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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

2019秋サケ定置網漁

2019年10月25日
えりも自然保護官事務所 熊谷 文絵

こんにちは! えりも自然保護官事務所の熊谷です。

今回は、約3ヵ月と長期戦の調査のお話です。

えりも町では「秋サケ定置網漁」真っ只中。8月末~11月中旬までえりも町全域で行われています。

ここ三年記録的な不漁続き...今年こそと期待が膨らみましたが、今のところ昨年よりも水揚げは少なく、大変厳しい漁模様となっています。。ただ、魚体はとても大きく立派なものばかり!!

▲この日一番大きいものを測ってみました!なんと5㎏超え!

私たちが秋サケ定置網漁に併せて実施している「乗船調査」は、襟裳岬に生息するゼニガタアザラシによる食害の程度を把握し、食害を減らす対策を講じるための調査です。

では、調査スタート!

<4:20>

まだ暗いうちに出発!そろそろこの時間は吐く息が白くなってきました。

<4:45頃>

港到着、早速乗船スタイルに。船の上では一身に風を受けて体温が下がりますが、網興しはとても体力を使うため終わる頃には暑くなることも。船上で脱ぎ着をしている暇がないのでどれだけ着込むか悩みます。。

上下合羽・手袋に救命胴衣、ヘルメットも被ります。カゴには水中カメラや調査用紙が入っています○

▲平野保護官は着込む派。熊谷は暖まりすぎると酔いやすいので、やや寒いくらいにしています。

<5:10>

船に乗り込み、出港‼8月末~10月頭まで比較的暖かい日が続きましたが、最近は風の強い日・時化ている日が増えてきて、海況厳しく"えりもらしく"なってきました◎

<5:20~5:30>

漁場に到着!

魚の溜まった網をみんなで引き寄せます。魚が多い時は写真のようにタモ網を使い、船のタンクに移していきます。

定置網には水中カメラを設置して(写真右)、魚や網に近づくアザラシの様子を撮影しています。

ひとつの船で興す網は4か所ですが、潮の流れが速かったり時化がひどく全て興せない日も珍しくありません。。

乗船時、私が意識するのは...

①漁師さんのお邪魔にならないこと。

 風あり波あり船が動いている中での漁は、瞬間的に集中しなければならない場面ばかり。その一瞬の邪魔にならぬよう、その時の状況に応じて動きます。

②視界から消えないこと。

 時折、波が高かったり突風が吹くこともあります。その際、安全・確実に乗船していることを伝えるためにも、漁師さんの視界から消えない位置にいること、これは大事です。救命胴衣はもちろんヘルメットも、余計なご心配をおかけしないように、といった意味でも役立ちます◎

▼アザラシによる被害

獲れた魚の中には、アザラシによってサケの頭部が喰われていたり、爪の痕が残っています。これらは人間の食用としては流通せず、ツブの餌等に活用されています。

どんな風にどれだけの被害が出ていたか、毎日記録します。

<6:30頃>

全ての網興しが終わったら港へ戻ります。

▼荷捌きの様子

漁師のみなさんがオスなのかメスなのか、また重さにより分けられている区分ごとにすごい速さで仕分けしていきます。「毎日やっているから見たら分かるよ!」と瞬時に数十グラム単位で判別し分けるのだから、熟練の技です。

定置網はその場所へ泳いできた魚がかかるもの。サケばかりとは限りません。こんな魚も...

▲《ホウボウ》ヒレが美しい、暖かい海域の魚です。食味も良く、刺身や天ぷら等で食されます。えりもの漁師さんには馴染みがないようで、定置にかかることは珍しいそうです。

▲《イシガキダイ》この和名は、"石垣"を思わせる模様に由来しています。太平洋側では房総半島、日本海側では山口県以南に生息する魚なので、えりもで定置にかかるとは珍しい。

▲《フクラギ》出世魚であるブリの幼魚。おおよそ40㎝までを指します。「フクラギ」とは地方名で、関東圏では「イナダ」、関西圏では「ツバス」と呼ばれています。

このフクラギや、60cm以上のブリが多くかかるようになったのはここ3年とのこと。時にはサケより多く獲れることもあります。

▲《ボラ》小骨が多く刺身で食べるのには隠し包丁を入れるのが良いでしょう。昨年含め、定置網にかかったのは初めて見ました。

暖かい海で見られる魚がかかるようになってきました。温暖化の影響があるのでしょうか。。

その後、漁師さんや組合の職員の方とお話しながら、情報収集に努めます。

「この水じゃ魚は来ない」という漁師さんに「水温ですか?潮の流れ方ですか?」と質問をしながら、えりもの特殊な海況を教えてもらったり、環境省での被害対策の具合はどうか。今後どういったことに期待しているかなど...この時間に"これからのヒント"が詰まっていることが多く、とても勉強になります。

<7:30頃>

事務所へ戻り、回収した水中カメラの映像を確認します。

この日の映像から魚やアザラシの動きは得られませんでした...が、「この状況(海況や気象条件等)で魚やアザラシの動きが映らなかった」というのも調べたから分かること。貴重な記録となります。

そうこうしているうちに半日終了。今日の調査は終了です。

海の中は資源の動向が読みづらく、見込みよりもたった数℃でも水温が高ければ魚が来ないなど、"今期の普通"を見極めるにも日数がかかります。定置網にあまり魚がかからない時、アザラシたちはどう過ごしているのか、なんとかアザラシと意思疎通ができないものか...時にはヤキモキしますが、焦らず我慢!と自分に言い聞かせ、調査の毎日を過ごしています。