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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

霧の6月

2012年06月20日
稚内
 6月の礼文島の風物詩と言えば、島を代表する花レブンアツモリソウをはじめとする高山植物とウニなどの魚介類がすぐに思いつきますが、もう一つ忘れてはいけないものがあります。それはこの時期島を訪れる人の多くが遭遇する「霧」です。
 4月と5月の礼文島は比較的晴れる日が多いのですが、6月は霧が発生する日が多く、晴天率が低くなります。この霧の発生にはオホーツク海を中心に発達し、冷たく湿った北東風をもたらすオホーツク海高気圧が影響していて、この高気圧の勢力が強くなると日本海側は冷夏になると言われています。


上段:晴天時(6/2)と霧発生時(6/5)の桃岩展望台 
下段:晴天時(6/2)と霧発生時(6/5)の桃岩歩道

 6月5日の礼文島は朝から濃い霧に覆われていました。午後桃岩展望台に登るといつもなら間近に見える桃岩が、海からたち登ってくる霧によって覆い隠され、全く姿を見ることができませんでした。さらに、こちらも礼文島名物である強い風が吹くことによって尾根沿いの道を歩く歩道は初夏とは思えない寒さでした。


霧につつまれた礼文岳山頂(6/6)

翌日6月6日午後から礼文岳に登った時も山頂付近は濃い霧に覆われていました。晴れていれば山頂からは360度のパノラマが望めるのですが、この日は自分の登ってきた登山道すらほとんど見えない状況でした。このような状況では360度の眺望など望めるはずもなく、逆に山頂に一人でいるとやや心細い感じさえします。
 しかし、霧が発生することは悪いことばかりではありません。むしろこの霧こそ礼文島の高山植物たちにとって恵みとなっているのです。高山植物が多く生息する礼文島の西海岸はほとんどが急峻な斜面もしくは断崖絶壁となっています。そのような場所にも高山植物たちは自生しており、そこには川など水の供給源はありません。しかし、そんな高山植物たちにとって強い味方となっているのがまさにこの霧なのです。雨が降っているわけでもないのに着ているものがじっとりと湿ってくるほどの水分を含んだこの霧が、植物たちが生きるために不可欠な水分を与えているのです。
 ただ、今年の6月は例年に比べて霧の発生する日が少なく晴天の日が多くなっています。そのため、心なしか花にも元気がないように思えます。地元の方によるとこれから霧が発生する日が多くなるだろうとのことですが、やはり6月の花は霧が出ているときの方が活き活きしているように見えます。(キジムシロやカラフトハナシノブなどのように晴天でないと花を開かない種もありますが…)また、白い花や黄色い花は太陽光が強いと光を反射してしまい、花の色や形が見難いことがあるのに対し、霧の中では色や形がわかりやすく(視界が利く範囲での話ですが)露を帯びてキラキラ光る姿は非常に美しいです。


霧の中の花々(6/6礼文岳)
上段左:ツマトリソウ(サクラソウ科) 上段右:ヒメゴヨウイチゴ(バラ科)
下段左:ツルシキミ(ミカン科)    下段右:ハクサンチドリ(ラン科)

霧が発生すると視界が悪くなり、西海岸の海食崖に代表される雄大な景色を楽しめなくなってしまうのは残念ですが、その一方で目の前のお花畑では高山植物たちが湿気をたっぷり含んだ霧から命の源を得て、活き活きとした姿を見せてくれているのです。