当センターではウトナイ湖のみならず、世界の自然環境にも目を向けていただけるようなこうした勉強会をこれからも続けていきたいと考えています。