アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
シマフクロウに関する取り組み
2018年07月12日みなさま、こんにちは。
今回はシマフクロウ標識調査の結果報告などシマフクロウに関する取り組みについて紹介します。
今年も5月中旬ごろより、シマフクロウ標識調査が実施され、1ヶ月以上に及ぶ調査が続きましたが、無事を標識調査を終えました。
標識調査の風景(写真左)と標識調査実施後のヒナの様子(手前が月齢の若い個体)(写真右)
このシマフクロウ標識調査は、環境省保護増殖事業の一環として行われているもので、ヒナの足に足環を装着するものです。足環を装着することで、個体識別が可能となり、その後の行動や繁殖状況など、生態を把握することができます。また、標識調査時には、血液や皮膚組織の採取を行い、性別判定やDNA解析を行っています。この取り組みによって、シマフクロウの生態が分かってきています。たとえば、今年度、繁殖が確認されたつがい(ペア)の中には、1989年生まれのオスがいることが分かりました。1989年生まれというと、今年29歳となります。野生界で30年近く生きている、そして今年も子育てをしているとことが分かりシマフクロウの寿命や繁殖能力を知ることができます。
その他、DNA解析の研究により、北海道に生息しているシマフクロウは、ユーラシア大陸に生息している個体(亜種)とおよそ67万年前というはるか昔の時点で分化しているという事が判明しました(OMOTE et al. 2018. J. Raptor Res. 52(1):31-41)。となると、世界の中でこの北海道にしかいない生き物であるという、とても希少な生き物である可能性があります。
そんなシマフクロウですが、先日7月10日、シマフクロウ標識調査の結果が報道発表されました(※)。今年の標識ヒナ数は、32羽と過去最高の標識数となりました。近年の標識ヒナ数は、毎年多少の増減はあるものの、長い目で見ると少しずつ増加しています。今年、標識したヒナが無事に巣立ちし、しばらくは親と共に暮らした後、独り立ち、さらに数年後、大人へと成長し親となってくれることを願うばかりです。
今後の取り組みとしては、若い個体が生息・定着でき、子育てできる場所を増やす取り組みも必要になってきます。なぜかというと、今シマフクロウがいる場所はすでに、そこを縄張りにしているつがい等が定着しているため、若い個体たちは別の場所に移動しなければならないためです。生息地拡大に向け、先月、シマフクロウ研究者や林野庁職員の方と、現在つがいが確認されていない地域における環境調査に同行しました。餌となる魚が多く河川に生息しているか、シマフクロウという大きな鳥が子育てするために必要となる巨木(樹洞と呼ばれる穴があるような巨木)や、自分自身の身を隠せるような森林があるかなど現地確認しました。
調査の様子(写真左)と計測の様子(樹種:ハルニレ)(写真右)
調査の中で、いくつか直径の太い木を確認し、「この木はいったいいつからここに立っているのだろう...」と思いながら計測などを行いました。
調査中に確認した大木(樹種:カツラ)
調査の結果から、シマフクロウの生息環境として不足している要因などを考え、シマフクロウが定着できるような環境作り(生息地環境整備)を行っていく予定です。なお、この調査には、NHK記者の方も同行され、事後の話となってしまいましたが、「シマフクロウ保護に新たなうごき」という題目で7月6日、ほっとニュース北海道で放映されました。もしも、番組を見たという方やシマフクロウについて興味を持って頂だけたらとても嬉しいです。
シマフクロウが生息する場所には、多種多様な動植物が生息しています。シマフクロウ以外にも、希少な動植物がそこに生息しています。その世界が減らないように、活動を続けていきたいと思います。
※報道発表資料は下記のリンクよりご覧頂けます。
http://hokkaido.env.go.jp/pre_2018/30_1.html