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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

今だ、発動せよ、知床半島ヒグマ管理計画

2016年12月19日
ウトロ 高橋 優太

 今年の道内はまとまった雪が降るのが早く、人間に限らず動物たちも冬支度に追われているのでしょうか。ヒグマなどはもう冬眠しているかもしれません。

ヒグマらしきが見えるヒグマがいた

してなかった

 川の河口などは雪も少なく、サケのホッチャレ(産卵を終えて瀕死のサケ)が泳いでいます。こういった食べ物がある限りヒグマは冬眠せず、寒さに耐え、ギリギリまで餌をとり続けると聞きます。

 この忘年会シーズン、私もギリギリまで料理を食べ続け食品ロスを減らしていきたい知床国立公園・ウトロの高橋です。(30・10運動に賛同しています

 さてヒグマと言いますと、去る12月4・5・6日の3日間にわたり、知床半島にある3つの自治体、標津町・羅臼町・斜里町で「知床半島ヒグマ管理計画」についての住民説明会が開催されました。最終日の斜里町民向け説明会は、ウトロにある知床世界遺産センターが会場です。

ヒグマ管理計画住民説明会を開催しました

斜里町外からも含め、約30名の方がご参加くださいました

 「知床半島ヒグマ管理計画」......物々しい響きですが、かいつまんで言いますと「知床半島の住民が、この先5年間、ヒグマとどう折り合いをつけていくか」、その方法を具体的にまとめたもので、2012年に策定された「知床半島ヒグマ保護管理方針」の改訂版にあたります。

 ヒグマ管理計画の目的は2つあります。

1. 住民の生活・産業を守り、来訪者の安全・自然体験の場を確保する

2. ヒグマの生態・個体群を将来にわたって持続的に維持する

 と、このように人の利益だけではなく、ヒグマにとっての利益も目的に掲げています。人とヒグマの間の軋轢を減らし、より良い関係を築くことを目指しています。

 住民説明会では最新のヒグマ出没状況やこれまでの課題、そしてヒグマ管理計画の概要が説明されました。

管理計画の概要を説明する前田自然保護官

管理計画の概要を説明する前田自然保護官

 過去5年間を振り返ると、未曾有のヒグマ大量出没&大量捕獲、激やせヒグマが全国ニュースで報道、食品ゴミやサケの不法投棄、観光客やカメラマンがヒグマを取り囲んで写真撮影、釣り人がヒグマに物を奪われる、等々......他にも色々なことがありました。これらを通じて2016年現在、最も問題視されているのが「繰り返し人前に出てくるヒグマの出現」です。こういったタイプのヒグマの存在が、追い払いや捕獲件数のわりに、危険事例の発生や出没件数が減らない大きな原因になっています。

 今回のヒグマ管理計画では、この繰り返し出てくるヒグマに関連した対策が盛り込まれており、今後5年間のキーポイントになっています。具体的には次の3つになります。

1. 人間に対する働きかけの強化

2. 繰り返し出没するクマへの働きかけ

3. 目標の再設定、モニタリング体制の強化

 クマへの働きかけ以上に、人間に対する働きかけに力を入れた内容になっています。これは、過去5年間のヒグマとの軋轢の中でうまれた「クマを変えようとしても簡単ではない。人が変わる方が早いし効果的だ」という考えからです。そして何より「繰り返し人前に出てくるヒグマ」の出現の陰には、人間側にも不適切な行動があったためです。そういった過去の事例に学び、知床半島というエリアならではの「人間側の問題行動・人間側に求められる行動」をとりまとめ、具体的に明文化したのが本計画最大の特徴です。

不適切な行動・求められる行動

管理計画では、具体的な人間側の問題行動を挙げ、立場によって求められる行動を定めている

 今回の住民説明会でいただいた意見を踏まえ、来年3月までに「知床半島ヒグマ管理計画」を正式に決定します。その後は同計画に基づき、2017年から2022年までの5年間、知床半島のヒグマ対策に関連した諸活動が進められていきます。我々同様この知床半島に暮らし、時に恐ろしく、時に憎らしく、時に愛らしい隣人もとい隣獣ヒグマ。5年後、彼らとより良い近所づきあいができていることを望んでいます。