北海道のアイコン

北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

知床学 ‐命と命のつながり‐

2012年11月12日
羅臼
以前より、町内や管内の小中学校で外来生物についての出張授業を行っていましたが、
今年度から行うことになった「知床学」授業について、ご報告をしようと思います。

「知床学」とは、
羅臼町の中学校・高校6年間の教育課程にあり、「知床羅臼町の豊かな自然と産業などについて理解し、郷土への誇りを持つ」ことを目的とした授業で、ヒグマや生態系などについて学年毎の課題に沿って学習をしています。
そして今年、全国では初となる町内すべての幼稚園・小学校・中学校・高校がユネスコスクールに認定されたこともあり、幼稚園や小学校でも「知床学」の授業を行うとのことで、環境省とも連携をして授業を行いましょう、ということになったのです。

こうして、小学3年生のクラスで「知床学」の授業を行うことになったのですが…。
なにせ、前例のない授業をすることになったわけですから、どんな授業にしようかとても悩みました。担任の先生とも何度も相談を重ね、大先輩から助言をいただいたりしながら、授業の立案、構成、組み立てなどをしていきました。


授業は、二日間にわたって行いました。
一日目の授業のテーマは、「命と命のつながり」です。

まずは、黒板に描いた知床の山と川と海に、それぞれ生息している動物たちがどう関わりをもって生態系は築かれているのか、絵を貼って確認してみます。

そこで登場するのが、かわいいキツネやヒグマ、クジラなどの絵。
実はこれ、授業を行う1ヶ月ほど前に、知床の生きもの調べをしていた子どもたち自身が描いたもの。貼るのは、事前に担任の先生にお借りしてコピーしたものです。
子どもたちは、自分が選んで一生懸命調べた生きものの絵が突然登場し、びっくりしながらも嬉しそう。



絵を黒板に貼って、その生きものが食べているものを書いてもらいます。



できあがったのは、これなーに?と聞くと、「知床の生態系!」と大きな声で返してくれる子どもたち。さすが、羅臼の子です。

知床に棲む生きものたちは、いろいろな食べ物を食べて生きている。
たとえばシロザケ。川で生まれ海で成長しまた川へ回帰する。
それをヒグマやキツネ、ワシなどが食べ、食べ残しや死体は山の栄養になる。豊かな山から流れ出るさまざまな成分が、川や海の大切な栄養となる。
山と川と海はつながっている。
命と命がつながっているっていうこと。

そして、知床の海は他にはない特別な海。
流氷が運ぶ植物プランクトンが動物プランクトンの餌になり、深い海峡に豊富な餌を求めた魚やアザラシ・トド、イルカ・クジラなどが集まる。

また、シレトコスミレやシマフクロウ、オオワシやトドなど、絶滅が心配される生きものも多く生息する。
多様な環境が多様な生きものの命を支え、複雑に絡み合う生態系がある知床は、大自然の見本のよう。

こんな素晴らしい自然は、ずっと残していきたいかけがえのない宝物だ、と
世界から認められた。
大事にしていかなきゃ!って世界が注目している。
それが、世界自然遺産に登録されたということ。



子どもたちにとっては、生まれ育ってきた知床の自然です。
「すごいことだったなんて、知らなかった。」
「当たり前だと思ってた。」
多くは漁業を営む家庭に育つ子。小さなころから食べ慣れているのでしょう、
「ホッケもサケもイクラもウニもカニもメンメも、当たり前にいくらでも食べられるよ!」
なんて贅沢な…。
でも、それも豊かな自然があるからこそ受けられる恵みです。

こんな素晴らしい自然がある知床ってすごい。
この自然は、これからもずっと続いていってほしい。
そして、もっともっとたくさんの人に知ってほしい。
続かせるために、ずっと残しておくためには、どうしたらいいんだろう。
また、自分たちにできることはなんだろう。
みんなで考えてみない?

こうして出しました、宿題。
「知床の自然を守るために必要なこと、自分たちにできること」を
二日目の授業までに考えてきてね、と。

3年生には少々難題ですが、きっと子どもたちなりに一生懸命考えてきてくれるはず、と信じて。

さて、子どもたちがどんなことを考えてきてくれたか、
また、二日目の授業がどうなったかは、次回の日記でお届けします。