アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
【日高山脈】ペラリ山 ~登山調査報告~
2016年12月14日こんにちは。えりもの近藤アクティブです。今回のAR日記では、ペラリ山での登山調査についてご報告いたします!8月以降、台風の影響もあって予定通りの調査ができなかったこともあり、ご無沙汰してしまいました。今年の登山調査報告はこれで最後となります。さて、ペラリ山という山をご存じでしょうか?ペラリ山は、日高山脈から西に離れたところにそびえる標高718mの低山です。気軽に登れる山でありながら山頂からは日高山脈を一望できるので、日高地方の隠れた名山と言える山かもしれません。
調査当日。風の弱い穏やかな日でしたが、初冬の凍てつく寒さに顔面が凍り付きそうでした。おそらく、氷点下なのでしょう、水たまりも凍っていましたので、防寒対策万全で望みます。駐車場からはしばらく林道を歩くのですが、体を温めるためのちょうどよいウォーミングアップといったところでしょうか。林道の終わりから登山道が続きます。道は不明瞭ですが、踏み跡をたどりササを漕ぎ分けて進みます。歩き始めて1時間少々で山頂に到達です。
東の方。秋も終わりを迎えた北海道。手前に見えるのはピセナイ山です。遠くに見える日高山脈の主稜線には真っ白な雪を見ることができます。ダケカンバの枝で若干見晴らしは悪いですが、白く輝く初冬の日高山脈に感動です。
西の方。太平洋の青い海がまぶしく乱反射しています。水平線の向こうには、樽前山も見えていました。山も海も楽しめるペラリ山。さすがです。
下山途中。静内御園に広がる牧場の景色を楽しみながらの下山です。ペラリ山は抜群の眺望にお手軽に巡り会える山でした。この景色を楽しむためには、葉をつける前か落葉の後の登山がオススメですね。以上、登山調査報告でした。ではではみなさま、また来年の報告をお楽しみに!
最後に
以上、AR日記の場をお借りして、えりも自然保護官事務所が行った登山調査についてご報告いたしました。ところで、当事務所が行う「調査」は他の事務所で行う「巡視」とは、何が違うのかと疑問を持った方がいらっしゃるかもしれません。そこで、私達が日高山脈で行っている「調査」について、その背景を説明いたします。長文になります。
<自然公園>-----------------------------------------------------------------------------------------------------
国立公園、国定公園および都道府県立自然公園の3種類を併せて「自然公園」と呼び、これらは自然公園法という法律や都道府県の条例に基づいて指定されています。北海道には、6箇所の国立公園、5箇所の国定公園および12箇所の道立自然公園があり、日高山脈は襟裳岬周辺地域とともに「日高山脈襟裳国定公園」に指定されています。
≪北海道の自然公園の区分≫
国立公園 |
国定公園 |
都道府県立自然公園 |
我が国の風景を代表するに 足りる傑出した自然の風景地 |
国立公園に準ずる 優れた自然の風景地 |
優れた自然の風景地 |
・利尻礼文サロベツ ・支笏洞爺 ・釧路湿原 ・知床 ・阿寒 ・大雪山 |
・大沼 ・網走 ・日高山脈襟裳 ・暑寒別天売焼尻 ・ニセコ積丹小樽海岸 |
・野付風蓮 ・松前矢越 ・厚岸 ・檜山 ・朱鞠内 ・天塩岳 ・斜里岳 ・恵山 ・狩場茂津多 ・北オホーツク ・野幌森林公園 ・富良野芦別 |
国立公園や国定公園では、「特別地域」内での樹木の伐採や工作物の建設などの行為が規制されています。これらの規制は、公園の最深部である「特別保護地区」で最も厳しくなっており、人里に近づくにつれて徐々に緩和されます。これらの地種区分は、「公園計画」によって定められています。よく、「国立公園は、国定公園よりもルールが厳しいんじゃないの?」という質問を受けることがありますが、国立公園と国定公園での行為許可の基準は、地種区分によって決まっており、同じ地種区分であれば基準は同じになります(都道府県立自然公園では、各都道府県の条例に従います)。国立公園の公園計画図は、こちら(自然公園財団HP)から確認できます。
<国立・国定公園総点検事業>-----------------------------------------------------------------------------------
平成19~21年度(2007~2009年度)にかけて実施された国立・国定公園総点検事業(環境省)(以下、総点検事業)では、生態系・地形地質の観点で重要な335の地域を抽出し、国立・国定公園の指定状況との相対的な比較(ギャップ分析)を実施しました。最終的には、18の地域が「国立・国定公園の新規指定」や「公園区域拡張」の候補地として選定されました。その後、いくつかの候補地では区域の拡張や新規指定などが行われました。以下に、例を挙げます。
■候補地(地域) |
■選定後の動向(年/月) |
慶良間諸島沿岸海域(沖縄) | 沖縄海岸国定公園の一部を編入し、慶良間諸島国立公園を新規指定 (2014/3) |
由良川及び桂川上中流域(近畿) | 京都丹波高原国定公園を、新規指定 (2016/2) |
西表島及びその沿岸海域(沖縄) | 西表石垣国立公園の、公園区域拡張 (2016/4) |
やんばる(沖縄) | 沖縄海岸国定公園の一部を編入し、やんばる国立公園を新規指定 (2016/9) |
・出典 - 国立・国定公園の公園区域及び公園計画の見直し(環境省)
<日高山脈襟裳国定公園>----------------------------------------------------------------------------------------
総点検事業では日高山脈は以下のように評価され、夕張山地とともに、「日高山脈・夕張山地」として、候補地のひとつに選定されました。総点検事業では、以下のようにあります。
≪日高山脈の評価≫
日高山脈は、日本列島の形成過程を反映して形成された雄大な山脈に加えて、氷河時代に形成された地形など、傑出した地形地質が集中して分布する。これらの地形地質や歴史を反映して、植物や高山蝶等に固有種・遺存種が多数みられる。また、高山から山麓部にかけて広がる自然性が高くまとまりがある国内最大規模の森林は、哺乳類や鳥類等の野生生物の重要な生息環境となっている。これらのことから、現在の国定公園区域と一体性のある傑出性の高い地域である。
-国立・国定公園総点検事業(環境省)
以上のように、日高山脈は特徴的な氷河地形とその豊かな森林生態系が評価され、今後の方向性として「国立公園の新規指定(現在の国定公園を含む)又は国定公園の拡張」を見据えて、「候補地における自然環境や利用状況の調査、保護や公園利用に関する計画の検討、関係者との調整等を行い、具体的な区域の指定」を検討することとなっています。現在、環境省では情報収集を行っている段階であり、その一環として、当事務所では日高中部~南部での「登山調査」を行っています。以上が、当事務所が「巡視」ではなく、「調査」を行っている理由となります。うまく伝わったでしょうか?
今すぐにということはありませんが、日高山脈の将来のありかたについて何らかの結論を出すことが必要です。そのためには、山に親しみ・山の恩恵を受ける全ての方々と共に時間をかけて考えていくことが必要だと私は思います。この日記が、みなさまが日高山脈の将来について考えるための一助になりましたら幸いです。
参考HP
環境省HP
外部リンク