北海道のアイコン

北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

瀕死のオジロワシを搬送しました

2019年03月15日
苫小牧 平 尚恵

皆さん、こんにちは。

冬になると北海道各地で、極東ロシアから越冬のために渡ってきたオオワシやオジロワシを観察することができます。

ozirowasi

流氷に舞うオジロワシ

(羅臼自然保護官事務所)

そんななか、道央でオジロワシを収容しました。

保護してくださっている方から連絡をいただき現地に到着したときには、すでにオジロワシの衰弱が激しく、目をかろうじて開けていられるくらいの状態でした。通常なら人が触れようとすると威嚇して暴れるのですが、この個体は全く抵抗することがなく、呼吸が弱く目を力なく瞬くだけでした。

さらに、オジロワシ特有の白い尾羽に緑色の便が付着していることに気付き、私の不安は一気に増しました。うつろな目、緑色の便、これは十分に鉛中毒の際にみられる症状を現していたからです。

midoriben

尾羽に付着した緑便

交通事故などで骨折した状態で保護されたオジロワシでも、移送ケージに移すときなど暴れて力一杯に抵抗するのですが、今回の個体は本当に気力も体力も突きかけているといった様子でした。

個体の体力を少しでも保つために車内をなるべく暖かく保ち、獣医さんとの待ち合わせ場所に向かいました。

駐車場で待っていてくれた獣医さんの車は大きなバンで、車内には診察台が備えられており大抵の処置ができるように設備が整っています。保護状況の説明を聞いた獣医さんが、急いで採血を行い血中の鉛濃度を計測すると、計測できないほど高いレベルでした。普通なら、数値ででるのですが写真のとおりHighと表示され、測定可能な範囲を振り切ってしまっていました。

high

血中鉛濃度の計測機器

獣医さんが、オジロワシの両足に補液、ビタミン剤を注射し、鉛を吸着して体外に排出するためのキレート剤を翼角の静脈に注射しました。

酸素が出ている保育器のなかに個体を寝かせ、ここからは獣医さんが釧路湿原野生生物保護センターまで搬送します。私は、この個体の無事を願いながら、未だに無くならない鉛による猛禽類の被害に憤りを感じなら事務所へ戻りました。

oziro

力の無い目をしたオジロワシ   

今回のオジロワシがどのようにして鉛を体内に取り込んだのかはっきりしたことはわかりませんが、1つの可能性として、エゾシカ猟の際に使用された鉛弾を受けて死んだシカを、オジロワシが食べるときに謝って鉛弾の破片も一緒に誤飲したことが考えられます。※鉛弾は使用、所持が禁止されています。

鉛弾で捕殺したシカを適切に処理せずに林内に放置した場合、そのシカの死体はワシを含む野生動物に食べられます。自然界において獲物を奪い合う場合、力のある個体から順に獲物にありつくことができます。つまり、本来生存能力が高く子孫を多く残すであろう個体から、鉛散弾の被害に遭ってしまうのです。

今回のオジロワシも立派に頭部が白くなった、成熟した固体でした。

人の生活に起因する野生動物の死は様々な原因があります。例えば、交通事故、建物や風車への衝突、生息地の破壊など私たちの生活とは切り離せない理由が大半です。ただ、この鉛中毒に関しては鉛を自然界に出さないという、ただそれだけのことで防ぐことができる死因なのです。

遙か極東ロシアからはるばる渡ってきたワシたちが、安心して冬を過ごすことの出来る北海道でありたいと、そう強く願っています。

hoikuki

保育器に入って釧路へ向かう