アクティブ・レンジャー日記 [北海道地区]
大雪山 ヌタプカウシペ
2021年03月03日総合型協議会への改組に伴い大雪山国立公園連絡協議会のウェブサイトをリニューアルすることになり、大雪山の山々を紹介するページにアイヌ語地名解説を加える機会を得ました。それらを調べる中で大雪山を表す「ヌタプカウシペ」に興味を持ちました。
ヌタプは湾曲する川に囲まれた土地を表すことがあるようです。例として挙げられるのは網走の大曲や新篠津の袋達布ですが、せいぜい長径で2km足らずです。アイヌのスケール感はどれほどだったのでしょう。旭川から大雪高原温泉辺りまで石狩川は大雪山を囲むように遡りますが、これもまたヌタプとして捉えられていたのでしょうか。旭川から層雲峡を越え石狩川本流を遡り、高根ヶ原を越えて天人峡に辿り着いたなら湾曲していることを知れたのかもしれません。
しかし、大雪山には別の答えがありました。「北海道の地名」(山田秀三著)の大雪山の項に次のとおりの記述があります。
石狩川上流に行った時に、同行してくれた近文の尾沢カンシヤトク翁に、どこかにそのヌタプがないでしょうかと尋ねたら、「あのヌタプは山の上の湿原のことだと聞いています。一段高くなった山の上に広い湿原(nutap)があって、更にその上に聳えている山だからヌタプ・カウシ・ペというのだ思っていました。」との答えだった。それなら地形的にはぴったりである。
とにかく分からなくなった山名である。参考のために聞き書きを書いた。これからも同好者によって検討して行ってもらいたい名である。
石狩川上流の一段高くなった山の上にある広い湿原とは何処のことでしょうか。山田秀三氏は石狩岳近くの源流部までは訪れていないようです。翁もまたその湿原を、そこからその上にある山を見てきたのではないようです。
沼ノ平でしょうか、裾合平でしょうか、はたまた高根ヶ原でしょうか。登山道からは少し離れているので、高根ヶ原に広い湿原があることを私は知りませんでした。
広い湿原の、更にその上に山が聳えているといいます。いずれの場所も確かに愛別岳や旭岳、白雲岳などがその上に聳えています。沼ノ原や五色ヶ原越しにトムラウシ山を仰ぎ見ると、ここもまた捨てがたいように思えます。あるいはその全てが当てはまり、この大きな山体をヌプカウシペと呼んだのかもしれません。
今年は、広い湿原のその上に聳える山、ヌプカウシペの光景を求めて山行を重ねよう、そう新年に思ったのでした。
絵は、大雪山国立公園からは外れたチトカニウシ山。チ・トゥカン・イ・ウシ(我ら・射る・いつもする・処)近くを通るときに矢を放ち吉凶を占ったのだそうです。
<参考文献>
山田秀三.北海道の地名.北海道新聞社,1984,586p.