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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

100年後も守り続けていくために

2016年12月26日
大雪山国立公園

皆さん、原始が原湿原をご存知ですか?

原始が原湿原は大雪山国立公園の最南端に位置している1000ha(東京ドーム210個分)の広大な湿原です。

湿原には木道が敷いてある、もしくは展望台から眺める等が一般的ですが、原始ヶ原には木道や展望台、明瞭な登山道さえなく、湿原の好きな場所を歩ける日本の国立公園では大変珍しい場所です。今までそれが出来ていたのは、原始ヶ原の入山者が少なく踏圧によるインパクトが最小限で済んでいたからですが、最近その湿原も裸地化・複線化が進み、何らかの対策が必要だと地元や環境省で考えはじめ、調査や植生復元を始動しました。

そんな原始ヶ原について考えるため12月4日(日)、シンポジウムを富良野市で開催しました。

シンポジウムのプログラム①の特別講演は、株式会社モンベル代表取締役会長兼CEOの辰野勇氏から「地域活性を考えるアウトドアスポーツ7つのミッション」というタイトルでモンベル社が取り組んでいる事業の紹介をして頂きました。

7つのミッションには、青少年や子供への野外活動プログラムや、自然災害への対応、エコツーリズムによる地域経済の活性などがあるのですが、ご紹介頂いた様々な事業の中で特に印象的だったことは、冒険を応援する「チャレンジアワード」や「チャレンジ支援プログラム」事業でした。オモシロイのが、成功したものに対して賞を出すのではなく、チャレンジしている現在進行形のものに対して賞(軍資金)を贈っているのだそうで、何もないものを1から創り上げていくにはエネルギーやリスクが要るけれど、それを冒した先にある達成感や満足感を味わうことが人間にはとても大切だと辰野会長は考えており、大小様々な冒険の応援をしているのだそうです。

次に自然災害への対応です。1995年に起こった阪神大震災のとき、まだ大企業ではなかったモンベル社は全国各地のアウトドア協会等の支援を得て「アウトドア義援隊」を立ち上げ、テントや寝袋等の救援物資を寄付したそうです。それは2011年東日本大震災でも再発足し支援活動を行いました。大津波の被害で、遺体の収容に大変な時間がかかったと捜索隊から聞いた辰野会長は被災地から本社に戻ってすぐに、失神しても気道が確保できる枕や救助を求めるための笛が付属しているライフジャケット「浮くっしょん」を製作したそうです。「大きな津波が来たとき、浮くっしょんで命は助けられないかもしれないけど、沈むことはないから遺体の収容は早くできる」という現地の痛切なる声を聞いたからこそ開発できた活きた商品だと思いました。

辰野会長の柔軟なアイディアや若々しいエネルギー、フットワークの軽さは、自然から多くことを学び実体験を重ねた知恵と経験からみなぎってくるものなのでしょう。バイタリティーに溢れた貴重なお話を聞くことが出来、大変光栄でした。また大らかなお人柄もとても素敵でした。

プログラム②は、富良野市役所と原始ヶ原のルート調査や整備を行った北海道山岳整備岡崎哲三氏から原始ヶ原コースの紹介や、市民登山会で行ったヤシネットによる植生復元活動、原始ヶ原の重要性についての報告がありました。

そして最後のプログラム③は原始が原に関わる行政や山岳会等7名+辰野会長による「原始ヶ原の利用と保全の在り方」についてのパネルディスカッション。

貴重な原始ヶ原を色んな人に知ってもらいたいが、来る人が増えれば湿原は痛んでしまう。それを今後どうしていくのか。

「人を入れる前に保全の重要性を認知してもらうことが必要」、「ガイド付きで利用を制限しつつ、保全の重要性や原始性の楽しさ・素晴らしさを知ってもらう」...等、辰野会長からは海外のいくつかの入山制限の事例をご紹介頂き、白熱した議論となりました。

人を受け入れるにしても、ただ単に重要性を唱えても登山者に響くことは少ないでしょう。登山者の質を求めるのにしても、それは受け入れる側の体制作り、伝え方の工夫、発信の仕方等にもかかっているのだと思いました。

私の中に思い浮かぶ原始ヶ原・・・

若草色の湿原が一面に広がり、人工物は何もなく、正面には「独立峰」と化した富良野岳が大きく聳えています。ワタスゲがポンポン綿毛をつけ、足元をよく見るとトキソウやヒメシャクナゲが咲いています。エゾマツ林からはカッコウの声が聞こえ、時に湿原のぬかるみにはまりながら歩きます。派手さや飾り気はないですが、まさに原始的で素朴な印象です。私にとってはこれが原始ヶ原の当たり前の風景でしたが、もしかするとこれからは当たり前じゃなくなるかも知れない・・・。

100年後も、その先も、この湿原を歩く人たちがどうかこの素朴で原始な自然に出会えていますように。

良いお年をお迎えください。