アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
アイスがドリフトしている
2015年01月26日遅ればせながら明けましておめでとうございます。知床国立公園・ウトロの高橋です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
例年よりもすこし早い1月19日。冬の知床に、今年もTHE DAYがおとずれました......皆さんお待ちかね!イエス、流氷(英名: drift ice)です!!!
画像左の巨岩(オロンコ岩)付近がウトロ港。右は流氷に埋まるオホーツク海
数日前に、知床半島の付け根・斜里町以久科の海岸で流氷が見られたというニュースがあり、「そろそろウトロのほうまで来ないかな」と思いつつ巡視に出かけたところ、既にウトロまで流れ着いていました。
断崖上から流氷を望む。画像右の青い氷は凍結したフレペの滝
「流氷が海を覆うと寒くなる」と言われます。今でも十分寒いですが、これに輪をかけてとはいかなることか。流氷によって海にフタがされると、まるで陸地に変わったような状態になります。海面から蒸発する水蒸気が減って雲が発生しにくくなるため、晴れる日が増えます。晴天が続くと暖かくなる、かと思いきや、地表の熱をさえぎる雲がないため、放射冷却でむしろいよいよ寒くなる、というわけです。ようこそ......厳冬期へ。
そんな酷寒の気配を察知したのか、巡視に向かったフレペの滝遊歩道では、エゾシカの群れが身を寄せ合い、力を合わせて雪を掘り、一致団結して草を食んでいました。
♂が4頭、♀が38頭、という大所帯
エゾシカはそのヒヅメという足回りの宿命か、積雪が多いところでは埋もれて動けなくなってしまいます。これは「歩くのが大変」といったレベルではなく、文字通り「移動が不可能」になるため、そのまま餓死・凍死します。今なにかと話題のバックカントリースキー/スノーボード等でもそうですが、大量のパウダースノーの中で転ぶと、もがけども起き上がれず雪で溺れそうになることがあります(ありました)。それはエゾシカにとっても同じなんですね。なので、積雪の多い山からこういった海沿いの雪の少ない風衝草原に移動し、吹きさらしに耐えつつ、僅かな草木を食べて春を待っています。
僅かな草木から得たカロリーを相撲で消費する♂2頭と、見取稽古をする若い♂1頭
今でこそ人間は安定して冬を越せますが、かつてはエゾシカ達同様、相当命がけだったんだろうなあ......とシカを見ていてしみじみ思います。というわけで、流氷を楽しみに知床へいらっしゃる際は寒いので、人類の英知の結晶・暖かい服を着込んできてください!