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北海道地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]

山と森の静寂を大切に

2020年02月07日
大雪山国立公園 上村 哲也

 今回は、自然を好み自然に興味を抱く登山者のみなさまに野生生物への配慮をいただきたいというお話しです。

 東大雪地域には、登山口まで舗装路が続き広い駐車帯があり登山時間が短い、とある山岳があります。そうして山頂の少し先の岩場にナキウサギが生息しています。山頂を往復するだけでなく、その岩場まで足を延ばす方が大勢いらっしゃいます。

 2019年3月30日(土)から11月2日(土)までの218日間を調査したところ、標準的な登山時間を1時間以上超える登山者が761人いらっしゃいました。入下山時刻を把握できた1584人の48%に当たります。滞在時間の最長は9時間余りでした。

 ナキウサギの生息域に登山者が滞在したと考えられる日数は66%の143日に及びました。平均では3日に2日ですが、最長では18日間続きました。

標準的な登山時間を除いた滞在時間別登山者数 生活の場所へ毎日のように人が訪れるというのは、ナキウサギにとって異常な状態とはいえないでしょうか。ナキウサギは静かで穏やかな暮らしを望んではいないでしょうか。

 特に人数が多く22組49人が滞在した9月21日(土)について、滞在時間の分布を調査しました。

 パーティごとに人数と滞在時間帯を調べ、時間帯を20分ごとに区切り、滞在人数を集計しました。8時20分から18時まで登山者が滞在し、11時20分から13時20分までは20人を超え、最多は12時から12時40分の32人でした。

9月21日(土)の登山者の滞在分布
7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1
3 3 3 3 3 3 3
1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
2 2 2 2 2 2 2 2 2
2 2 2 2 2 2 2 2
2 2 2 2 2 2
2 2 2 2 2 2 2
2 2 2 2 2 2 2 2 2
3 3 3 3 3 3 3
9 9 9 9 9
5 5 5 5 5
2 2 2 2 2 2 2 2 2 2
2 2 2 2 2 2
1 1 1 1 1 1 1 1
3 3 3 3 3
1 1 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 1 1
2 2 2 2 2 2 2 2
2 2 2 2 2 2 2 2 2 2
0 0 0 0 2 6 8 8 10 10 18 18 17 26 26 32 32 28 22 19 14 14 12 9 8 4 4 2 2 2 2 2 2 0 0 0

 ナキウサギは草食動物です。岩場周辺の植物が食べ物です。冬を過ごすための貯蔵なのか、ベッドの巣材なのか、巣穴へ運び込む光景も目にします。ナキウサギの愛らしさに目を奪われ、知らず知らずに周囲の植物を踏みつけていませんか。掘り巡らされた巣穴の上をゴトゴトと踏み鳴らして歩き回ってはいませんか。

 然別湖ではウチダザリガニが持つザリガニかび病(ザリガニペスト)によりニホンザリガニが見られなくなってしまいました。同じように、人にはなんともなくてもナキウサギは堪えられない菌やウィルスがあるかもしれません。人が持ち込んだものは、食べ物のひとかけら、飴の包み紙一枚も残してはいけません。

 入山前にはトイレを済ませ、携帯トイレも準備しましょう。

 観察は双眼鏡などを利用して十分に距離を置き、撮影には高い倍率の望遠レンズを用いたいものです。

 ナキウサギに代表される愛らしい野生生物たちが、これからも穏やかに暮らしていけるよう優しい心遣いをお願いします。