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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

崇高なる山々

2016年01月29日
大雪山国立公園 渡邉 あゆみ
北海道の冬は長いと言いますが、一口に冬と言っても初冬・厳冬・晩冬・初春など様々な表情があり、今は厳冬期。 一年の中で最も寒い今が、最も胸が躍るシーズンという人も多いでしょう。私もその一人です。 住民の方から「スノーモビル乗り入れがあるようだ」と情報が寄せられたため、週末に乗り入れがあったか走行跡を確認しに月曜の朝、とある場所に向かいました。 大雪山国立公園の一部の地域でスノーモビルの乗り入れは禁止・規制されており、スノーモビルが発する騒音は野生動物の営巣を妨げることとなります。実際に、大雪山には貴重な動物たちが暮らしていて、その暮らしが脅かされるのは見逃せません。 -20℃まで冷え込んだ朝。子供の頃は通学中にダイアモンドダストはよく見ていましたが、最近は暖冬でそれも見ることもめっきり減りました。寒いを通り越して、シバレル、と北海道弁が飛び出します。(シバレル=北海道の方言で厳しく冷え込むの意) 車から降りると低温で顔もヒリヒリと痛みますが、スキーシューで歩き始めると徐々に体に暖かい血が巡り、手足が順調に前に出ます。 目的の場所へ辿り着き、野ウサギやキタキツネ、スキーを履いた2名のトレースだけがあるのを確認し、別の場所へ向かいました。 この日、そこではスノーモビルの走行跡はありませんでしたが、今後もパトロールを強化し、今シーズンはもう少し深いところまで調査が出来そうです。
夏は高山蝶がヒラヒラと舞い、残雪のすぐ横には広大なお花畑が広がり、楽園を感じさせてくれる大雪山。 そのお花畑には気持ちよさそうにキタキツネが日向ぼっこをしていたり、運が良ければ遠くの斜面で草を食んでいるヒグマを見ることも出来るでしょう。雄大な山並みと野生動物たちが長い間同じサイクルで営みを続け、共存してきた大自然は、人々を癒やし、励まし、それが心の深いところまで届くと自然に対して敬いの心が芽生えてくることでしょう。 一方、冬は装いを変え、山で暮らす動物たちは眠りにつき、そこに入るものに対し過酷な環境を突きつけます。ラッセルに喘ぎ、風雪に叩かれ、吹雪が途切れたとき一瞬見れる山の輪郭や猛烈に舞い上がる雪煙。 無言の山と響く風雪だけがあり、人間の小ささを知り、太刀打ち出来ない偉大なものへの畏怖の念と、聖域とも思える場所に足を踏み入れる歓喜の念が岳人を奮い立たせ、白い山へ向かわせるのでしょう。
どうかこの聖域にエンジン音や騒音が駆けまわることがありませんように。 白銀の富良野岳を眺望