アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
自然再生の現場へ
2015年09月17日9月に入り、気持ちの良い天気が多く、
すがすがしい気持ちになっているサロベツの青山です。
そんな天気に恵まれた9月8日、東京より法政大学の先生と生徒さんあわせて30名ほどが、
研修でサロベツに来られました。
「国立公園の魅力を支える地域活動に触れる」Field Studyの場とし、
利尻礼文サロベツが選ばれたのです。
2泊3日の行程でサロベツに2日間の滞在中、
サロベツの自然について見たり聞いたり、植樹するため育てている畑での作業体験をしたり、地元の方からサロベツへの思いを聞いたりなど、盛りだくさんの内容です。
その中に、環境省からのレクチャーの時間も3時間程あり、私もレクチャーする自然保護官に同行してきました。
まずは室内で、利尻礼文サロベツが国立公園になるまでの経緯と、なぜ自然再生を行っているのかという話から始まりました。
始めに「湿原は守るべきだと思う人?」という質問に、学生の大半が手を上げました。
最近では「湿原=守るべき場所」が当たり前になっています。
しかし、そうではなかった時代がありました。
利尻礼文サロベツ国立公園は昭和49年に指定されましたが、その前進である利尻礼文国定公園時代にはサロベツ湿原は含まれていなかったことからも、その片鱗が伺えます。
サロベツでは戦後になって本格的に農地開拓が始まりましたが、
その時はいかに湿原から水を抜くかが課題となっていました。
農地開拓を進めるにあたり湿原の調査(サロベツ総合調査)をする中で、サロベツは日本最大級の高層湿原が広がっている「守るべき場所」だと言うこともわかってきたのです。
開拓があったからこそ、湿原の大切さに気づいたこのサロベツでは今、
湿原と農業(酪農)の共生を目指して、様々な自然再生の取り組みが行われています。
今サロベツでおいしい牛乳を飲むことができるのもそのおかげです。
是非こちらに来た時には飲んでみて下さい!
そして室内でのレクチャーを踏まえ、自然再生を行っている2カ所を実際に見に行きました。
普段は調査などで申請した人しか入ることのできない場所です。
環境省で行っている自然再生は、人の手が加わった事で起こった意図しない自然の変化を食い止めようという試みです。
その現場として見に行ったのが、かつてサロベツ原生花園として使われていた場所です。
下の写真にある水面は、以前ビジターセンターが建っていた場所です。
ビジターセンターを作ったことで、盛土による地盤沈下や湿原の乾燥、植生の変化などが
起こってしまいました。
建物を撤去し、盛土をはぎ取り、泥炭の埋め戻しなどを行い、
湿原植物の回復をはかっています。
続いてこちらは、牧草地を通らせてもらい湿原と牧草地が隣接している場所で行われている
自然再生の現場を見に行くところです。
牧草地は水を抜きたい!湿原は水を保ちたい!
その両者の希望を叶えるべく作られたのが、「緩衝帯(かんしょうたい)」です。
「緩衝帯」を間に置き、牧草地側の水路は水位を低く、湿原側は水位を高くすることで
両者の希望を取り持っているのです。
こちらの自然再生は環境省ではなく、北海道開発局で行っているものです。
この「緩衝帯」で水が保たれた湿原の中で、また別の自然再生を環境省が行っています。
自然再生は環境省だけで行っているものではありません。
また、緩衝帯となっている土地は農家さんから提供されたもので、地元の方々の協力もあって成り立っている事業と言えます。
自然再生を行っている現場と言っても、行くとただ湿原が広がっている場所です。
今、目の前で何かが劇的に行われている訳ではありません。
しかし昔の写真と比べたり話を聞きながら見ると、
悠久の時の中での人と自然の関わり、そして人の努力により広がっている景色なのだと実感できる素敵な場所だと思います。
そして未来のサロベツで、私たちが過去からの橋渡し役になっていられるよう、
何ができるのかを考えさせられる場所でもあります。
学生さんたちはどの様なことを感じたでしょうか?
環境省が自然再生を行っている3カ所へご案内する
「サロベツ・エコモー・ツアー2015」を開催致します。
全3回の第1弾は9月19日(土)の開催です。
目指すは、泥炭採掘跡地です。
過去と今と未来を、このサロベツで感じていただければと思います。
詳しくは下記をご覧下さい!
http://www.sarobetsu.or.jp/center/
当日、現場でお待ちしております!