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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

秋のアザラシ調査ひと段落

2019年12月03日
えりも自然保護官事務所 熊谷 文絵

みなさんこんにちは。えりも自然保護官事務所の熊谷です。

雪が降ったり氷点下の日が増えたりと、すっかり冬になりましたね。

えりもにもこれまでに3~4回雪が降りました。ここでの雪は"深々と降る"という感じとは違い、降る雪がえりも特有の強風に煽られ吹雪のよう。ホワイトアウトに近い状況になります。運転など気をつけなければならないことも増えますが、空気の澄んだ北海道の冬が好きです。今シーズンはどんな景色に出会えるか、とても楽しみです◎

さて、8月末から約3ヵ月に渡り行われていた「秋サケ定置網漁」。11月20日をもって今年度の操業が終了し、ここに併せて行っていた乗船調査も終了となりました。

乗船調査の目的は、襟裳岬に定住するゼニガタアザラシによる漁業被害の程度を把握すること、被害軽減のための対策を遂行することです。

この乗船調査で行われている中から、"水中カメラ"について、活用する目的や利点・難点そして特に今秋にあったことをご紹介します。

●定置網に水中カメラを設置する

 水中カメラを設置することで、定置網に入る魚やそれら魚を追ってやってくるアザラシが、どのくらいのスピードで、どのような動き方で入網するかなどが分かります。動きが分かれば、この部分の網の強度を増しておこう、アザラシが通り抜けできない目合(網目幅)にしよう、など対策をすることが出来ます。

また、アザラシを近くで撮影できるため、からだの模様などから"以前近寄ってきていた個体がまた近寄ってきている"と分かる場合もあります。いくつも定置網がある中で同じ場所に映るということは、常習性があることが推測できます。

※魚の溜まる箱型の網にアザラシが入ってしまうと、魚をひっかいたり食べてしまい、被害が出ます。被害を減らすため、箱型の網の入口に、魚は通れるがアザラシは通れない格子状の網を取り付けています。

【成功例】

魚を追ってやってきたアザラシが格子の部分に頭部を突っ込み、中を覗く様子が良く映っています◎

【成功例】

格子網をくぐり抜け、画面奥から手前に入網する魚の様子が分かります◎

このように、冷たい海の中に長時間いることのできない私たちにとって「貴重な情報源」となっている訳ですが、「難点」もあります。大きな定置網を、魚を獲るため船に引き上げる際・海に戻す際、人力だけでなく機械を使って網を巻き上げているため、危険の無いよう何度もやり直すことは出来ません。カメラをつけるチャンスは1度きり。明日の網興しでカメラを引き上げ映像を確認し、そこでやっと、カメラを吊るすロープの長さや向きを調整する必要があるかないかが分かるということになります。新しくカメラをつける網では、カメラ位置が定まるまでに3~4日を要することもあります。

【失敗例】

カメラは2本のロープを吊るすように取り付けますが、片方のロープがほどけてしまい、映したいところが映りませんでした...。

また、えりもの海は栄養豊富。透明度が低く、撮影は出来ていても内容の分析ができないことも多いのです。

【失敗例】

人為的失敗ではありませんでしたが、濁りがひどく魚やアザラシの様子が読み取れません。

さらには、潮の流れが速いためにカメラが想像以上に偏り肝心なところが映っていないこともしばしば。

潮の流れが速いことや24時間冷たい水中に入れていることでバッテリーの消費が早く、それならばとバッテリーを増やせば、バッテリー同士の熱でカメラが止まってしまったこともありました。より長時間の情報を得られるよう、ビデオ撮影からタイムラプス撮影に変更してみたり、調査期間中も試行錯誤を続けました。

コロコロと海況を変える"えりも"においては、カメラひとつとってもスムーズに調べさせてもらえないもんだなぁ、と難しさともどかしさを感じます。

さらに気になったのは、今期も一定程度のアザラシ被害が出ているにも関わらず、期待したほどカメラ映像にアザラシが映らなかった点です。これはどういうことでしょうか。網の入口よりも手前で食べているのでしょうか... 現地調査が終わったばかり、これから調査結果をまとめ考察していきます○

9月には半袖シャツでも暑い日があったというのに、11月に入ると出港時0℃を下回る日も増えた上、強風や波しぶきを浴び、いくら対策をしても寒さに悶えました。

船上での作業は、それぞれの動作を船員みんなで、タイミング・力やスピードの加減を合わせたりと感覚が大事で繊細さも必要です。特に指先は重ねすぎても感覚が鈍ってしまうので、最後まで寒さ対策は悩ましかったです。

調査最終日はなんとも厳しい条件でした。

<出港時=5:30時点>

*降雪あり *気温:-2.3℃ *風速:25m/s 

出港後に強さを増した風、船の進むスピード...

風速1m/sにつき体感温度は-1℃とされています。この日私たちは一体何℃を体験したのでしょうか...‼

なんとも"えりも"らしい忘れられない最終日となりました◎

これだけの強風でも安全に操業できる技術は素晴らしいですね!

 

▼帰港時、完全防備も敵わず寒さに悶える平野保護官と熊谷。目が開きません...



アザラシ調査ひと段落、お疲れさまでした!