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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

歩いて自然界にかえりました。

2016年06月17日
苫小牧 平 尚恵

みなさん、こんにちは。

ウトナイ湖の平です。随分とご無沙汰をしてしまいました。

      

先日、北海道ではあまり名前を聞かない鳥が保護されました。

顔が黒くて目が赤い、クチバシと足が長くて、クチバシの先が "しゃもじ" みたい。

この鳥なーんだ?

 

 kuroturaherasagitach

 

 

正解は「クロツラヘラサギ」です。

 

クロツラヘラサギは、中国東部から朝鮮半島のごく狭い範囲で繁殖し、日本には少数が、主に九州地方へ冬鳥もしくは旅鳥として渡来し、北海道には迷鳥としてやってきます。

 

この個体も長旅の末に北海道へたどり着いたようで、発見当初は衰弱して飛ぶことが出来ず、大至急ウトナイ湖野生鳥獣保護センターへ搬送されました。

 ※保護当初は体重が1,250gと(標準平均1,580~2,200g)、とても痩せていました。

搬送後はセンターでエサのワカサギを沢山食べ、容態も回復したため、先日、無事にリリースすることが出来ましたので、その様子をご紹介します。

  

当日は天気もよく絶好のリリース日和でした。

今回のリリースは積田Rが行い、私は斜め後ろでビデオ撮影です。

 

それでは早速、段ボールのフタをオープン!!

 

   ・・・が、なかなか出てこない。

 

積田Rが段ボールをさらに傾けます。

(私がビデオを撮っているので積田Rは写真係なのですが、段ボールを支えているのでカメラが持てない。)

なおも、段ボールは傾くがクロツラさん、お出にならない。

 

ついに、積田R、段ボールを横倒し!!

 

その時、出ました!!!

 

さっそうと羽ばたき、優雅に空に舞うのか!!と思いきや。

 

クロツラさん、ゆっくりと一歩一歩、水の感触を確かめるように歩いておられます。

そして、ちらっと積田Rを見て、小走りで遠ざかる。

 

15mほど離れた先に移動し、今度はクチバシを水の中でパクパクさせながら、左右にフリフリ。

たぶん、「何か食べ物ないかな~。」という感じ。

 

kuroturaherasagi

 

 

そして、ゆっくりと歩を進め、ヨシの向こうの水たまりへ。

次は、バッシャバッシャ!! ブルブルブル。 

きっと、「久しぶりの水浴びだーー!!キャッホーイ。」と言っていそうな感じ。いや、そう聞こえました。

 

じっくりと羽繕いを始めたのを見届けて我々は車に戻り、「無事に終わって良かったね。」なんて話していると、上空を白い陰がまっすぐに海に向かって飛んでいるじゃありませんか!!

  「おいおい、そっちは海しかないぞー!!まだそんな体力ないだろー!!落ちるぞー!!!」

こちらの心配をよそに、グングン飛んで行きます。

気持ちよさそうに、また周囲の状況を確認するかのように大きく旋回し、ヨシ原の奥へ滑空して降りていきました。

こうして無事に、クロツラヘラサギは "歩いて" 自然界へ戻っていきました。

 

 

力強く飛ぶ姿も見られて一安心ではありますが、クロツラヘラサギは北海道ではほとんど見ることが出来ない迷鳥です。

そこで、新たな心配ごととして、珍しい鳥について回る問題が、カメラマンによる追い回しです。

中には、わざと野鳥を追い回し、飛び立つ瞬間を撮影しようとするカメラマンもいます。

  

追い回された野鳥はその場所を危険と判断し、数少ない好条件の場所を捨て、新たに危険を冒して他の場所を探さなくてはならないこともあります。

 

このように、この位は良いだろうという安易な行動が、野生動物の本来の生活リズムを狂わせてしまうかもしれないことを常に意識し、お互いの気持ちの良い距離を保つよう心がけていただければとても嬉しいです。

 

この夏、道内でクロツラヘラサギを見かけた方は、もしかしたらこの個体かもしれません。

その時はどうぞ、遠くから優しく見守ってあげてください。

  

  

Platalea minor クロツラヘラサギ】

分布:九州地方に少数が冬鳥、旅鳥として渡来、北海道ではまれ(迷鳥)

   中国東部から挑戦半島の狭い範囲で繁殖

生息環境:干潟、水田、湿地、河川、湖沼

エサ:小魚、エビ、カニ

英名:Black-faced Spoonbill

※「日本の野鳥650 平凡社」「北海道野鳥図鑑 亜璃西社」より

 

★小豆知識★

クチバシ表面の波模様で個体識別が出来るらしい。

 

kurotura